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112_VSリーヴ

 リーヴはあちらからは攻めてこない。時間を稼ぐという彼の目的を考えれば当然だろう。彼は僕たちを倒す必要はないのだ。とにかく一秒でも長く生き残って、僕たちを逃さなければいい。


 一方で僕たちは、彼からレーヴァテインを回収できれば勝ちだ。


 空間転移は封じられているけれど、この戦闘から離脱のに空間転移は必要ない。レーヴァテインを奪ったら、普通に走って離脱すればいい。リーヴは人間なので、エインフェリアである僕たちに走力で追いつくことはできないからだ。


 この戦いは僕たちがレーヴァテインを奪えるか、リーヴがレーヴァテインを死守できるか、それに全てがかかっている。


 僕たちはリーヴを取り囲んで追い詰める。まず最初に飛び掛かったのは季桃さんだ。


 彼女はエインフェリアの中でも随一の身体能力を持っている。リーヴが人間離れした戦闘力を持っているとはいえ、そう簡単に対処できるものではない。


 しかし経験の差だろうか、リーヴの方が一枚上手だった。彼は紙一重で季桃さんを躱し、レーヴァテインを彼女に向ける。


「焼き尽くせ!!」


 リーヴがレーヴァテインに魔力を込めると、その魔力が指向性を持ちながら大爆発を起こした。込められた魔力は微小だったというのに、凄まじい破壊力だ。


 今のは試し撃ちのようなものだろう。この程度なら障壁で防ぐことができるが、次はどうかわからない。


 戦力差があるので僕たちが一方的に有利だと思っていたが、レーヴァテインは伝説として語られている逸話に負けない恐ろしい神具だった。もし直撃すれば、エインフェリア程度は即死してしまう。


「なあユウト。レーヴァテインだけを奪うってのはたぶん無理だ。そこだけをピンポイントで狙っている余裕がねぇ。リーヴを先にぶっ殺したほうが確実だろうよ」


 ヴァーリがそう助言してくれた。仕方ないか。


 殺さずに済むような相手なら、殺したくない。それは偽バルドルと一緒にムスペル教団の拠点を襲撃したときから保ち続けているスタンスだ。


 夢の狭間に再現したシミュレーションの神話時代を経験して、その気持ちはさらに強くなった。僕個人としてもそう感じているし、人が死ぬたびにヒカちゃんが悲しい顔をするのも辛い。


 けれど……仮に僕がリーヴの立場だったら、どんな手段を使ってでも命が尽きるそのときまで抵抗する。他の精神と混ざりあって原型を留めていないとしても、大切な家族のために戦う。


 僕たちが首尾よくレーヴァテインを奪えたとしても、生かしておけば彼はレギンレイヴとの戦いにも乱入してくるだろう。


 リーヴは人間で、神どころかエインフェリアですらないけれど……。それでも彼は強い。彼を残しておくのは危険すぎる。


 僕は魔石とルーン魔術起動装置を使って、中級ルーン魔術である『動きを縛る吹雪』を発動した。それに合わせるように、ヒカちゃんも上級ルーン魔術の『ラーンの網』を発動する。


 リーヴがいかに優れた戦士でも、広範囲に及ぶ攻撃魔術をすべて回避することはできない。確実にダメージが入っていくし、『動きを縛る吹雪』も『ラーンの網』も行動を阻害する効果を持つルーン魔術だ。こうした搦め手を使って追い詰めていく方が、結果的には素早く片づけられるだろう。


 しかしリーヴは最小限の動きで僕たちの隙を伺い、レーヴァテインで反撃してくる。


「無に還れ! 塵と化せ!!」


 レーヴァテインは魔力を込める量に応じて威力が高まる。最初の頃に放っていた爆撃は障壁で防ぎきれる程度だったが、使い慣れてきたのか、今のリーヴは障壁を破壊できる威力で攻撃してきていた。


