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53_心子さんに事情聴取_その2

 晴渡神社が魔術結社というところまでを心子さんに話してもらった。この調子で他にも教えてもらおう。


「心子さんがこのパラレルワールドの銀の鍵を持っているのは、季桃さんのお祖母さんに師事しているからなの?」

「いえ、お祖母さんに師事しているからではなくて、僕が季桃さんに信頼されているからですね。銀の鍵の使い手を任命する権利を持っているのは、季桃さんなので」

「季桃さんが任命権を持っているということは、彼女がヨグ=ソトースの子供だったのか!」


 そうなると優紗ちゃんが北欧神話の神々に取られていた大切なものは結局何だったんだろう。使い手の任命権を取られていたなら、かなり納得感もあったんだけど。まあ、今考えることじゃないか。


「正確に言うと、季桃さんがヨグ=ソトースの子供というのはあっているんですが、間違ってもいるんですよね。というのも季桃さんは純度100%、普通の人間なので」

「人間なのにヨグ=ソトースの子供で、使い手の任命権も持っている……? ごめん、全然意味が分からない」

「洞窟の奥に封印されていた子供と季桃さんは、父親違いの双子なんですよ。季桃さんの父親は普通の人間で、封印されていた子供の父親はヨグ=ソトースです。端的に言えば、双子として生まれてきたせいで、ヨグ=ソトースは季桃さんを自分の子供だと誤認しているんです」


 つまり、季桃さんはヨグ=ソトースの義娘といったところだろうか。


 ヨグ=ソトースの子供を身ごもるためには、魔術的な儀式を行えばいい。だからいろいろ調整は必要だろうけれど、既に子供を1人妊娠している状態で儀式を行えば、ヨグ=ソトースの子供と人間の子供を、父親違いの双子として生まれさせることも理論上は可能だ。


 でもどうしてそんな手間をかけるのかわからない。そんなことをするより、ヨグ=ソトースの子供だけを妊娠するようにしたほうが簡単なはずだし、失敗するリスクも低い。


 そこまで考えて、僕は正解にたどり着いた。


「そうか! 使い手の任命権を人間が手に入れることができるんだな! 普通のヨグ=ソトースの子供は化け物だから、誰を使い手にするか交渉なんてできないだろうしさ。クルーシュチャはオーディンを任命するように仕向けたらしいけど」


 クルーシュチャがそんなことをできたのは、彼女が北欧の神の中でも抜きんでた戦闘能力を持っているからだろう。おそらくは痛めつけて、強制的に言うことを聞かせたのだ。


 人間にクルーシュチャと同じ方法は取れない。


「結人さんの言う通り、人間が任命権を手に入れるためです。季桃さんのお祖母さんはそうして自分を使い手に選んでもらうつもりだったようですね。ですが、季桃さんはお祖母さんのことが大嫌いなようで、銀の鍵の使い手にお祖母さんを選ぶことはありませんでした。そして名前を祈里と変えた上で新たな生活を始め、実家の晴渡神社と関係を断ち、お祖母さんと縁を切りました」

「そうだったのか……。エインフェリアの季桃さんとは全然生い立ちが違うんだな」

「その季桃さんは、晴渡神社が魔術結社ではないパラレルワールドの出身なのでしょうね。晴渡神社って、季桃さんのお祖母さんが魔術結社にしたんですよ。だからお祖母さんが何らかの事故で死亡しているパラレルワールドでは、晴渡神社は普通の神社のはずです」


 仮に祈里さんがエインフェリアになったとしたら、大切なものとして奪われていたのは使い手の任命権だったに違いない。

 だけど僕が知っている季桃さんが取られたのは『晴れ』という、本来の晴渡神社に関連のあるものだった。あの季桃さんは魔術のことも詳しくないし、ヨグ=ソトースとは何の関係もない一般人なのだろう。


「このパラレルワールドの季桃さんはお祖母さんに人生を狂わされてきたので、僕も彼女の新しい生活を応援していたんですけどね……。このパラレルワールドの結人さんという信頼できるパートナーを見つけることができて、これからという段階だったのに……」


 それは本当に気の毒な話だ。ムスペル教団が久世家を襲い、クルーシュチャが季桃さんと優紗ちゃんを殺害した。なんともやるせない……。


「みんなが殺害された前日の夜。僕と優紗、季桃さん、結人さんは季桃さんが住んでいるアパートに集まっていました。洞窟に封じていたヨグ=ソトースの娘にどう対処するか、対策を練っていたんです。僕と結人さんは日付が変わる頃には解散しましたが、優紗は季桃さんの家に泊まることにしたそうで……。翌日の早朝、おそらく優紗の日課であるランニングに季桃さんが付き添った際、2人は殺されてしまったのでしょう」

「優紗ちゃんまで殺されたのは口封じが目的か」


 心子さんは一晩にして、ムスペル教団に仲間を奪われたことになる。1人残された心子さんは、みんなを殺した犯人を突き止めるために行動を開始した。


 そこから先は僕も関わっている話だ。心子さんは春原市で僕と優紗ちゃんを発見したが、認識阻害魔術のせいで誤解が生まれて戦うことになったりした。


「僕についてのお話は、これで全部です」

「ありがとう。いろいろと疑問が解けたよ。びっくりすることも多かったけどね。心子さんの正体は別世界の優紗ちゃんだったとか、この世界の季桃さんはヨグ=ソトースの義娘だったとかさ」

「僕も結人さん達が置かれている状況については、非常に驚かされました」


 それはそうだろうな、と僕も思う。心子さんは今まで敵の正体すら見えないまま、1人で戦い続けてきたのだ。

 そんな状況で、ようやく敵の正体を掴めたのだ。彼女が受けた衝撃は計り知れないだろう。


「ムスペル教団を放置しておくことはできません。殺された優紗や季桃さんたちのためにも、滅ぼされた僕の出身パラレルワールドのためにも。そして、僕を助けてくれたあの結人さんのためにも……」


 心子さんは僕の目をしっかりと見据えて、宣言する。


「僕はエインフェリアではないので、できることは限られるかもしれません。それでも僕も一緒に戦わせてください」


 エインフェリアでなくとも、心子さんがいれば心強い。ルベドには適わないかもしれないが、心子さんの能力は身体的にも魔術的にも常人を遥かに超えた水準にある。


 その上、トートの剣と銀の鍵を持っているのだ。トートの剣は邪神とその眷属を倒すための剣なので、別世界の僕が使っていた旧き印の弾丸と似たような効果を持っているだろう。


 トートの剣の優位性と銀の鍵による時空操作魔術を考えれば、心子さんは並みのエインフェリアより強い可能性すらあった。


「ありがとう、心子さんが一緒ならとても心強いよ。改めてよろしくね」

「はい! よろしくお願いします!」


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