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100_VS別世界の僕

「最後に報われたって言ってたね。オーディンに認めてもらえたのかな」


 ヒカちゃんがそう呟く。偽バルドルは黄金の腕輪を通じて誰かとやり取りをしていたのは確かだ。


 でも……オーディンは偽バルドルが消滅するからといって、最後に優しさを見せるような人物なのか?


 どうにも腑に落ちない。


「ユウ兄もやっぱり変だなって思う?」


「そうだね。今までは偽バルドルを蔑ろにしていたのにさ」


「やっぱりそうだよね……。たぶん最後のやり取りはさ、窮極の門にいるもう1人の私か、レギンレイヴの本体がオーディンのふりをしたんだと思う。……私があっち側にいたら、きっとそうするから」


 パラレルワールドの同一人物であるヒカル同士は性格が似ていて当然として、レギンレイヴの本体もヒカちゃんたちと似たような人格の持ち主らしい。ヒカちゃんがやるというのなら、僕の世界のヒカルかレギンレイヴの本体が言った可能性は高そうだ。


 黄金の腕輪を通じたやり取りは僕たちには聞こえなかった。音声でのやり取りじゃないのなら、別人が成り済ますことも可能かもしれない。


「まだ黄金の腕輪でやり取りは可能なのかな。もしそうなら、あっちのヒカルかレギンレイヴの本体と連絡が取れるかも」


 僕は黄金の腕輪を拾い上げ、なんらかの方法で念話などができないか心子さんと相談しながら試してみる。


 しかし残念ながら、成果は出なかった。


「ダメみたいだ。何の反応も返ってこないよ」


「やり方は間違っていないはずですけどね。オーディンが通信を閉じてしまったのかもしれません。ですが、僕たちが黄金の腕輪を手に入れられたのは間違いありません。これで窮極の門へ転移することができます」


「なあユウト。義妹のことは気になるだろうが、まだ窮極の門には転移するなよ。レーヴァテインが先だ」


「わかってるよ。レーヴァテイン無しじゃ、オーディンに勝てないからね」


 僕の世界のヒカルと一刻も早く合流したい、という気持ちは当然ある。


 だけどオーディンと対面したときに、今の僕たちでは全く歯が立たないかもしれない。レーヴァテインは絶対に必要だ。レーヴァテインを手に入れるには、先にムスペル教団を倒さないといけない。


 季桃さんが訪ねてくる。


「ムスペル教団の本拠地はどう探すって話だっけ? 別世界の結人さんを叩きのめして聞き出そうとか言ってたような。でも別世界の結人さんもどうやって探せばいいんだろう」


「そのことなんだけど、きっと別世界の僕はここに来るよ」


「えっ? どうして?」


「あくまで推測なんだけど、別世界の僕って召喚魔術も使えると思うんだよね。だから彼も偽バルドルを召喚しようとしているはずなんだ」


 召喚魔術はそれほど難しくない……と言うと語弊があるけれど、僕にとってはそうだ。


 確かに今の僕は知識が足りないから、1人で召喚魔術を使うことはできない。けれど、そもそも召喚魔術は時空操作魔術の一種とも言える魔術なので、既に空間転移などを使いこなしている僕にとっては習得しやすい魔術だ。


 そういうわけで、僕よりも経験豊富な彼が召喚魔術を扱えるという発想は、そこまで突飛なものではないと思う。


「でも別世界の結人さんって、偽バルドルの分体を倒してるからアニミークリの欠片はもう持ってない? 偽ヘズからも欠片を手に入れる必要ってあるの?」


 季桃さんの追加の質問に、心子さんが代わりに答えてくれる。


「触媒は多い方が召喚が安定するので、その辺りは別世界の結人さんの技量次第ですね。偽バルドルの分体1人分だと、僕でも少し不安定だと思います。別世界の結人さんは召喚魔術の専門家ではないでしょうから、偽ヘズのような大型アニミークリから欠片を手に入れようと考えていてもおかしくありません」


