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70_VSミゼーアの先端_その2

 もう少しでミゼーアの先端を次元の穴に押し込めそうだったが、破壊した部位が再生したせいで、僕たちは振り出しに戻されてしまった。


 頭のような部位が次元の穴を広げる役割と、各部位の再生を行っているのは間違いない。ここにダメージを与えていけば、ミゼーアの先端を次元の穴に押し込むことができる。


 僕たちが取れる作戦としては、部位を再生される前に一気に勝負を決めるか、邪魔な部位を搔い潜って頭のような部位へ直接攻撃するかの2択だ。


 しかし、頭のような部位へ直接攻撃するのは難しい。そうなるとやはり、先に舌のような部位と爪のような部位を先に倒しておく必要がありそうだ。さっきは惜しいところまでいったわけだし、もう少し効率を良くすれば押し切れないか……?


「もう一回、最初と同じ分担で戦ってみようか」

「そうだね、次はうまくいくかも」


 再び僕とヴァーリで舌のような部位を攻撃し、ヒカちゃん、季桃さん、心子さんに爪のような部位を攻撃してもらう。


「また倒せたよ!」

「こっちも仕留め切ったぜ」


 今度はほとんど同時に撃破することができた。前回とは異なり、既に爪のような部位を倒しているので季桃さんと心子さんも攻撃可能だ。


 跳躍して攻撃するよりも効率がいいということで、季桃さんは倒壊した建造物の一部や樹木を投げて攻撃を始める。投擲に適した物を探す必要があるために、ヴァーリの弓矢よりも効率は悪いがダメージにはなっている様子だ。


 攻撃力の無い心子さんは季桃さんのサポートに徹しているようだ。投擲できそうな廃材を探し出しては、季桃さんの近くに転移させている。


 季桃さんたちが加勢している分、前回よりもダメージを与えているはずだ。今度こそ押し切れるか……? そう考えた僕たちだったが、またも次元の穴を閉じる前に再生されてしまった。


 これでは何度やってもキリがない。今は均衡状態を保っているが、いずれは僕たちの体力と魔力が尽きてやられてしまうだろう。


「どうしようユウ兄! 私たちじゃ勝てないのかな……。でも放っておけば、たくさんの人が死んでしまうんだよね!?」


 この事態を引き起こしたのはお祖母さんなのに、ヒカちゃんは自分の責任かのように心を痛めていた。黄金の首飾りの呪いを自分のせいだと責めていた心持ちと同じなのだろう。


 ヒカちゃんにそんな顔はさせたくない。だから絶対に僕は諦めたくない。


「こうなったら無理にでも頭のような部位を攻撃し続けて、次元の穴を広げられないようにしないといけないな」


 撃破まではいかずとも、ある程度のダメージを継続して与えるだけでも、頭のような部位の活動は弱まってくれるだろう。再生を止めることはできないだろうが、次元の穴の拡張は止められるはずだ。それだけでも非常に意味がある。


 しかしどう実行すればいいのか。その点について、季桃さんが困惑した様子で聞いてくる。


「でもどうやるの? 舌と爪っぽいところが暴れまわるから、そっちを処理しておかないと難しいよね。近づくのは危険だし、遠距離攻撃は叩き落とされちゃうし」

「僕が攻撃を全て引き受けるよ。銀の鍵ならきっとできる」


 僕なら空間転移を繰り返して避け続けることだってできるし、もし避けきれなくても障壁を張れば耐えられる。僕たち5人の中で敵の攻撃をやり過ごしながら頭のような部位を攻撃できるのは、おそらく僕だけだ。


