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69_VSミゼーアの先端_その1

 ミゼーアの先端は、大雑把にいえば3つの部位に分かれているように見えた。


 1つ目は舌のような部位だ。長い長い鞭にも似たその舌は、少しのたうち回るだけで晴渡神社の家屋を破壊し、木々を薙ぎ倒す。


 2つ目は爪のような部位だ。鋭利で固いその部位は、生半可な攻撃ではびくともしなさそうで、ヨグ=ソトースの娘が持っていた鱗よりも頑丈かもしれない。ミゼーアの先端の巨大な体躯に見合った大きさをしており、まともに食らえばエインフェリアでも危険だ。


 そして最後は頭のような部位だ。この部位が次元の穴をこじ開けて、こちらの次元へ身体を押し込もうとしている。そのため、この部位へダメージを与えていけば、ミゼーアを押し返すことができるだろう。可能であれば、優先して攻撃していきたい。


 しかし舌のような部位と爪のような部位が暴れまわることで、頭のような部位は守られている。近づいて攻撃しようにも危険だし、遠距離から攻撃してもはたき落されてしまう。先に他の部位を弱らせなければ、頭のような部位に攻撃を通すことは難しいだろう。


 まずは誰がどの部位を担当するのか決めるべきだ。僕は作戦を考えて、みんなに伝える。


「ヴァーリは僕と一緒に舌のような部位を攻撃してくれ! 残りの3人は爪のような部位を頼んだ!」


 なぜこのように振り分けたのかといえば、それぞれの適正を考えてのことだ。


 舌のような部位は、のたうっているために攻撃を当てるのは難しい。しかし根本はそれほど動き回っていないので、そこなら攻撃しやすいだろう。

 ただし、根本は地上からおよそ10メートルほどの高さにある。エインフェリアであればジャンプすれば届かなくもないが……。跳躍から着地までが大きな隙となってしまう。そのため、基本的には遠距離から攻撃を行うべきだ。


 僕たちが持っている遠距離攻撃手段は2種類ある。


 1つ目はルーン魔術だ。しかしルーン魔術は回復や補助にも有用なので、攻撃ばかりに魔力を割り振りたくない。


 そこで頼りにしたいのが、もう1つの遠距離攻撃手段であるヴァーリが持っている弓矢だ。半神の膂力で放たれるヴァーリの矢は、1発1発が大砲のような威力を持っている。しかも彼の卓越した技量によって、間髪を入れずに次々と放つことができるのだ。さすがは神話時代の戦争を生き残った半神だと言わざるを得ないだろう。


 僕が期待した通りにヴァーリは矢を撃ち込み始めてくれる。


「いい感じだぜユウト! このままハチの巣にしてやるぜ!」


 ヴァーリの士気も高いようで何よりだ。もし彼に攻撃が向かったときは、僕が障壁で弾けばいい。攻守ともにこちらは万全そうだった。


 ちなみにルーン魔術が得意で空を飛べるヒカちゃんではなく、僕自身を舌のような部位の担当に割り振ったのは、防御面以外にも理由がある。なぜなら空間転移を用いて移動すれば、高いところにある部位に対しても、隙を晒さず安全に近接攻撃が可能だからだ。


 心子さんもやろうと思えば同じことが可能だろうが、あまり連発はしたくないと心子さんは以前言っていた。それにそもそも、エインフェリアではない心子さんは攻撃力も無いし、一撃が致命傷になりかねないのでミゼーアに接近させたくない。


 続いて爪のような部位だが、この部位にヒカちゃん、季桃さん、心子さんを割り振ったのはバランスの良さと対応能力の高さにある。


 この3人で組んだ場合のそれぞれの役割は、季桃さんが敵の攻撃を引き付ける前衛、ヒカちゃんはルーン魔術と槍を使って臨機応変に立ち回る中衛、心子さんが様々な魔術で味方を支援する後衛という形になるだろう。


 爪のような部位はその鋭さと重量によって、とてつもない破壊力を持っている。しかし舌のような部位に比べれば動きはシンプルだ。だから攻撃を受け止めるタイプの前衛よりも、避けるタイプの前衛の方が相性がいい。


