63.三十年前
ミーシャという少女は十四歳の少年キイチロウに存在を話し、悩みを聞く。
「へぇ~旅ね」
「うん、留まることを今はしたくないから。旅の中で魔法や武器に関して探求しているの」
ミーシャは笑顔でそう話す。
年頃のキイチロウには少し心が揺さぶられる仕草など本人は気にせず、無垢な心でキイチロウの家の床に座り、外に足を出しながら夜中に二人で話し合っていた。
キイチロウから見て、ミーシャは異邦の存在だった。
その髪色から顔の形まで……。
彼は伝統の技術、武道を極め、武道会で功績を刻むことが出来れば、上手くいけば生涯安泰とも言われる。
「へぇ~で、君は出来ないと」
「あぁ、そうだよ。何度やっても習った技が出来ないんだ」
自分の実力が鮮明に映し出される部類に入る物事の一つが剣技だ。努力は勿論だが、当人の才能も実力には関わってくる。
全員がある程度の所まで伸びるが、それ以上は才能が物を言う。
それが努力であろうと絶対に限界がある。
それでもキイチロウは登ろうとした。
そこに階段がなくても、階段の目の前へまで行くために……。
だから少年の
彼は強くなりたいとずっとミーシャに言い続けていた。
「努力するのは当たり前、その向こうに才能の領域がある。私は時間で補ったけど、君に一つ言えることはあきらめないことだよ」
「……分かった」
この出会いは彼にとって特別なものになったのは間違いない。
一人で悩み、一人に苦悩した所に現れた一人の異邦の魔法使いに話しをしただけの中だったが、彼のこれからの方向性はこれで決定されたと言っていいものだった。
次の日から彼は早起きをして刀を持ち、庭で修行を始めた。
もちろんそれがこれから毎日続き、異邦の魔法使いミーシャはこの国に滞在することにして、彼の修行を見守った。
この国の剣技は一振りが重要であると考え、一撃で決着をつける剣技や連撃による数回の振りの剣技など、特徴として姿勢から振り方まで全て決定されている。
初めて見たミーシャでも興味深いものだと思えるほどに特徴際立ったものだ。
その主武器である刀。
片刃しかないが、それでこの国の剣技は他国の剣技と並び立つものとなっている。
そしてキイチロウは修行を続けたが、上達する速度は遅かった。
そこまで見てきて、ミーシャは勘づいていた。
彼は、この国の伝統と言える剣技を使いこなすことが出来ない。
つまり才能がないことを……。
何ヶ月も修行を続けて、最初の段階と少しだけしか差に変化がないのは明らかに努力で埋められない部分、才能がないからだ。
「この剣技に関しては君には才能がない……でも、これ以外なら君は才能を発揮できると思う」
ミーシャでも確証はなかったが、彼の決意は強固なものだった。
だからオリジナルの剣技を考え、それを自分の剣技をすることにした。
発案は自分でやり、少しの工夫をミーシャが行うことでオリジナルであり、この国の剣技と十分に渡り合えるほどの剣技を編み出した。
そして彼はどんどん成長していき、四年が経った年の武道会で優勝したのだ。
武道会のルールには剣技の指定などはなく、その剣技はデルゲンハルト流剣技と命名され、その剣技の名は瞬く間に武道界隈に広がった。
だが天才と共に編み出した剣技は国の剣技と似て非なるものであり、習得することは国より難しい形となっていた。
そう、彼には才能がなかった。
だがオリジナルとして編み出した剣技、ミーシャと共に生み出した剣技を全身全霊で修行を積み、完成させた過程が彼を剣の天才と呼ばれるほどまでに育て上げたのだ。
「ありがとう、師匠!」
そう、言われたのは優勝した直後。
そんな立場ではなく、ただの友達として付き合っただけだったが、彼にはそう認識するほどの変貌を受けたのだ。
自分が育てられたように……自分も育てたことに嬉しさを覚えたのは、リーネが初めてだった。
あの時は純粋に嬉しかったのだ。
「こちらこそ、ありがとう」
彼の言葉を聞いて、ミーシャはそう返した。
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