75.VS 鬼の首領①
「カハハッ!!」
基礎の身体能力は向こうが上。
鬼は体内で魔力を循環させ、身体強化を行う。
戦いが始まった。
一閃。
鮮血が飛び散り、斬撃がミーシャを襲う。
一瞬にして間合いを詰める、《空間移動》と同等の速さを身体能力のみで実現している。
人型の生命の中なら間違いなくトップクラスの身体強化性能。
「ふんッ!!」
鮮血で作られた大剣を刀で防ぐ。
「――《絶対身体》」
身体強化は飛躍的にはならないが、この魔法はミーシャが本気を出そうとする証拠だ。剣の戦いは間合いを詰めるのが基本だ。
剣撃が瞬く間の速度で続く。
魔法は万能級であり、剣の技術も卓越している。
「くッ――」
単なる剣の技術では勝てないと数秒の剣撃で判断した首領は距離を取り、手を掲げる。
「ん……」
「――《鮮血手腕》ッ」
鬼が魔法を行使するなんてあり得ないが、あれは独自で編み出したオリジナル魔法だろう。
なぜ、鬼族が魔法を使えないのか。
魔法というものは魔力があるものが、効率的に事を成すために魔法が編み出された。
魔法の適正は魔力があっても可能とは言えない。
魔法使いと呼ばれる者、全てに才能があるからだ。
そう、有り体に言うなら鬼族には魔法の適正がないからだ。魔力があろうと魔法という型に流し、魔法を成立させることが出来ない。
鬼族という種族は魔族の亜種であるが、悪魔のように魔力が豊富ではなく、鬼の首領のように上位個体並の身体能力など種族の中でも一人いるかいないかだ。
「面白い、ふッ――」
鬼の首領の左手から鮮血の手がミーシャに伸びる。
オリジナル魔法を編み出すことが、魔法を行使する以上に凄いものだ。
なら、それを圧倒する。
迫ってきた《鮮血手腕》を斬るが、すぐに形を戻し、眼前に迫る。
退魔の効果は本体に有効。考えれば、退魔の魔は魔法ではなく魔族なのだ。
「――《蹂躙暗黒》」
片手を首領に向け、詠唱すると暗黒が蹂躙を開始した。
上位魔法の中でも威力は凄まじい。範囲を絞っているが、本気なら広範囲に広げれば、国一体を削ぎ落すことが可能だ。
だがあの身体能力で避けられる。
避けられてしまえば、上位魔法であろうと相手にとって脅威ではなくなってしまう。
「なら――《空間支配》」
空間を把握し、対象を追尾する環境に変化させる。
鬼の首領もただ感覚で空間が支配されたことに気付き、先手を打った。
「――《鮮血渦》」
鮮血が渦を巻き、迫る。
「――《絶対障壁》」
絶対的な障壁。
その障壁を突破することは不可能、鮮血は飛び散る。
だがあの血液の量、貧血にならないのか。
いや、鮮血の全てに魔力が通っていることを考えると魔力を血液に変換しているのか。
身体強化はまだ途切れることはなく、効果を発揮している。
鮮血魔法なんて初めて見た。
二千年もあって血液を魔法として扱うなんて発想はなかった。
だがそれは恐らく種族特有のものだろう。
「――《空間移動》」
距離を詰めるには身体能力だけが全てではない。
『万能の魔法使い』であるミーシャには一切動かなくても魔法で何とか出来る。
「隙あり、ッガ――」
意識が揺らぐ。
何だ、と考えた瞬間、横腹に強烈な蹴りを食らい、吹っ飛ばされた。
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