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55_ヒカルたちと合流_その2

 どれくらい眠っていたのだろうか。僕が目を覚ますと、心子さんがすぐ傍でトートの剣を使って治療してくれていた。心子さんが声をかけてくる。


「実はさっき戻ってきたところなんです。お身体の具合はどうですか?」

「少しは身体が軽くなった気がするよ。少しずつ快調に向かっているんじゃないかな」


 無理に前向きなことを言っているわけではなく、本当に治ってきているのがわかる。トートの剣が持つ治癒の力と、エインフェリアの身体能力は凄まじい。


 さすがにしばらくは安静にする必要があるだろうが、回復している実感があるので希望が湧いてくる。


「それで、ヒカルと季桃さんは?」


 僕がそう訊ねると、後ろから男性の声で返事が返ってきた。振り向くと、そこには背の高い西洋系の青年が壁に背を預けながら立っていた。


「あいつらなら別の部屋にいるぞ。ここだとスコルの子が出たときに迷惑がかかるからってな。確か少し前に倒したばっかりだし、再出現までの時間を考えれば、今なら問題ねぇだろ。呼んできてやるよ」


 ヒカルと季桃さんを呼びに行ってくれるようで、西洋系の青年は扉を開けて部屋から出て行った。


「ええと、彼はいったい……?」

「ヴァーリさんと言うそうですよ。生き残った北欧の神の1人で、半神半人だそうです。ヒカルさんと季桃さんと一緒にいらっしゃったので、彼にもここへ来てもらうことになりました」


 そういえば偽バルドルが言ってたな。残っている北欧の神の中には、半神半人が1人だけいるって。彼がそうなのか。


 北欧の神ということは、ヴァーリはこのパラレルワールドの出身だ。だからスコルの子に追い回される心配がないので、心子さんと一緒に僕の容態を見てくれていたらしい。


 あれ? 心子さんが持っている壊れた銀の鍵を使えばヒカルと季桃さんもこの部屋に入れるのでは……?

 そう疑問に思っていると、心子さんが申し訳なさそうに説明してくれた。


「壊れた銀の鍵の容量が限界で、僕と結人さんを襲ってくる分しかティンダロスの猟犬を捕らえておけなかったんです。季桃さん達のは処理できなくてごめんなさい」


 銀の鍵そのものは大した力を持っていない。銀の鍵で強力な時空操作魔術を使えるのは、ヨグ=ソトースから効率よく力を引き出しているからだ。


 壊れた状態の銀の鍵は、ヨグ=ソトースとの繋がりが完全に切れている。だからこそヨグ=ソトースが嫌っているスコルの子を捕獲できるのだけど……。

 銀の鍵そのものは大した力を持っていないので、スコルの子を捕獲できる数も少ないのだ。


「ヒカルたちにはどこまで話した? パラレルワールドのこととか、心子さんのこととかさ」

「まだ全然話せていません。ここへ連れてくるために、結人さんの怪我の具合について話したくらいでしょうか。心配だからすぐ行くとヒカルさんが言ってくれたので、大した説明もせずにここまで連れて来れちゃったんですよね」

「そっか。……よかった、僕から話したいと思ってたから」


 パラレルワールドのことを聞いたら、ヒカルは酷く落ち込むことになると思う。


 ヒカルは僕と季桃さんと優紗ちゃんをエインフェリアに選定した。つまり知らなかったとはいえ、僕たちをこのパラレルワールドに拉致したのはヒカルなのだ。


 僕は元々いたパラレルワールドが既に滅んでいたから被害という被害は無いけれど、季桃さんと優紗ちゃんは違う。特に優紗ちゃんはもう死んでしまった。


 きっとヒカルはそのことに責任を感じてしまうだろう。エインフェリアのヒカルは僕の世界のヒカルとは別人だけど、ヒカルには違いないから僕がしっかりと相手をしたい。


 しばらく心子さんと話していると、ヴァーリがヒカルと季桃さんを連れて戻ってきた。ヒカルが僕の姿を見るなりベッドの傍まで駆け寄ってくる。一週間ぶりくらいだけど、とても久々に再会したような気分だ。