 季桃さんは瞬発力と動体視力に長けた、避けるタイプの前衛だ。その能力を活かしてヒカちゃんと心子さんを守ってくれるに違いない。


 そういうわけで守りは問題ないとして、攻撃についてもちゃんと考えてある。


 爪のような部位は地上に近い位置にあるため、舌のような部位よりは攻撃を当てやすい。しかし硬さは半端ではなく、洞窟にいたヨグ=ソトースの娘よりもダメージを通しにくい。


 だけど、ルーン魔術による攻撃なら物理的な硬さは関係ないのだ。ヨグ=ソトースの娘にも効果があったように、ヒカちゃんならルーン魔術で効果的にダメージを与えられる。


 それにヒカちゃんはエインフェリアになり立ての頃よりもずっとルーン魔術の技量を伸ばしていて、攻撃の威力や補助の効果が以前と比べて1.5~2.0倍くらいになっていた。最初の頃はヒカちゃんが自力でルーン魔術を発動しても、僕たちが魔石とルーン魔術起動装置で発動しても大差なかったけれど、今は明確な違いがある。


 とはいえ、季桃さんとヒカちゃんだけでは手が足りない。季桃さんは全ての攻撃を避けられるわけではないし、ヒカちゃんのルーン魔術だけで攻撃も回復もすべて賄うこともできない。


 でも心子さんが様々な魔術やトートの剣、そして銀の鍵を駆使して、2人の足りない部分を埋めてくれる。季桃さんが攻撃をくらいそうなときは障壁を張って守ってくれるだろうし、ヒカちゃんの手が回らない部分は心子さんがフォローしてくれるだろう。


「よし、舌のほうは動かなくなったぜ!」

「爪のほうも弱ってきてるみたい。あと少しだよ!」


 ヴァーリとヒカちゃんが歓喜の声をあげる。強大な力を持つミゼーアの先端に対して、僕たちは善戦できていた。今なら次元の穴を広げようとしている、頭のような部位にダメージを与えることも可能だろう。


 頭のような部位も舌のような部位と同様に、地上からは攻撃しにくい場所にある。ここを攻撃するための最適なメンバーは、僕、ヴァーリ、ヒカちゃんの3人だろう。


 でも爪のような部位はまだ倒し切っていない。それなのにヒカちゃんをこっちに割り振っても大丈夫か? 僕は季桃さんに確認する。


「爪の方は季桃さんと心子さん2人でも対処できそう?」

「弱っているし、たぶん大丈夫! ヒカルちゃんを結人さんの方に引き抜いてもいいよ!」

「ありがとう! それじゃあ、一気に勝負を決めてしまおうか」


 ヴァーリは弓で、ヒカちゃんはルーン魔術で、僕は空間転移を行いながら攻撃を叩き込んでいく。ミゼーアの先端はこの場に存在するだけで気象に影響を与えるほどの恐ろしい存在だから、できる限り早くこちらの次元から追い出してしまいたい。


 ダメージを与えて限界まで弱らせることができれば、僕が次元の穴を塞ぐことができるはずだ。


「ミゼーアの先端が次元の穴から這い出す動きが止まっています! これはいけるかもしれません!」

「頑張れ3人とも! きっとあと少しだよ!」


 心子さんと季桃さんが声援を送ってくる。2人も爪のような部位を倒しきったようだ。


 このまま押し切れる。……そう皆が思ったとき、異変が起きた。ヴァーリとヒカちゃんが驚愕の声を上げる。


「な、なんだよ。再生しているのか?」

「舌と爪がまた動き出しちゃった……!?」


 ヒカちゃんが言った通り、舌のような部位と爪のような部位が再生して、再び僕たちに襲い掛かってきた。


 再生能力といえば、ヨグ=ソトースの娘を思い出す。おそらくヨグ=ソトースの娘が持っていた再生能力は、ヨグ=ソトースから受け継いだ能力だ。

 対してミゼーアは角度の次元のヨグ=ソトースともいうべき存在。ミゼーアがヨグ=ソトースとよく似た能力を持っていても不思議はない。


 ミゼーアが次元の穴から這い出そうとする動きが止まっていたのは、損傷した部位を再生するためだったのだろう。部位が再生したミゼーアの先端は、再び次元の穴を広げ始めていた。

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