69.暗黙法
「何の真似? その偉大なる魔法使いに手を出して、ただで済むとでも?」
「これはあくまでも交渉です。この娘の命はこちらが握っている。いくら貴方が偉大な魔法使いであろうと助けられる可能性は低い……」
まぁ、確かにいくら何でも超近距離の攻撃は上位の魔法使いでも対処不可能かもしれない。
だがミーシャは万能であることを忘れてはいけない。
「まぁ、少し考えれば予想はつくね。退魔の鉱石の貴重性が分かるね……それで?」
「さっきも言った通りだ。その退魔の鉱石を渡せ」
「嫌だ」
「なら、仕方ない!」
アカリを捕らえた一人が彼女の首に短剣が触れる。
「――《対象束縛》」
「なッ……何? お、おい!!」
身体が硬直する。
空間系の中で対象と判断した相手を束縛し、その効力はミーシャの魔力に依存する。
展開された範囲にミーシャの魔力量が束縛をする。
「《空間支配》・《空間移動》」
二つの空間魔法を詠唱し、自身を中心とした空間を支配し、事象を把握して空間移動でアカリを救出する。
「私はこの国の部外者だが、何で退魔の鉱石が必要なの? 今までも本当の事は分からないけど退魔の鉱石が発生する確率は相応にあったはず……なぜ、今になって?」
「ふん、お前に言うことなんてない」
はい、何かある。
言い訳するということは確定で何か最近、理由が出来たのだろう。
「まぁ、束縛したその人の記憶の除くこともできるけど……」
暗躍部隊、暗黙法の人達は隠している顔を見合わせ、リーダーであろう束縛されている男に話す。
「リーダー、この規格外の力を持つ者なら、話してみたらどうですか?」
「ば、そ、そんな……で、でも……」
魔法で束縛されているため、口を動かすだけでも大変だ。
それを見かねてミーシャは《対象束縛》を解除する。
「やっぱり何があるんだね。私の予想は退魔の鉱石を欲している点から魔の関連だろうけど、まさか鬼が?」
「あ、あぁ……数年前、国の首脳、明桜会に鬼の首領である個体から接触を受けたんだ」
鬼の首領。
この付近で発生した魔の頂点、魔王に次ぐ力が復活した、ということだろうか。
確か、退魔の鉱石で製造された刀を用いて、魔を退けたが打倒したということはないため今でも生存していたのだろう。
「何か、脅されている?」
「あぁ、退魔の鉱石で製造された武器は全てが破損し、退魔の効果が消えてしまい、魔に対抗するための方法はもう既になくなっていた。だからもうこの国はかつての魔を退けることは出来ず、脅され、極秘に城の内部で人を育成し、生贄を捧げていた」
「へぇ~、鬼、ね……私も実際見たことは名いけど、魔の王は魔王だけど、そんな独立した個体がいるなんて、不思議に思っていたけど……」
魔王は魔族の王。
魔族とは魔という禍々しいものから誕生した生命の総称であるため、鬼もその部類に含まれているが、魔王の領土より離れていたため従うことはなかったのかもしれない。
「鬼の首領……私が退魔の武器を製造して、鬼を倒そう!!」
「え……いいんですか?」
「退魔の効力も兼ねてね、鬼の首領にも興味がある」
この国の歴史、その強さから魔王に次ぐと想定している。
ミーシャはそうあってほしいと願っている。
魔法を研究し、極めた彼女にとっては強さというものには気になることがある。
「来る戦いの前、肩慣らしとして……鬼の首領と戦う!!」
【“面白い”と“先が気になる”と思ったら、『ブックマーク』や『☆☆☆☆☆の評価』をしてくれるとモチベーションアップに繋がるので何卒よろしくお願いします!!!】