「ユウちゃん、どこか痛かったりしない? 大丈夫?」

「心子さんのおかげで何とかね。快調に向かってるからもう安心だよ」

「そっか、よかった……。本当にひどい怪我だったから、死んじゃうんじゃないかってすごく心配で……」


 結構回復したと自分では思っていたんだけど、まだそんな感想が出るくらい酷いのか……。

 確かにエインフェリアが自分でまともに立てないくらいだし、客観的に見れば今にも死にそうな怪我に見えるのかもしれない。心配をかけてしまったな。


 不安げなヒカルに対して、ヴァーリがヤジを飛ばす。


「エインフェリアならそこまで回復していれば問題ねぇよ。何度も言ったけど心配しすぎだっての」

「だってヴァーリ君、心配なのは心配なんだもん!」


 言い合う2人を季桃さんが仲裁する。彼女を見るのも久しぶりだ。


「はいはい、2人とも喧嘩しないの。ヴァーリ君はもう少し素直に言わないと誤解されるよ。言い方がきつかったけど、ヴァーリ君はヒカルちゃんの不安を和らげてあげたかっただけでしょ?」

「ばっ……。ちが……いや、違くねぇけど……」


 ヴァーリは例えるなら、反抗期から思春期辺りの男の子って感じの性格のようだ。北欧の神なんだから実年齢は高いと思っていたけれど、意外とそうでもないのかも。


 北欧の神の寿命を僕はよく知らないけど、ヴァーリは半神半人だから外見の変化も人間と近いだろう。西洋系人種の外見年齢を当てるのも難しいけれど……。たぶん10代後半から20代前半くらいの見た目だと思う。


 そういえばヒカルと季桃さんは、彼をヴァーリ君と呼んでるな。呼び方から考えると、もしかしてヴァーリはヒカルより年下なのか? コールドスリープしていた年数を含めたら数千歳だろうけど、そこを除いたら年下という可能性は十分ありえる。


 何はともあれ、ヒカルの不安を和らげようとしてくれたようだし、ヴァーリがいいやつなのは間違いないだろう。


「ありがとう、ヴァーリ。ヒカルを気遣ってくれて」

「お、おう……。くそ、なんか調子狂うな」


 人数が増えて一気に華やかになったな。偽バルドルとの2人旅は、腹の探り合いも多くて少し気が重かった。

 でもここには頼れる心子さんもいるし、エインフェリアになってから一緒に戦ってきたヒカルと季桃さんもいる。ヴァーリも裏表が少なくて付き合いやすいタイプのようだ。


「まずは僕と別行動を始めてから、ヒカルたちがどうしていたのか聞いてもいい?」


 僕が尋ねると、ヒカルと季桃さんが代わる代わる答えてくれる。


「まあ、ほとんど移動だったかな。北欧の神々が持っている船があるから、それでヴィーダルさんのところに向かっていたの。完全に密入国なんだけど、エインフェリアって戸籍もないし、パスポートもないから仕方なくて」

「途中でバルドルからカラスに連絡があったらしくて、ヴィーダルに会う前にヴァーリ君を目覚めさせに行ったんだよね。その後ヴァーリ君も一緒にヴィーダルのところに行ったら、ヴィーダルが銃殺されてて……。カラスがバルドルに電話で報告している途中で、結人さんたちが何者かに襲われて電話が切れちゃったって感じかな」


 新情報はヴァーリ君と合流したタイミングくらいだろうか。他は既に知っている内容だ。危険なことはなかったようで、安心した。


「逆に結人さんは何があったの? ムスペル教団の拠点を襲撃してたってことは聞いてるけど、それ以外のことは何も知らないんだよね。やっぱりムスペル教団のエインフェリアにやられたの?」


 季桃さんがそう尋ねてきた。


 さて、どこから説明したものか……。ヒカルたちはまだ、パラレルワールドのことすら知らない。そもそも、正直に言って信じてもらえるだろうか。しばらくは嘘にならない範囲で隠した方がいいのだろうか……。


 ……少し悩んだけど、やっぱり真実は早めに伝えたほうがいい。ヒカルには信頼してもらっていると思うから、彼女はすぐ信じてくれるだろう。季桃さんは最初は信じてくれなくても、後から出身パラレルワールドとの差異を経験してもらえれば信じざるを得ないはずだ。ヴァーリを納得させられる手段を今は持ち合わせていないけど、彼とはこれから信頼関係を築いて行けばいい。


 僕は覚悟を決めて、季桃さんからの問いに答える。


「僕を襲ってきたのは、パラレルワールドの僕なんだ」


 ヒカル、季桃さん、ヴァーリの反応は三者三様だった。


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