60.ハウレスレイブの新生
「ん……痛た……」
意識が浮上する。
身体が重い、瞼を開けると黒いゴツゴツとした天井、ならここは洞窟の中だろう。
となると、こうなる前の出来事を思い出す。
そうだ、終わったのか……。
「ッ!」
でも、あの後、私は魔力枯渇で倒れたはずだが、と慌てて状況を確認するため起き上がる。
どれほど眠っていただろうか。
「あれ……」
自分が倒れたことで心配して見守ってくれていたのか、右にリーネ、左にシナが眠っていた。
「起きたか……『万能の魔法使い』よ」
それは凛々しい声、発すると同時に空気が熱せられる感覚だ。
「ん……炎の竜、四大竜の一角の個体、か」
「そうよ。私は炎竜フレイ。竜王が死んだことを確認したから、ヴィーゼから状況を聞いたわ。貴方が竜王を殺したそうね」
「まぁ、間接的にだけど……」
同胞を殺された状況だが、予想通りに同じ『四大竜』の一角である炎竜フレイはミーシャを恨むことはなく、ただ冷静に状況を飲み込んでいた。
「私が言うのも何だけど、これからどうするの?」
その質問に対して竜王を除いた三体の竜の中でリーダー格であろう風を司る竜、風竜エールが答える。
「無論、『四大竜』に数えられる三体の一体が担うことになるだろう。それかそこにいるシナが後継者としては適任だ。目で見ただけで彼女の変化は伺える」
「……それは本人が望むなら、私はいいけど」
「そうだな。貴方はそう言うと思った……なら、もう決めてしまおうと」
「じゃあ私はもう用はないな」
「その話だが、貴方はこれからどうするんだ?」
「私は各国周辺から離れようと……魔法国関連のこと、あいつのことを調べることは諦めていないけど……そんなすぐにやっても、自分が望むような結果にならないと思うから」
自分の中では、常識、このままではあのナイラ・ディルリオンには勝てない。
あれは短期間でどうこうなるようにはならないのは知っている。
あいつが魔王の側近。
かつての仲間達の死体を盗んだこと、ならその死体を利用することは間違いないだろう。
そして奴の戦力は元々の側近たちの戦闘能力を持つなら、対策を立てないと如何に自分でも手に余るものがある。
まず死んだ仲間と戦うことになると覚悟しないといけない。
そんなこと、すぐには出来ない。
「そうか……」
「私はまだ勝てない。だから……北東の国に向かう」
「北東……古風の国、桜花か……」
「あぁ、あそこは他国の干渉は皆無だし、この山脈のおかげでもあるが、交流はあるでしょ? 一体くらいは」
「あぁ、確かにあそこの国の者達は他国とは違う文化と風格を持つ。私エールが気にかけている国だ。友好関係と言っていいだろう。目的は?」
「休息と鍛錬……あの武器製造などだが? 別に問題ないでしょ?」
新たな竜種の指導者として風竜エールが君臨し、竜種は新生を迎える。
そのきっかけとなった『万能の魔法使い』ミーシャについては竜種の中では名の知れたものとなり、竜王とは反対意見だった個体からは英雄と呼ばれる。
シナの母であるルフィアはなくなり、竜剣が刺さっていた場所に名が刻まれた墓石を立てて、シナは乗り越えるようにすぐにミーシャと旅立つことにした。
「ミーシャ様、お疲れさまでした」
リーネの召喚獣ルナが頭を下げる。
「いや、君も召喚獣として良く役目を果たしたよ。さぁ、行こうか、方向はあっちね!」
北東。
ハウレスレイブ山脈を超えた先にある古風の文化が特徴な国。
ヴァーリシュ王国、ラヴァエル聖王国、ガルファス帝国、アリュラ魔法国などの四大国家の中では異邦の国家と扱われるほどに国同士の交流など一切ないのも特徴の一つだ。
そこで休息と強化を目的とする。
まず、表舞台である場所から消えてナイラや繋がっているであろう各国の動きを様子見することにする。
大きな戦いが起こることは決定されているため、その前までに準備を完了させる。
魔王が無くなり、二千年が経つ。
再誕する期間は分からないが、二千年も経てば、次代の存在が生まれる時は近いだろう。
その頃、魔王領の西に位置する破滅領ディルリオン。
かつて終焉の魔王の配下になることはなく、強大な魔王という存在と渡り合い、あの時代の中では魔王と同じくらいの認知度はあった存在。
漆黒の塔。
かつて魔女から魔王と互角に渡り合うほどの実力を身に着けた天才、ナイラ・ディルリオンは最上階の展望台から地平線を見つめていた。
「ナイラ様、動く準備が整ったようです」
「あぁ、ありがとう。ミナ……」
ただ一人の使用人にして配下のメイドからの知らせを受け、笑みを浮かべる。
彼女は抱くものを手に入れようとしている。
そんなものはミーシャもすぐに予想がつくことだろうが、対抗するには戦力が足りない。
彼女は正真正銘の世界最強の一角。
あの時代の終幕は魔王陣営が各国の標的に絞り込まれ、勇者を筆頭に殲滅隊が進行され、結果は滅ぼされた。
その後、破滅の魔女の話は聞かなかったが、寿命で死んだと思ったが、彼女は生きていた。
「さぁ、ミーシャ……かつて見習いだった貴方が、どうやって来るか。無論、最後に前に立つのは貴方だって信じているよ。あの『終焉の魔王』アビルス・シィル・ルヴォロワールが認めた逸材なんだから……目的達成の目前まで精々、足掻いてくれ――」
そしてターニングポイントが発生する。
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