 しかしどれだけ威力が高くても、魔術によって動きを鈍らされているリーヴでは僕たちに当てられない。


「心子さん、幽体の剃刀を頼む」


「ええ、承知しました」


 幽体の剃刀は防御をすり抜けてしまう特殊な攻撃魔術だ。リーヴの竜の血による防御効果もすり抜けてしまうため、まさに彼の天敵と言える魔術だろう。


 リーヴは幽体の剃刀をずっと警戒していた。万全の状態の彼なら、避けきることもできたかもしれない。だけど、ある程度弱らせた今、避けきるのは不可能だ。


 向かってくる攻撃の優先順位をつけ、一部の攻撃は甘んじて受け入れることで幽体の剃刀を避け続けていた彼だったが、ついに限界が訪れる。


 リーヴの身体から少なくない血が溢れ出た。もはや勝利は決したと言えるだろう。


 ……だけど、彼はそこで終わらなかった。


「私に父のような力を……! 妻を守るために竜に挑んだ、あの英雄のような力を……!」


 大剣を支えにして、リーヴは立ち上がる。さらに銀の鍵の模造品を使って、強固な障壁を作り出した。


 彼が満身創痍なのは間違いない。けれど彼が作り出した障壁は普通のものとは違っていた。


 僕たちが使っているいつもの障壁なら、中級ルーン魔術の『魔術的強化を解除する』魔術で搔き消せる。


 しかし、格が違うとでも言えばいいのだろうか。


 タウィル・アト=ウムルから借り受けた力であるためか、その程度では消すことができなかった。ヒカルがレギンレイヴに飲み込まれてしまう前に、一刻も早く彼女のもとへ辿り着かないといけないのに!


 時間を稼ぐという点で、リーヴの戦略は完璧だった。幸いにも借り物の力であるせいか、彼の張った障壁は長くは続かなかった。


 障壁が消えた瞬間を狙って追撃するが、リーヴは何度でも立ち上がって障壁を張り直す。


 リーヴは倒しても倒しても、何度でも立ち上がってきた。肉体の限界を超えても、精神の限界を迎えても。


 障壁の切れ目を狙って、僕は再びリーヴに攻撃を加える。


「いい加減に倒れてくれ! 僕はレギンレイヴからヒカルを助けなきゃならないんだ!!」


「妻のもとへは通さない! レギンレイヴの中には、私の妻がいるんだ!!」


 リーヴはもはや、僕の攻撃を避ける気は無いようだった。もうさすがに限界なのだろう。その代わりにレーヴァテインでカウンターを狙ってきた。


「私の魔力を全て持っていけ!! 迸れ、レーヴァテイン!!!」


 リーヴが反撃したタイミングは完璧だ。


 間違いなく僕は避けられない。リーヴの残存魔力を全て費やした一撃は、障壁を軽々と破って僕を焼き尽くすだろう。


 ……けれど、そうはならなかった。銀の鍵の模造品に秘められた力も残り僅かだったのだ。


 身を守るための特殊な障壁にもエネルギーを割り当てていたため、転移封じに綻びが生じていた。僕はそこを突き、空間転移でリーヴの背後に回り込む。


 その状態から僕が放った一撃が、この勝負に決着をつけた。


 リーヴは再び立ち上がろうとする。けれどもう、彼は起き上がれなかった。


「もう何も見えない……何も聞こえない。レギンレイヴの浸食は完了しただろうか……。妻が無事なら、私はそれ以外何も望まない……。……スラシル……キミさえ無事なら、それだけで」


 リーヴはそう呟いて動かなくなった。心臓ももう、動いていない。


「どこまでも奥さん想いの人だったね。いろいろとやりすぎだけどさ」


 季桃さんが複雑そうな顔をして、そんなことを言う。別世界の僕のことを思い出しているのだろう。


 別世界の僕も婚約者のために世界を滅ぼして回っていた。家族のためなら何でもやってしまうという面で、きっと僕とリーヴは似た者同士なのだ。


 もしかしたらパラレルワールドによっては、僕もレギンレイヴの味方をしてリーヴと同じ場所に立っているのかもしれない。


「それじゃあ急ごうか。僕の世界のヒカルが侵蝕されきる前に、レギンレイヴに会わないといけないからね」


「銀の鍵の模造品は壊れているようですね。レーヴァテインだけ持って行きましょう」


 次の戦いで全てが決まる。


 ようやく僕の世界のヒカルに再開できる。


 僕たちの旅の終着点が、やっと見えてきた。


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