 ちなみに別世界の僕が他にも偽バルドル分体を倒していて、既に十分な量のアニミークリの欠片を手に入れている……という可能性は否定できる。


 もし既に揃えているなら、僕たちが偽バルドルを召喚する前に、彼が先に召喚して倒していないとおかしい。僕たちが召喚に成功したということは、別世界の僕はアニミークリの欠片を必要量以下しか集められなかったと考えていいだろう。


 今度はヒカちゃんが尋ねてくる。


「でも別世界のユウ兄じゃ偽ヘズの封印を解けないよね。別世界のユウ兄が偽ヘズから欠片を手に入れるの無理じゃない?」


「確かに自力で封印を解くことはできないけど、ヒカちゃんに解かせれば絶対に入手不可ってほどではないね」


 僕がそう言うと、ヒカちゃんは怪訝そうな顔をする。どうして自分が敵対している人物のために封印を解かないといけないのか、と思っているようだ。


「ヘズを偽物だと知らずに目覚めさせてしまうパラレルワールドがあると思うんだよね。盲目とはいえ元々は戦神だから、戦力になるかもって期待してさ」


「それは確かにそうかも」


「ヒカちゃんが偽ヘズを目覚めさせることに賭けて、別世界の僕は定期的にここを巡回していると思うんだ。ちょっと見に来る程度なら、転移で済むから大した手間じゃないしね」


 以前にも話した通り、別世界の僕は他のパラレルワールドで経験した出来事を参考に行動していて、自分の心当たりを総当たりするような動きをしているんじゃないかという疑惑があった。


 もしその推測が正しければ、偽ヘズの封印が見に来るという、手間が少なくてリターンが大きい行為を彼がやっていないはずはないと思う。


「なるほどな。他ならぬパラレルワールドの同一人物の推測だし、当たってるんじゃねぇか?」


 とヴァーリが言ってくれた。


 現状は他に心当たりも無いし、僕たちが何かを失うこともない。それに僕たちが迎え撃つ形にできるので、戦いやすいという利点もあった。



 ◇



 今までは敵に転移封じを使われることが多かったが、今回に限っては僕たちが転移封じを使う。


 しかも銀の鍵を2つも利用した特別製だ。別世界の僕も銀の鍵を持っているけれど、これならよほどのことがなければ破れない。


 僕たちは別世界の僕を罠にかける準備を進めながら、数日にわたって見張りをしていた。


 正直に言うと、僕の予想とは少し違っていた。別世界の僕は日課くらいの頻度で偽ヘズが封印されていた館の様子を見に来ていると僕は考えていたのだ。僕の推測は間違っていたのだろうか、と思い始めた頃、彼は現れた。


「心子さん、今がチャンスだ!」


「はい、転移封じを発動します!」


 僕は心子さんと共に転移封じを発動する。これで別世界の僕は逃げられない。


「くそ、待ち伏せされていたのか!? まさかもう、偽バルドルも倒されてる?」


「残念だったね。2本の銀の鍵を使って転移封じを発動したし、もう逃げられないよ。おとなしく投降してレーヴァテインの在処を教えてくれたら、キミの銀の鍵を破壊するだけで済ませてあげるよ」


 僕の言葉に対し、別世界の僕は即座に反抗する。


「聞けない話だね。僕は僕のパラレルワールドに帰るためならなんだってする。祈里さんとの約束を守るためにさ! かかってこい、返り討ちにしてやる! いくつものパラレルワールドを渡ってきた僕をなめるなっ!!」


 別世界の僕は障壁を張り、瞬く間に拳銃を抜き放つ。そして目にも止まらぬ速さで僕、ヒカちゃん、季桃さんに旧き印の弾丸を撃ち放った。


 エインフェリアは動体視力がいいので、銃撃を避けられる。正確には、銃弾を見て避けるのではなくて、発砲する者の動きを見切って射線を外すことができる。


 でもそれは発砲する者が人間だった場合の話だ。僕はムスペル教団にいた人間の魔術師を相手に銃撃を躱して見せたが、別世界の僕には通用しない。卓越したエインフェリアである彼の発砲は本当に一瞬なのだ。


