55.竜剣の血縁者
「さぁ、やれ!! それがお前が、ここにいる理由だ」
竜人。
竜種の中から稀に生まれてくる個体、その仕組みは竜には人間の遺伝子が最初から混じっている。
それは起源を辿れば、この星から生まれたと同じということだ。
しかし人の遺伝子が竜に影響することはほぼないが、その確率が少し傾いた時に生まれることもある。
竜と人の子供。
言葉だけでは不可能な案件だが、シナが生まれたのは竜王の強運だったからか。
当初のシナの扱い方を考えたら、何も策略もなしに興味本位が理由で人間を実験台としたのだろう。
人の竜との行為はどう見たって不可能だ。
快感が目的なら、竜王の権限で雌個体にどうこう出来ると思うからな。
「早くその竜剣を掴め!!」
シナはもう逆らえない。
彼女の誕生は誰からにも望まれてはいなかった、のかもしれない。
竜の住処、ハウレスレイブ山脈の下に位置する場所、竜剣が眠る場所。
初代竜王が転生した姿。
実際に使用されたのは初代勇者のみであり、その理由は使用した者が受ける副作用がどの生物にも重すぎるものだからだ。
それは生きとし生けるものの中でも最上位の存在の竜種でも手に余るものであり、竜人であるシナでも力が蝕む。
竜王はあの力をどうにか自分の者にしようと企んでいるが、その力に恐れ、渋っていたが人の竜の人間という稀中の稀の存在がいたことを思い出し、望まなかった自分の子供を利用する手はない。
「早くしろ!!」
自分が信じられるものは師匠とリーネだけ……。
もう従うしかないとシナは師匠が絶対に助けてくれると信じ、竜剣に手を伸ばそうとしたその時……。
「待って!!」
女性の声が洞窟に響いた。
シナの前に水色の長髪、青い瞳の女性が立ち塞がった。
「え……?」
最初は意味不明だったが、何か違和感を覚える。
この心が温かくなること、どこか少し似通っている容姿。
「お母さん?」
そう、彼女は思った。
人は絶対に足を踏み入れることのない場所に女性、その正体はただ一つだろう。
彼女は知らなかった。
自分の母親の姿なんて……親という存在で焼き付いているのは父親である竜王だけだ。
「何をしている? お前の役割はもう終わったんだ。おい、ルフィア!! どこをどけ!!」
竜王の怒声。
最後の利用価値は囮だろうが、それが必要なくなったためにもう彼女の利用価値などない。
ただの人。
ただの一瞬の関係だったはずだが……。
「いやです!!」
「なぜだ。人間風情が、この俺の計画の邪魔をするのか!!!」
「あなたには理解できないことでしょうね。でもこれは当然の行い、当然の行動、母親として、今までの責任の行動です!!」
「くッ……で、どうする? 人間のお前に何が出来る? あの魔法使いによって数は減ったが、俺の配下はまだ多い。この状況で、本当に何が出来る?」
「こんな私でも足止めくらいは出来ますから」
「足止め? はッまさかとは思うが、あの魔法使いたちを待っているのか? 残念だが、あれはもう死んだと思うが……が、いいだろう。どっちにしろ不愉快だ。この俺が直々に手を下してやる!!」
竜王、鋼のような色の鱗に覆われ、外見からしたら竜王に相応しい姿をしている。
だがその中身は別だった。
一言で表すなら、クズだ。
「お母さん?」
「大丈夫、あの人達が戻るまでは私があなたを守る!!!」
竜人の子を身籠った女性。
彼女はただの人間だったが、竜の遺伝子を保有し、自然と出産をした彼女がただの人間とは言えない。
人以上に生物としての性能は上回り、保有する魔力も莫大である竜種を身籠った時点で命の危機に関わるはずだ。
だが彼女は生きている。
「水の魔力よ、ここに――《不動水盾》ッ!!!」
水を集めた鉄壁の魔法を展開する水系統の上位魔法で防御力は最上級だ。
「死ねぇぇぇぇぇッ!!」
完全に消すために竜王は口に魔力を溜め、吐き出す。
ドラゴンブレス。
それは水壁へとぶつかり、周囲に衝撃が走る。
「ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
人並以上に魔力を保有するルナは両手で踏ん張り、全力で魔力を流す。
だが流石、上位魔法はそう簡単には突破できない。
ただ魔力の塊を吐き出す竜種とは違い、その魔力を効率的に運用するために作った人の最大の進歩、武器とも言えるもの、それが『魔法』である。
そしてここは竜剣が刺さってから数千年も存在する場所。
竜王の転生である竜剣から漏れている魔力が満ちる場所であるためその魔力を変換し、ルフィアは《不動水盾》を保つ。
これでは竜王が決定打を繰り出さなければ、魔力が枯渇するか、変換元である彼女が崩れなければ、拮抗状態は変わらないだろう。
「この往生際が悪いぞ!!」
「いや、当然の結果ですよ!!」
「クソ、野郎が……」
「お母さん……」
「大丈夫、私が絶対に守るから――」
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