41.誰もいない故郷
二日経て、漆黒の大地に足を踏み入れた。
この黒は魔王の力で緑が消滅したと言われているが、本当は魔族の魔力が緑を枯渇させてしまったのだ。
「あれが、魔王城……」リーネとシナは釘付けになる。
不毛な大地に孤高にそびえ立つ漆黒の城。
遠方から見ても、禍々しさを感じる。
二千年も経ったと言うのにまだ残っているということは、魔王誕生の前触れかもしれないと冗談交じりでミーシャは思う。
誰も予知することはできない魔王誕生。
それはいつも予想外だ。
「さて、私と一緒なら大丈夫だから行こ!」
誰もいない城は当たり前だが、静かだ。
だがこんなに似合わないことはない。
「へぇ~凄いですね。魔王城って誰が……」
「造られた記述がないことから、この城は世界創生の時に造られたと言われている。その証拠に歴代の魔王と勇者が何度も争ったにもかかわらず、無傷だ。さてさっさと用事を済ませちゃお!」
魔王幹部の墓は魔王城の中庭に六つの墓が立てられていた。
「魔王軍の中で最も優れた六人……」そう言い、墓の正面に向けて慎重に進む。
墓の正面には名前が刻まれており、正面には花が手向けられている。
一番左側の墓を見つめる。
そこがラズウィールの墓だ。
掘られた形跡はないが、そんなものは魔法でどうにかなる。
「《大地操作》……」魔法効果を小規模に抑え、墓の前の掘り起こす。
そこに《収納》から取り出したラズウィールの遺体を安置し、手を合わせる。
「師匠、その人が……」
「あぁ、私に魔法を教えてくれた人……私の師匠だ」
改めてラズウィールの顔を見ると記憶が蘇ってくる。
魔法の特訓からそれ以外のことも色々とこの人から学んだ。
私は、元は人間だった……。
それしか思い出せない。
私がいた所は魔王軍によって壊滅し、そこを襲撃してきた張本人であるラズウィールは私の才能を買った。
正直、その時の私の記憶はないし、恨むという感情すら理解できない年頃だったと思う。
そんな私に生きる意味を教えてくれた。
「ラズウィールは幹部筆頭でみんなをまとめ上げていた。実力も幹部の中でもトップクラスでそんな師匠に私は常に憧れを抱いていた……そして隣が幹部の一人であり、あの魔王の血縁者でもある魔王の兄のカインにその隣が私に剣技を教えてくれたロヴァール、私とは仲が良くなかったグロウリーゼ、いつも私を見守ってくれたゼーガ、そして最後に私と魔法をともに研究し、大の仲良しだったミクロメルザ、そして私も加えて合計七人が魔王の幹部だった」
ミーシャは自然と全員を紹介した。
そして全ての墓の前の土を掘り起こした。
その結果は……。
「ッ……ない。これは全員が手駒として扱われているのは間違いないね」
「そ、そんな……」リーネは死んでもなお、駒とされる状況が耐えられず、ショックを受ける。
「そして絶対に私の前に姿を現すだろう……でも、またラズウィールの遺体を使われたら、どうしようもない……なら、《封印》・《収納》、ここに埋めていくには危険すぎる。そして……空が暗い。今日はここに泊まろうか!」
「え、いいんですか!?」
「あぁ、今は無人だからね。誰も文句は言わないよ。さ、こっちだよ。無人と言っても、迷ってしまうからね!」
魔王城は攻めてきた勇者が迷うほどに広く、複雑に設計されている。
ミーシャに続き、どんどんと奥へと進む。
入り口から入り、すぐに中庭へときたが、今度はそれ以上に長く歩く。
そして広い空間へと出る。
そこは少し日の光が弱く、薄暗い。
目が慣れると天上は物凄く高く、ミーシャ達はいつの間にかレッドカーペットの上に足を乗せていた。
「ここは……」
この空間の奥には巨大な椅子、そうここが魔王城の玉座の間だ。
「今は亡き、王の玉座だ。まぁ、魔王城に来たならここを見なくちゃね!」
「す、すごい!」
「ホコリ一つもない、です」
「確かに!」
「まぁ、ホコリさえもここに漂る魔力で消え去っているからね。じゃあ私の私室に案内するね!」
魔王の幹部時代に使っていた部屋だ。
勿論あの王国に居た頃の部屋より断然広い。
