49.奈落の底
それは正に予想外過ぎたことだった。
まさか竜が魔法を使ってくるなんて……あぁ、完全な予想外だ。
「なッ――」
「きゃぁぁぁぁぁッ――」リーネが叫んでいる。
それもそうだ。
移動先は奈落であり、今私達は落ちている。
意図的に設定されたということは、ここまで読んでいたということか?
そうだとするならば、とんだ策略家だ。
「し、師匠ぉぉぉぉぉッ!!」
「《飛行》!!」
自身とリーネに魔法を発動し、落下速度を下げていく。
空気は冷たい。
上には灯りがあるが、それ以外は暗くて何も見えない。
ドサッと下から死体が落下した音が聞こえた。
時間差から結構の高さだ。
迷宮三層分くらいはあるんじゃないか?
それにしても……。
「クソ……」ミーシャは静かに悔やむ。
あそこでの殲滅は正しかったし、予想外過ぎて自分を責めるものがない。
「まさか、竜が魔法を……何で! クソ、シナ!!」
「シナ……師匠、これからどうしましょう」
奈落へ落とされ、ここがどこだが分からない。
だが魔力に関してはあの竜王と対峙するなら、今のままなら足りる。
最終的な切り札は偽原魔法と私の努力の結晶……。
「魔法効果範囲拡大、広範囲魔法――《空間支配》」
魔法効果範囲拡大は魔法国の中でも数人ができる拡大魔法であり、大抵の者には扱うことできない技だ。
それをミーシャはいとも簡単に熟し、周囲の空間を把握する。
「やっぱりここは奈落の底みたいだ。それに下に魔力を感じる……それほど地下というわけか?」魔力は世界から溢れるのなら、地下深くに魔力が溢れていても不思議じゃない。
「ここに落ちたのは偶然なのか……まぁ、死体置き場なら納得は行くな。まぁ、結局は上がるしかないな!」
「奈落……? そういえば、竜剣って地の底に封印されたんですよね?」
「あぁ、そうだけど……それよりシナを救出って、え――」ミーシャがリーネの背後の光景に釘付けになる。
「竜の死体が……」下から現れた黒い煙は竜の死体に近づき、包み込む。
すると徐々に煙の色が黒くなり、巨体である竜の死体は消滅し始めた。
まるで生物が捕食をするかのように……だけど生物じゃない。
魔力自体が生物の死体を貪っているようだ。
「何、これ……」
「離れてリーネ、私もこれは見たことがない!」ミーシャは困惑したが、すぐに鑑定魔法を発動する。
――《魔力鑑定》
属性は不明。
まさか分からないなんて……でも考えればあり得ることだ。
魔力の源は世界そのものであり、世界の中心から溢れてくるもの……でも魔力源論の中には元の魔力は属性と呼べる区別はなく、世界の表面に出た魔力が自分達がいる大地に触れた時に属性に入れ替わるという理論だ。
それが本当なら表面の技術である鑑定で不明となるのは、納得だが……。
「師匠!!」
「え……?」ミーシャが思考を巡らせているとリーネが叫ぶ。
二人の前にいた黒い煙は竜の死体を食い尽くし、一点に集めり、その肉を覚えたかのように竜の形へと成る。
「な、何だ?」
「グオォォォォォッ――――」
その煙は唸り声を上げ、竜の咆哮と同じものを吐き出す。
「くッ――」
煙なのに声が?
とりあえずあれの正体は分からないけど、戦うしか……。
「グォォォッ!!」
「キャァァァ!!」
「――《獄炎渦》!!」ミーシャはすぐさまリーネの前に立ち、魔法を発動した。
ミーシャを中心とし、獄炎の渦が形成され、黒い煙を払うが消滅には至らない。
それよりか、黒い煙はダメージを受けている感じはなく口を大きく開ける。
「嘘……」
その光景は見たことがなかった。
「炎を、いや魔力を食べている……」
「そんな……」
そうか!
竜は世界から生まれた。
ということは、魔力そのものでもあるのか!?
なら、あの煙が肉体というか魔力を食べられたことは納得がいくが、でもならこいつの正体が更に分からない。
見た感じだと、魔力として食べた竜を真似ているような感じだ。
それより魔力を食べられては、魔法は不利だ。
でも相手は煙だ。
物理でも攻撃になるか怪しい。
それに目はないけど、魔力を食べるなら魔力に反応するということ……内に魔力を保有する魔法使いは恰好の的だ。
「クソ、なら――」ミーシャは決断し、リーネの手を握り、魔法を解除する。
「――グォォォッ!!」
それと同時に黒い煙はこちらに迫る。
「ふッ――――」
「え、きゃぁぁぁぁぁッ――――」
上に登り、あれを退けることは自分だけなら可能、なら無理だ。
だったら、下に行くしかない。
シナ、絶対に助けるから!
そしてミーシャとリーネは奈落の更に下へと飛び込んで行った。
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