47.魔法がないなら
「よくここまで連れて来た。感謝するぞ、人間!」
その声の主は現れた竜の中でも保有する魔力量が違った。
竜王、その個体だった。
流石と言うべきか、竜王を名乗るだけはある……。
周囲の竜も魔王領で戦った個体より明らかに強い。
これ全部、上位個体!
「シナ!!」
「ミ、ミーシャ様……」
「くッ――貴様!」怒りで我を失いそうになったが、正面を向いた瞬間、目の前に炎が迫っていた。
「ッ――――」
だがしかし自身に向かってくる炎で我に返る。
「ほう……その力、魔王領の同胞を全て殺したのはお前か?」
「正解! で、私の弟子に何してくれているの?」
「何か、勘違いしているようだが……それは貴様の弟子でもない、紛うことなき我の所有物だ」
所有物。
その言葉を使うということはシナはもう娘とは思われてはいないみたいね。
そして外道なことを平然と口にする元凶の奴。
いいよね。
あれだけ殺す要素が詰め込まれているんだから……殺意が湧かない方がおかしいよ。
「貴様の言い分など私には関係ない! それにもうシナは私の弟子なんでね。返してもらおうか!」
「フハハ! この魔力が枯渇した場所で魔法使いが戦闘できるとは思わないことだな! ぐあッ――」と高らかに話していた竜王、その他の個体の身体が地に引き寄せられた。
「ふ……――《重力操作》、貴様らを殺せるくらいの魔力は保有しているんだよ!」そう言い放ち、ミーシャは杖に魔力を込め、シナを囲む魔法壁に叩きこむ。
大抵の魔法障壁は力で破ることができる。
パキンと音が鳴り、半透明の魔法障壁が突破された。
恐らくだが、束縛魔法の類だろう。
竜の魔法技術が低くて助かるが、これくらいの魔法は行使できることがわかったな。
「シナ、大丈夫か?」
「み、ミーシャ様……ごめん、なさい」
さっきの雷のダメージか。
この程度なら下位魔法で……。
「《治癒》」
「ごめんなさいミーシャ様!」
「いいんだ! でもお母さんが……まだ情報が少ない」
それに流石、最上位の種族だ。
あの《重力操作》を食らっても身体には変化が起きない。
ならやっぱり威力のある攻撃魔法しか通用しない、か……。
まずは情報整理だ。
竜王はシナを娘として見ていないこと、母は檻の中……。
今の状況なら助けるのが当たり前だがこの数は……いや今ここに竜王がいるのなら、ここで戦い殺すことだって手間が省ける。
「リーネ、シナをお願い! 後は下がって!」
「師匠、大丈夫ですか?」
「当たり前だ!」
スキル、発動――――【万能領域】
改めて絶対有利戦法の土壌を作るスキル、魔法と異なる点として魔力消費は一切ないことだ。
「最初は魔力枯渇でこれに目が行っていなかったけど、これがあるなら貴様らに勝ち目はない!」
「その体内に保有する魔力量、今まで見てきた存在を越えている。なるほど、確かに竜の大群を屠る実力はあるようだが、ここにいる者達は全てが上位個体……それをわかっていて、相手になると言うならここで塵となるがいい!!」
ざっと数は二十体。
でも関係ない。
このスキルの特性は一言で言えば、絶対有利になるということ……その仕組みは相手を弱体化させ、自身や仲間を飛躍的に強化するというものだ。
その強化はどこから来るかと言えば、相手からだ。
つまり相手の力を奪うことで相手が弱体化し、自身が強化されると言う仕組みだ。
「ふ……《武器召喚》」
その手に聖魔剣ミアルスが握られる。
一瞬にしてその目は獲物を狙う獣となり、その殺意は確かに竜王も感じているだろう。
そして幼き表情に似合わない笑みが現れる。
「さぁ、厄介ごとを叩き潰そうか!!」
【面白いと思ったら下の星「☆☆☆☆☆」の評価よろしくお願いします。_(._.)_作者のモチベーションに繋がります。】