魔王城は全体的に暗い、魔王領に出た時は少し苦労したほどだ。
元来た道を戻り、複雑に分かれている道を曲がるとまた両開きの扉があった。
「ここが、私が使っていた部屋だ。そこは魔法使いの部屋そのものだった!」家具はあの時のままだ。
なんか照れくさいが、苦しくもある。
あの時がもう戻ってこないことを思い出すと……二千年も経っても、心はこんなことで傷ついてしまうのだから精神的に成長はまだまだだと自覚する。
そしていつの間にか日は暮れ、大型ベッドにリーネとシナに寝かせたミーシャはそのまま本棚の横にある梯子に登る。
そこは小さな屋上。
今も過去も未知である星の観察はミクロメルザに言われて、始めたが、意外と楽しかった。
幹部の地位に就く前にもこの部屋をラズウィールにもらって、ミクロメルザを始め、幹部達も良くしてもらった。
魔族の中でも優秀な幹部がそこまで私の才能を買ったと思うと……。
「まだまだ、かな。これから皆と戦うのに……正直不安だ。だから私も弟子たち成長する……全部終わったら、いや後のことなんかいい! 今の目標は自分と弟子の成長とあいつの打倒だ。絶対にやり遂げる……みんな待っててね!」立ち上がり、星に拳を向ける。
すると空間に光の球が浮かび、ミーシャにふわふわと飛来する。
「伝達魔法か……」
「ミーシャ、実は数日前に魔法国のギルドから竜種が活発に活動しているとの情報が入っていてな。それが他の国まで影響を及ぼすまでに状況が悪化していた。生態系の中では最強クラスである生物、ドラゴン……竜種の中でも最高位である存在、竜王。その個体なら一体だけで国を滅ぼせる……そして魔法国出身の冒険者が言語可能な個体から聞き出した内容だが……「我が竜王の娘を探していると……」そう残して死んだんだが……そういえば君の弟子に竜人がいたな。まさかだと思うが……――」
その時だった。
空に巨大な影……この世であんな高く飛べる生物は一つしかいない。
ドラゴンだ。
「……まさかとはって、そんなこと言っても野放しにした同族が悪いし……」
そのドラゴンは真っすぐとこちらに向かってくる。
通常個体よりデカい。
人間の数倍は生きているだろう。
「貴様に一つ聞きたい……」
「何、こんな夜中に……そもそもここは魔王の領地なんだけど?」
「ふん、主が死んだ領地なんぞ、意味がないだろう? それより我が姫君について聞きたいんだが……特徴は――」
「あぁ、知ってるよ。世界でも珍しい竜人でオッドアイの少女でしょ……」
明らかにミーシャは起こっている。
シナを今まで野放しだったこともあるが、魔王を罵倒したことに腹を立てている。
「そうか、貴様が保護していたのか、では今――」
「――はぁ、何でお前に? 今まで野放しだったのにか?」
「くッ……状況が変わったのだ! あれを我が王は欲しがっている!」
「ふぅ~ん、跡取りというわけではないみたいだね。でももう既に私の弟子であるあの子を渡すとでも?」
「ほう、貴様我に歯向かうか……強大な魔力を有しているようだが……グワァァァァァァァァァァッ――――!!!」
突然の咆哮。
だがその後に肉眼で捉える距離にドラゴンが数体。
「ふぅ~ん、ちょっと見直したよ! 一人で戦う無能ではないようだね……」
「ふん! 悉く散れ、小娘!!」
時々、魔王の領地に無断で侵入した存在を叩き潰す。
それが最後の幹部である自分の役目。
そういえば、戦いこそが苦難を忘れられる。
楽しみこそが、今が輝いて見える。
そして、本当に……。
今日の魔王の領地の夜は少し寒いけど、いつもより綺麗な星が空一面に広がっている美しい空の下で万能の魔法使いミーシャは竜の大群と戦う。
一方は命がけで、一方は快楽に浸り……。
前にここに訪れた時と今。
完全に変化している。
今と過去。
自分は師匠となって、弟子ができた。
今度は二人が私を見て、誇れるように……そして新たな目的のために今を生きる。
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