57.竜剣の内核
「竜王ッ!!」
氷の迷宮に続く通路を通り、ミーシャはその瞳に竜王が映った途端、怒号を吐き出す。
「チッ、ヴィーゼ。あいつ殺せなかったのか!?」
「ふん、あれで私が殺せると思うな!!」
「ルナ、頼んだよ!!」
「了解です!!」
黄金の霊獣は主であるリーネを背に乗せ、竜剣へと駆ける。
「いない!」
その声にミーシャは反応し、その方向を見る。
確かにその方向にシナはいない。
まさか、もう竜剣に取り込まれたのか……。
「ッ――」
ゴォォォォォッと空間が震え、咄嗟に前を向くと赤き炎が迫っていた。
「くッ――」
常時装備している杖で対抗する。
魔法使用に関しては絶大な使いやすさを誇るミーシャが一番に造り上げた武器であり、思いの入れようは他の武器を上回っている。
この杖は彼女の本気に強く結びついている。
その杖はミーシャが魔法を使用した時に絶大な効果を齎す。
この杖は現存する魔法の杖の中で所有者を選び、魔力の流れは非常に精密なものであり、彼女が握っている度に漏れ出すミーシャや大気中に満ちる微量な魔力を先端に蓄積している。
その気になれば、数秒で砲撃の如く威力を放出できる。
その瞬間的出力はどの武器を凌駕し、あの終焉の魔王、彼女の師匠とも言える存在と互角に渡り合うことができる。
「放て!!」
ミーシャが持つ白杖の先端から膨大な魔力が放出される。
その光は赤、青、緑、橙、黄、紫と全属性を束ねた魔力の塊、瞬間的に顕現した力は竜王の息吹を受け止め、拮抗する。
流石、竜王と呼ばれる個体。
蓄積された魔力量と拮抗するような威力を一息で成せるなんて最強の生物と言われるのは伊達ではないようだ。
「くッ……舐めるなぁ!!」
自分の身体から魔力を流す。
それは奔流のように激しく、魔力を杖に通して出力する。
「あぁぁぁぁぁッ!!!」
この魔力が無限に続くわけじゃない。
あのスキルを再度発動しないと絶対有利にはなれないが、だがそれが欠けただけで彼女の強さが揺らぐのかと言われれば、彼女は否定する。
あらゆる事態を想定しているからこそ、彼女はあれに頼るが、頼らなくても何とかできると……。
ドゴォォォッ!!!
双方の力が相殺され、空間に洞窟に広がり、轟く。
「竜王!!」
属性の中で一番の威力を誇る魔法を展開する。
それは《閃光大剣》だ。
あの膨大な魔力を放出したが、すぐに魔法を展開できる魔力保有量に竜王の側近たちは驚愕して反応が遅れる。
無詠唱であるため急な魔法展開。
ミーシャの周囲に無数とも思える数の光の大剣が顕現し、その全てが竜王と側近に放たれる。
その威力は竜種の身体に傷をつけ、回避しなければ容易に肉体を貫く。
「貴様……」
眼前の全員に攻撃を放ったが、竜王をほぼ全てに向けていたため、竜王は深い傷を負っている。
だが生物の中でも最強と呼ばれるほど伊達ではなく、生命の核である心臓を破壊しない限りは生き残るほどに竜種の生命力はしぶといと言われるほどに強い。
「《対象束縛》」
逃げられないように空間系上位魔法――《対象束縛》を展開し、束縛する。
「竜王を殺す、それまでじっとしててね!」
少女の姿、だがその怒りは竜種でも震え上がるほどの雰囲気を放っている。
他の竜はその脅しに素直に従い、全員が動きを止める。
これで粗方邪魔なものは片付けたため、ミーシャはリーネの方を見るが、シナの姿がいないことに気付く。
「え……おい、シナは?」
「ぐぅ……は、もう手遅れだっていうことが分からないが、魔法使い。もう手遅れなんだよ!」
その言葉にミーシャは殺そうとするが、抑える。
殺すが、まだこいつがやることを理解しなければ殺すのも殺せない。
「《物体探知》、《魔力探知》、《存在探知》……」
探知系を詠唱し、竜剣の状態を確認する。
「ッまずい、リーネ!!」
遅かった。
竜剣の中にシナは取り込まれ、適正者とまだ判断されていないが、肉体を取り込んだことで竜剣は変貌する。
ドォンッと大爆発が起き、リーネとルナは吹き飛ばされる。
それは顕現した。
竜剣となった初代竜王のような巨体、実体ではなく魔力の影、それは暴走状態に近い。
「ッ……クソ、大丈夫。ちゃんと救うから……」
そうだ。
ミスをしてしまったが、彼女はそれを補う力を保有している。
彼女が力を得るきっかけはこのためにある。
だからミーシャは決意を思い出し、顕現した初代竜王の影に歩む。
「この力は自分の思いを叶えるために、あるんだ!!!」
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