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下界の神様奮闘記  作者: LUCA
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神様と子供④

 鳥居家の、姉妹仲直り計画兼家族旅行会議の日が刻一刻と近付いてきている。凪沙ちゃんのお姉さんに会った後も色々とシミュレーションしてはみたものの、正直全く成功のシチュエーションが見えてこない。なぜ家族旅行に関係の無い俺が仲裁に入らなければならないのか。今になってお母さんに対し怒りが湧いてきそうになる。

 しかし、これだけお世話になっている手前、怒るわけにはいかないのだが……。


「神山さん! 実はうちの両親、今度結婚30周年を迎えるんですよ! うちの両親、節目節目でいつも私たちを巻き込んで旅行とかパーティーとか考えるので、今回もなにかあるんだろうなー。神山さんも一緒だったりして! 」


 あの両親、節目節目でやってたのか。家族を巻き込むって凪沙ちゃん、お姉さんと喧嘩してるのを忘れてるのかな? あと、家族旅行に俺が行くわけにはいかないだろう。


「そ、そうなんだね! それはおめでたいね! 良い30周年の記念になると良いなぁー」


 申し訳ないけれども、本当はそんなことより喧嘩の仲裁がうまくいくことを何よりも願っている。失敗したら色々と修羅場だからな。


 ……そういえば、お父さんの方は喧嘩の件知ってるのかな? そうだ!お父さんの方に相談してみよう! 一家の大黒柱として、何か良い案を出してくれるかもしれない! なんで今まで気付かなかったのだろう!


 思い立ったが吉日、早速仕事を終えたお父さんの所へ向かう。仕事終わりで疲れているだろうが、なにしろ超重大案件で急を要する。お父さんは明日も仕込みで早いだろう。出来るだけ手短に、家族旅行の件と二人の喧嘩について話す。


「あの二人喧嘩してるのか? それは知らなかったな! がははは!」


 まるで「年頃の娘のことはよく知らない親父」の典型例のようだった。なんとも頼りない親父ではないか。


「子供のことはほとんど母さんに任せてるからな! 晴人は男同士だから話すことはあるが、最近の娘二人のことはさっぱり分からん! 神山さんの仲裁の結果で家族旅行出来るかどうかが決まると言っても過言ではないな。頑張れよ!」


 相談した俺が馬鹿だった。


 そしてついに当日。前日はシミュレーションしすぎてあまり眠れなかった。まるで頭の中が会議室だった。何人もの俺が、俺の頭の中で喧嘩の仲裁をシミュレーションしていた。

 しかし、なんせ頭の固いおじさんが何人も集まった会議室である。良い結果が飛び出すわけがなかった。


 約束の時間が近づく。凪沙ちゃんと晴人くんは両親に呼ばれリビングに集まっている。そこになぜか俺も加わる。

 お父さんとお母さんの方を見ると、既に旅行のパンフレットを開いてキャッキャと話している。今から喧嘩の仲裁が始まるとは思えないくらい緊張感がなかった。

 晴人くんを見る。朝早く起こされたためか、1つ大きなあくびをした後、気怠そうにスマホをいじっている。こちらもまるで緊張感がない。

 凪沙ちゃんは……、よく分からないがニコニコしている。お姉さんが来ることを知らないから緊張感がないのも当然である。


 つまり、この場で緊張しているのは俺だけだった。


 唐突にインターホンが鳴り響く。お母さんが室内インターホンに向かって歩き出した。室内インターホンのスピーカーから訪問者の声が漏れ、それが部屋全体に届いた。

 その声を聞くやいなや、さっきまでニコニコだった凪沙ちゃんの顔が、この間見たお姉さんの般若顔のように険しくなっていく。


 お母さんが玄関へ訪問者を迎えに行く。夢ならばここらへんで覚めてほしい。

 しかし、体をつねると痛かった。痛みを認識することで夢ではないことを確認するという行為を、神生じんせいで初めて行った気がする。


 お母さんと訪問者が部屋に入ってきた。この家を訪れた人物は、この間見たお姉さんに間違いはなかった。二人を見比べる。同じような般若顔が2つ、同じ空間に存在していた。


 ……仕方無い。ここは「元」神の能力の出番か。

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