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おまけシナリオその3――ヴァーリ編

 偽バルドルとムスペル教団が潰えた今、エインフェリアたちには新たなリーダーが必要だ。そして最近はヴァーリがその役割を担うために日々奔走している。


 ヴァーリの奮闘もあって、大部分のエインフェリアはヴァーリに従い始めていた。例外なのは、偽バルドルやムスペル教団に忠誠を誓っていたエインフェリアだ。数は少ないけれど、そういうエインフェリアもいた。


 その対処は必要だけど、とりあえずはひと段落ついたと言えるところまでは来た。まとめるのが大変だったのは、どちらかといえば偽バルドルに従っていた方だ。


 エインフェリアは現代社会へ戻るには障害が多すぎる。だから必然的に幻夢境で暮らしてもらった方が都合が良いのだが、偽バルドルに従っていた方はそこを納得させるのが大変だった。


 偽バルドルが幻夢境を知らなかったのだから、従っていたエインフェリアたちも知らないのは当然だ。現代社会に比べると幻夢境は文明レベルが低いので、そこで反発があった。


 逆にムスペル教団側は幻夢境の存在を知っていたので説得は比較的楽だった。どちらかといえば、オーディンが既に死んでいることを知って、復讐の炎が消えて無気力に陥ったエインフェリアを立て直す方が大変だった。


 まあ、大変と言ってもスコルの子に襲われないようにできると言えば、割とすぐに食いついてきたけれど。やはりスコルの子はエインフェリア共通の悩みだったようだ。


 人が集まるなら拠点が必要だ。というわけで集会場や寝泊りする場所としては、ムスペル教団が使っていた建物を再利用させてもらっている。偽バルドルもエインフェリア向けの拠点はいくつか用意していたが、あれは現実空間側にしかないのでほとんど使わないだろう。


 広間に集められたエインフェリアを見て、ヴァーリが呟く。


「新たな時代の幕開けというよりは、これから真の意味で神話時代が終焉を迎えるって感じだな」


 どういう意味だろう。不思議に思ってヴァーリに訪ねてみる。


「エインフェリアを束ねる者が変わったんだから、新しい時代の幕開けだと思うけど。どういうこと?」


「エインフェリアはこれから減る一方だからな。北欧の神も俺しか残ってねぇし。神話時代からの物事が綺麗さっぱり消え去るのも時間って話だよ」


 ヒカちゃんが戦乙女としての活動をしない以上、もうエインフェリアが増えることはない。また、エインフェリアが子供を産んでもエインフェリアにはならないそうだ。エインフェリアは半神に相当する存在だが、生まれつきの半神とはその辺りの勝手が違う。


 ヴァーリが誰かと子供を成した場合は、4分の1だけ神の血を引いた子が生まれる。4分の1ならまだまだ普通の人間よりも強い存在になるだろうが、さらに8分の1、16分の1になってくると普通の人間と変わらなくなる。


 エインフェリアになる前のヒカルが良い例だ。ヒカルとヒカちゃんはレギンレイヴの遠い子孫なので神の血を引いている。けれど血が薄くなりすぎて完全に人間と同じになっていた。


 要するに、どれだけ長く見積もっても、あと100年もすればエインフェリアも含めて北欧の神は全滅する。北欧の神が全滅しても、新たに新しい勢力が興るわけでもない。


 言われてみれば確かに、新しい時代というよりは神話時代の真なる終焉と言った方がしっくりきた。


「まあ神話時代が終焉を迎えても子孫は残ってるわけだし別にいいだろ。あとは物語として残しておくとかどうだ? ヴィーダルがやってたみたいによ」


「それで数千年後くらいには僕たちのことも神話になってるって? 残るかな?」


「微妙だな。ヴィーダルは自分で書いた本を数百年後に自分で発掘して、それを歴史的な資料として世間に発表したりしてたらしい。それくらいしねぇと難しいかもな」


 とんだマッチポンプもあったものだ。歴史的な資料であることには変わりないだろうけど。


 エインフェリアたちの話し相手をしていた季桃さんと優紗ちゃんが僕たちの会話に混ざってくる。


「神話学者が聞いたらびっくりするような話をしてるね。私も驚いたけどさ」


「この成大優紗、面白そうな話題を聞きつけて参上しました!」


 季桃さんは学術的興味で、優紗ちゃんはロマンを求めてやってきたようだ。それぞれ過去と未来に興味があるのが対照的で面白い。


「神話として残ったら、きっと結人さんは未来のゲームで女性キャラとして実装されますね」


「……発想が現代っ子だね」


 ゲームで偉人を覚えるのが原因で、歴史の授業で偉人の性別を間違える子供が結構いるらしい。女性キャラにされた元ネタの男性はどんな気持ちだろうか。ゲームキャラのモデルにされる頃にはもう亡くなっているから、どうでもいい話かもしれない。


「でもヴァーリさんは既に女性キャラとして実装されているゲームがありますよ?」


「は……?」


 不意打ちされてヴァーリが固まってしまった。どうやら酷くショックを受けたらしい。生ものを創作に使うのは危険という話があるが、ゲーム制作者もまさかヴァーリが実在していて、しかも存命とは思わなかっただろう。


「いいじゃないですか。ゲームのヴァーリさんも強いですよ。SSRですよ」


「神話として残すのはやめにするか……。ユウトを巻き込みたくねぇ……」


 そんなに嫌だったのか。ヴァーリは神話時代の生まれだから、現代に比べると男女の区別をくっきりさせたい価値観を持っているのは不思議じゃない。いやまあ、現代生まれの僕も女性キャラで実装されていたら反応に困るけど。


「そういえばもう、コールドスリープはできないんだよね。あのコールドスリープというか、バーニングスリープのやつ」


「偽バルドルしかやり方は知らないからな。だから俺はこの時代で骨をうずめることになる。なんだか不思議な気分だな」


「普通は生まれた時代と死ぬ時代が大きく違うなんてことないもんね」


 現代に残るエインフェリアたちを統括するリーダーとしての活躍が、ヴァーリが北欧の神として行う最後の仕事になるだろう。


 といってもヴァーリの寿命はまだまだ長い。半分は神の血を引いているだけあって、おそらくは普通の人間より長いはず。たぶんエインフェリアよりも長いと思う。


 エインフェリアの寿命はよくわからないが、おそらくは人間より少し長いくらい……だと思われる。ここに集まっているエインフェリアの年齢を聞いてみると、年齢の割にみんな若く見えるので。


 おそらくは老化自体は普通の人間と同じなのだが、エインフェリアの方が身体が丈夫なので、身体機能や外見に出る影響が少ないんだろう。


 ともかくエインフェリアたちよりヴァーリの方が長生きする。そうなると全てのエインフェリアの死を見送った後、ヴァーリには第二の人生が残っている可能性が高い。


 神話として話を残したりはしないと先ほどは言っていたが、ヴァーリはその第二の人生を使ってヴィーダルと同じように、詩文を書く余生を送るんじゃないかと僕は予想していた。



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