 ヒカちゃんが心配そうに僕を見つめる。


「そんなこと、本当にできるの……?」

「できるさ。約束しようか、ヒカちゃん」


 "約束"という言葉を出したこともあり、ヒカちゃんは一応納得してくれたようだった。僕は絶対に約束を破らない。そのことをヒカちゃんは信じてくれている。


 さらに心子さんが僕をフォローしてくれる。


「本当に危ない状況になったら、僕が結人さんを助けます。僕だって銀の鍵を持っていますからね」

「ありがとう。でもそうならないように気をつけるよ」


 僕が舌のような部位の担当から外れる分、編成を組みなおさないといけない。舌のような部位をヴァーリ1人に任せるのは、さすがに荷が勝ちすぎている。


「心子さんはヴァーリと一緒に舌のような部位の担当に移ってくれるかな? 防御面のバランスを考えると、それがいいと思うんだ」

「わかりました。異論ありません」

「僕が頭のような部位に注力する分、みんなの負担も増えるから、気を付けてね」


 僕がそう言うと、ヴァーリとヒカちゃんが答えてくれる。


「おうよ、任せとけ。俺が早く邪魔な部位を破壊すれば、ユウトも楽になるんだろ? さっさと片づけてやるよ」

「私も頑張って爪っぽいところを早く倒すね!」


 頼もしい限りだ。みんなが頑張ってくれるほど、僕が1人で突撃しなければならない時間も短くなるし、僕へ攻撃が向かう頻度も少なくなるはずだ。


 僕たちはそれぞれの役割を確認して、ミゼーアの先端にもう一度挑む。


 僕が空間転移で頭のような部位に近づくと、舌のような部位がムチのように僕を襲い始めた。僕は空中で軌道を変えるために障壁を自分の足元に作り出し、そこから跳躍することで舌のような部位から逃れる。


 その勢いのまま、僕は頭のような部位に飛び込み、下から強烈な一撃を食らわせた。


 僕の攻撃によって、頭のような部位は一時的に動きを止める。止まっているのは僅かな時間だけど、これを繰り返していけば次元の穴を広げられずに済みそうだ。


 僕は攻撃の反動を利用して、一気に地上へと降り立つ。空間転移を使えば空中に居続けることも可能だったが、これは爪のような部位からの攻撃を誘発するために意図的にとった行動だ。


 僕に攻撃が集中すれば、それだけヒカちゃんたちの負担が軽減される。舌のような部位はもともと2人がかりで対処していたからさほど変わらないかもしれないが、爪のような部位は1人減っているから大変だろう。


 僕は爪のような部位からの攻撃が僕へ迫っていることを確認してから、空間転移で再び空中へ躍り出る。転移先は頭のような部位よりも上だ。そして障壁を生成してから下に向けて跳躍し、勢いをつけて頭のような部位へ再度攻撃を行う。


 攻撃の隙を狙われたりと何度か危険な場面があったのは事実だが、僕はヒカちゃんたちが再び邪魔な部位を倒すまで、頭のような部位が次元の穴を広げることを阻止し続けることができた。


「さすがユウトだな! マジでやりやがった!」


 ヴァーリがそう賞賛してくれる。みんなもよくやってくれた。ここまでくればもう安泰だろう。僕たちはそれぞれにできる最も効率の良い攻撃方法で、頭のような部位を攻撃する。


 邪魔な部位が再生させられる前に、僕たちはミゼーアの先端の大部分を押し込むことができた。


「銀の鍵よ、僕を導け! 異界の邪神を叩き押し戻せ!!」


 僕が魔術を発動させると、轟音をたてながら指定した空間にめがけて衝撃波が発生した。今回使ったのはヨグ=ソトースの拳という、時空操作魔術の中でも数少ない攻撃用魔術だ。


 直接的な殺傷能力はないが、任意の位置に衝撃波を発生させることで対象を吹き飛ばすことができる。普通に発動した場合は人間をたかだか数メートル程度しか動かせない、使いどころが難しい魔術だ。だけど銀の鍵を介した場合は大型車のような重たい物でも吹き飛ばせる。


 とはいえ力の強いエインフェリアなら大型車を投げ飛ばすことくらいは普通にできるだろう。エインフェリアになる前ならともかく、今の僕にとっては離れた位置からでも吹き飛ばせるくらいしかメリットはない。


 だけど今回は特別だった。先端だけとはいえ、ヨグ=ソトースの不倶戴天の敵であるミゼーアに対して使うのだ。目の前にいるのがミゼーアだと、銀の鍵を通じてヨグ=ソトースも認識してくれたのだろう。


 僕の思惑通り、ヨグ=ソトースから力をいつもより多く引き出すことができた。そしてその結果、弱ったミゼーアの先端を次元の穴に押し戻すほどの威力を発揮することができたのだ。


 ミゼーアの先端が鋭角の時空へと姿を消す。僕たちは死闘の末に、勝利したのだった。


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