 いつ撃ったのか全然わからない。季桃さんだけはギリギリ見えているみたいで、回避しようとはしていた。


 しかし回避は間に合わず、旧き印の弾丸が僕たちに命中してしまう。僕たちはあらかじめ障壁を張っていたが、それも中級ルーン魔術の『魔術的強化を解除する』魔術で剝ぎ取られてしまった。


 普通の銃弾であれば少し痛い程度で済むが、旧き印の弾丸はそうもいかない。


 オーディンがタウィル=アト・ウムルになっているせいか、彼の眷属扱いであるエインフェリアも旧き印に弱くなっている。さすがに一発で戦闘不能に追い込まれることはないが、ダメージは大きい。


 旧き印の銃弾については最大限に警戒していたはずなのに、押し通されてしまった。


 別世界の僕に言うのもなんだが、おそらく彼は最強のエインフェリアなのだ。最高水準の戦闘センスを持ち、豊富な魔術知識のおかげで応用力も高い。それに加えて銀の鍵も持っている。


 でも僕たちも負けてはいられない。別世界の僕を倒すための作戦をしっかり用意してきている。


「ヴァーリ、前衛は任せた!」


「おう、任せておけ!」


 ヴァーリはエインフェリアじゃない。だから旧き印も効果がない……というのはちょっと違う。本来ならオーディンの息子であるヴァーリもオーディンの眷属扱いになって、旧き印が弱点になるのが普通だ。実際、ヴィーダルは別世界の僕に旧き印の弾丸を撃ち込まれて死亡している。


 だけどヴァーリは、ヘズを殺すためにオーディンが作った正式な血統ではない子供だ。確かにヴァーリはオーディンの実子なのだけど、魔術的にはそちらの方が重要視されるのだろう。


 そういうわけでヴァーリはオーディンの息子だけど、例外的に旧き印が効かない。ヴァーリにとって、旧き印の弾丸は普通の弾丸と同じなのだ。


 弓を得意とするヴァーリにはいつも後衛を担当してもらっているが、今回は前衛になって射線を防いでもらうことに集中してもらう。この作戦は効果があった。


「オング ダクタ リンカ ベナティル カラルカウ デドス ヨグ=ソトース!」


 別世界の僕が呪文を詠唱し、時空操作魔術を発動する。どうやら彼は障壁を使って銃弾を跳ねさせたり、ヨグ=ソトースの拳で銃弾を吹き飛ばして軌道を変えることで、ヴァーリを避けて旧き印を命中させる戦い方に切り替えたようだ。


 人間の動体視力や反応速度では、こんな曲芸のような戦い方はできないだろう。時空操作魔術に長けたエインフェリアだからこそできる、変則的な戦い方だった。


 だけど時空操作魔術で弾道を曲げてくるなら、僕と心子さんが察知して障壁で防ぐことが可能だ。ルーン魔術の『魔術的強化を解除する』魔術で障壁を消されたら守り切れそうになかったが、別世界の僕は弾を曲げて攻撃しなければならないせいで、障壁を掻き消す余裕は無いようだ。


 また、弾を曲げる場合は直接撃つよりも着弾がワンテンポ遅れるせいで、季桃さんは障壁とか関係なく避けることができていた。


 空間転移が使えるなら、別世界の僕はヴァーリから離れて攻撃しやすい場所へ移動することもできただろう。でも今は僕と心子さんが転移封じをしているから、空間転移ができない。


 数的に不利なほど空間転移の有用性は大きい。転移封じをしている間は僕たち自身も空間転移ができないけれど、別世界の僕への影響は甚大だった。


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