3.邂逅
「さて、これからどうすっかな……」
狼に襲われてから数時間。辺りは既に暗くなっていた。森を彷徨いながらも、何とか人里を探すために歩き続けているのだが……。
「そもそもこの近辺に人里なんざあるのか?まだ森からも抜けられてないんだが...それに腹も減ったし喉が渇いた。水場が欲しいところだ」
ここに来てからは何も食っていないし水も飲んじゃいない。...不味いな。このままじゃ餓死しかねんぞ俺……。
「……ん?」
ふと、目の前を見るとそこには小さな川があった。
「あぁ……!見つけたぜ!!」
思わず歓喜の声をあげてしまう。ようやく、水が手に入る。
そう思うや否や、そこに駆け寄り周囲を確認する。
外敵のような存在が見えないことを確認し、川の水を手ですくって呑んだ。
「……うまい!」
生き返るような心地だった。
今までの疲れが全て吹き飛んだかのような錯覚を覚える。
「……水源の近くとなりゃァ果実もあるはずだ。ここを飲み場にしてるヤツに出会わなきゃしばらくは生きてけるだろ。...考えても仕方ねぇ。今日は寝るか」
そして、近くの木に背を預けるように座り込む。
そのまま目を閉じるとすぐに眠気が襲ってきた。
....白い空間に俺は居た。ここはどこなんだ?そんな疑問を抱くと同時に、自分が置かれた状況を思考する。
『異世界転移』。ともすれば俺を異世界送りにした神だのなんだのが寝ている俺の意識とやらを呼んだのだろう。
その結論に至ったところで、背後から声をかけられた。
「いらっしゃいませ」
振り返ると一人の女がいた。
歳は二十前後だろうか。
長い髪は腰まで伸びていて、服装も上等なものに見える。そして何より目を惹くのはその顔立ちだ。まるで人形のように整っていて、それでいてどこか人間離れしているような雰囲気がある。……美人、というヤツだろう。
「あんたが神、ってヤツか?」取り敢えず話しかける。しかし、彼女は首を傾げて言った。
「私が貴方の言う『神様』なら多分違うと思いますよ。私は地球の管理者です」
「……管理者ねェ。で?俺をあの魔境じみた森に飛ばしてくれた理由はなんだよ?一般人そこに放り込んどいて事故でした、ってオチじゃねェんだろ?」
「……ええ。貴方を送り込んだ世界の管理者より通達がありまして。聞けば何者かに襲撃されていると。そこで私は応援としてこの世界に適合していた魂であり、そして英雄の証を持つ貴方をこの世界に送った、という訳です。」
「....その英雄の証、ってのは?俺は英雄、なんつー大したもんになった覚えはねェが」
「....あなたは1度、燃えている幼稚園から全ての子供を救いあげましたよね?」
「ああ。」
「あの時の貴方は子供達にとって紛れもない『英雄』でした。どれだけ信じる者が少なくとも貴方は英雄なのです。故の英雄の証...世界を救いうる力の因子です。」
「成程な。理由は分かった。だがなァ....本人に了承もなく、いきなり森に飛ばしたってのはおかしいだろォがよ?目的が応援、ってンなら人里に飛ばしゃいい話だ」
「それは……すみません。私も少し焦っていたもので……」
「……まあいい。今のアンタの態度見るに詰めたって無駄だろ。で?俺はこれからどうすりゃ良い?まさかあの森で野垂れ死ねってこたァねェだろうな?」
「……はい。貴方の持つ英雄の証...その力を少し引き出します。」




