56.青い光
私は変わっていた。
まず成人を迎えてから私は本領発揮と言わんばかりに違いがあった。
魔力保有量が魔法使いより上だったことだ。
それが彼女が実験体として選ばれた理由でもある。
彼女は普通とは程遠かったが、そんな彼女が人を惹きつけるものは美貌だった。
その美貌のおかげが帝国の貴族の所に嫁ぐはずだったが、魔物の襲撃をチャンスに彼女は逃げ出した。
自分のことはよく知っている。
自分がおかしいことは一つ、魔力保有量が魔法使い以上だったことだ。
でも、そのおかげで一人の存在と出会えた。
帝国行きの馬車が逃げ出した私は竜王の実験の素体を探している下位の竜種に捕まってしまった。
竜王という個体がいることは人の誰もが知っている。
私が実験体に選ばれたのは彼女がおかしいという点、それだけだ。
おかしいことがおかしいことを引き寄せた。
不幸が不幸を呼んだ。
最初は不安に埋もれ、竜王の子を身籠ることを強制され、悲しみに押しつぶされた。
だけどその先にいたのは天使だった。
生まれた子は人間のような形、青い髪に赤と青のオッドアイ、自分に似た女の子、竜の人、竜人が生まれた。
とても可愛かった。
しかし五年が過ぎた時には子供の離れ離れとなり、私は遠くで見るしかできなかった。
これも竜王の計画なのか……。
私の人生は不遇な人生だったが、それでも私が立ち上がっていられるのは一つの光だけだ。
あの光が見えるから私は立ち上がっていられる。
だから……私は……。
「お母さん!!」
「大丈夫ッ……私に任せて!!」
竜王のブレスを防げるなんてことが奇跡だ。
ミーシャ級の実力者、例を挙げるなら勇者や魔王と同等の存在なら可能な話だ。
竜種の本気のブレスは上位魔法と同等か、それを凌駕するだろう。
「クソォォォォォッ!! クダケロォォォォォッ!!!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
両手で耐えるが、その腕の筋がブチブチと千切れて《不動水盾》が崩壊する。
それでもルフィアという一人の女性は娘であるシナの前に立つ。
彼女にはかすり傷もつけないと立ちはだかる。
上位魔法――《不動水盾》は砕けたが、彼女の体内にある魔力が彼女の身体を包み、シナの盾となる。
母の背中は青い。
竜種のブレスを受け止める自体が自殺行為である。
それを承知の上で彼女を守る。
それが母親としての信念、決意、覚悟。
ただ自分の大切なものを守るために……。
「ッ――」
「死ねぇぇぇぇぇッ!!」
グサッと鈍い音がシナの前から聞こえた。
もう痺れを切らして竜王はその腕を振るい、爪で彼女の身体を突き刺したのだ。
「かッ……」
「あ……」
身体に大きな身体が空く。
鮮血がシナに飛び散る。
赤い血、生命の源、そして生命が砕ける音が聞こえた気がする。
「お、お母さん……」
嘘だと思いながら母親に手を伸ばす。
そして手が届く前に母親はバタリと倒れる。
「お母さん!!」
涙を流しながら、叫ぶ。
初めて出会った母親、自分のことを命の危機を顧みず、守ってくれた人。
自分にとって大切な人、大好きな人。
しかしそれはあっという間に崩れ去った。
「シナ……大丈夫?」
彼女の頬を撫でる手。
暖かいが、それは冷たくなっているのが分かる。
自分がこんな状態でも娘を心配している。
「お母さん……」
「シナ……あの人は強いんでしょ?」
「え?」
「あの、金髪の女の子……見た目はそうだけど、女の子って言う感じじゃなくて」
檻の中から見ていたミーシャを見て、普通じゃないことは見抜いていたのだ。
彼女がシナを助けにきた人、師匠と呼ばれた人。
「師匠、か……あなたがそう言う人なら任せても、大丈夫」
「お母さん」
触れる手を握り、温かみを強く感じる。
「もうあなたは大丈夫……最後にもう一度、会えてよかった……シナ、大好き」
満面の笑みでそう、彼女に告げてルフィアの命は尽きた。
死んだ。
それだけがシナの頭の中を埋め尽くす。
目の前の人の死。
それは子供が一番絶望する親の死が今、起きてしまった。
「ふん、手こずらせやがって……さぁ、触れろ!!」
もう待つはしない竜王は指でシナを弾き飛ばし、竜剣へとぶつける。
その瞬間、竜剣が神々しく強く光り輝く。
「よし、さぁ、俺のためにそれを掴め!!」
そしてシナは竜剣に接続された。
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