2.幸運
「……木ぐらいなら。ぶっ倒せるか?」
俺自身のLv1にしては高いステータスに賭けてみる事にした。狙いを定め、拳を振り上げ……叩きつける。
派手な音をたてて一本の木が倒れる。よし、上手くいった! 後はこいつを投げ付けて隙を作り、逃げるだけだ....!!と、思っていたのだが。
「グォオオオオッ!!!」
何故か狼が怒りを吐き出すように吠え始めたではないか。そしてその瞬間……身体中の血の気が引くような感覚を覚えた。これはまさか……。
「……そりゃ聞いてねェぜ」
...正に神速。凄まじい速度で正面から爪が迫る。運良く持っていた木を盾にすることが出来たが...その木は爪の通った部位は綺麗に斬り裂かれ、断面は雷撃の影響か黒くなる所か灰と化していた。
「いきなりナイトメアモードとかぶっ壊れてんなァ...!」
ヤバイ。今度こそ本当に死ぬかもしれない。こんな訳のわからない所で俺は終わりを迎えるのか?……冗談じゃねぇ。
「まだ、死にたくねぇんだよ……ッ」
迫り来る死を前にして、それでも尚足掻こうとした。その刹那。
狼がその巨体よりなお巨大な鉤爪に捉えられ上空へと消えていった。....抵抗すら許されず、である。
「……食物連鎖に助けられた、ってトコだな」
と、静寂の戻った森の中で胸を撫で下ろしながら呟く。何にせよこれで助かったようだ。
「にしても……ここじゃ俺は生きていけねェだろう」
あの狼の事を思い出す。
あんなのともう一度出くわせば今度こそ死ぬ。...自衛手段が必要だ。例えば、ステータスの欄にある『スキル』や『魔術』とやらのような。
「……何か、そいつを習得する方法、ってのはないもんかね」
そう呟いて俺はステータスバーとやらを眺める。すると端の方に『習得可能技能があります』と言う文字を見つけた。.……何かあるのか。どれ……?
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・『快足』
技能Lv:1
熟練度:72/100
効果:走行時の速度を僅かに向上させる
状態:未取得
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……技能、か。スキル、魔術とやらとは異なるもののようだ。おそらくステータスや行動に補正をかけるような代物だろう。熟練度は先程狼から逃げた時に溜まったのだろうと推測出来る。あって損は無い技能だ。取得しておこう。
『取得可能スキルがあります』早速、その画面を開く。
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・『正拳』
スキルLv:1
熟練度:1/100
状態:未取得
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「正拳、か……」
正拳突き。おそらく先程拳で木をへし折った時に獲得可能になったのだろう。
「ま、あるに越したこたねェな」
こうして俺は技能『快足』とスキル『正拳』を獲得した。
...とはいえ、この手札で何が出来るのか。戦闘経験など皆無に等しい...なんの技量も持たぬ日本の学生がこの自然環境下で生きていけるのか。些か不安であるがやるしかあるまい。と、俺は思い直し探索を再開した。




