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100.ミーシャの万能魔法



 気が付くと目の前には見知った人物がいた。

 自分と同じくらい歳の外見、褐色の肌、灰色の長髪の少女。


 眼前に安心した表情で立っている少女こそが、カインの実妹にして『終焉の魔王』アビルス・シィル・ルヴォロワールだ。


『ミーシャ……ありがとう』


「アビルス様……ずっと、見ていたのですね」


 言葉をかけられ、彼女がそうであると知った。

 魂であろうと残された仲間をずっと見守っていたのだ。


「私、成し遂げました。やっと、教えてくれたお礼ができました……」


 そう話すミーシャの瞳から涙が流れる。


 それは二千年分の歩みであり、二千年分の塵が積もった重みであり、二千年分の感情である。

 溜め込んでいたもの、せき止められていたものが外れたのだ。

 二千年前の納得が出来ないことから、それと隣に歩んできた。


 はっきり言って、彼女の重りであったものが今、流れ出した。


『あぁ、お前は良く頑張ったよ。だから私はもう逝ける……ミーシャ、君はどうだ?』


「……」


 悩んだ。

 でも、もうやることはないのかもしれない。

 勇者の加護、それを受けた者は急成長する。


 だからもう教えることはない。

 ただ自分の行いを見て、師匠と弟子という関係だったが、教えたことは少なかった。

 基礎的なこと、魔力の扱い、物事の序盤を教えられてから一人で魔法を習得していった。


 それは私に才能があったからなのだろうが、リーネ、シナ、アカリ、フィムは才能がなくない。

 逆に大ありだ。

 一度も才能ないと思ったこともないし、逆に大ありだろう。


 それに――


「分かりました。一緒に行きます。ですが、その前に――」




 焼けた大地。

 魔王領も含めた半分が崩壊している。


「はぁ、はぁ……師匠!!!」


 意識が戻り、肉体の感覚を得る。


 だが感覚が弱い。

 そうだ。

 ナイラを仕留める、それを考えたが『絶対』に到達している奴を仕留めるには《隕石落下メテオストライク》でも不十分だと感じた。


 だから心臓を貫き、トドメを星群に懸けた。

 結果的に『絶対』を突破する『理想』から開発された魔法《隕石落下メテオストライク》を共に食らい、致命傷を負った。


 流石、私だ。

 自分で生み出したが、『理想』は確実な威力などを測れないためこうなってしまったことも『理想』の凄さであり、可能性がまだ全然範囲が広いことを教えてくれた。


 全身に物理攻撃、最上位の炎の魔法の威力が上乗せされたものなんて誰でも瀕死になる。


「師匠!!!」


 瞼が重い、そう分かっていた。

 突発的な考えで自分のことなんて考慮していなかった。

 もう終わりにしようと……本気で思ったから……。


「師匠!!! 大丈夫ですか!!!」


 ミーシャの状態を見て、抱きかかえ泣きじゃくるリーネ。


「り、リーネ……終わった、終わったよ。ようやく……」


「師匠、しっかりしてください!!!」


 ただ微笑む。

 悲しませないように、口角を上げる。


「だいじょうぶ、もうだいじょうぶだから……ね?」


「な、何が大丈夫なのですか?」


 怒っている、が当然の反応だな。


「私はもう時間切れだ……だから託したい。杖を……」


 もうその他の神器は砕けて消失した。

 残っている者はそれしかない。


「そ、それと……――《収納ストレージ》」


 それは魔導書だ。

 普段、身に着けている一番豪華な魔導書の予備として用意されていたものであり、魔法開発で役に立つ知識が収められているし、何より力を身に着ける方法が書かれている。


 日記のように自分なりに記載したもので、予備であるため内容は豪華な魔導書と変わらない。


「そのふたつをうけとって、くれ……」


「師匠……」


 この姿、この状況、ミーシャの表情を見れば、嫌でも理解できる。

 もう彼女は、『万能の魔法使い』ミーシャは助からないことを……。


「リーネ……」


「は、はい!! 何でしょう?」


「きみには、私の後を継いでほしい……魔法関係は全てその魔導書に記されているから、偉大で、カッコイイ、魔法使いに……」


「は……はい!!」


 元気よく返事を返す。


 そして順番に……。


「シナ、君は過酷な経験をしたけど、それを糧にすることが大事だ。竜人として強くなり、リーネと隣で弟子同士、支え合ってこれから生きて……」


「アカリ、君は獣人とは外れは環境だったけど、君はまだ見ぬ景色がいっぱいあるから、みんなで旅をしてみるといい……」


「フィム、わたしと似たような環境、でも恨むことより希望を持って、進んだほうが楽だよ。選択を間違わないように……」


 四人はただ頷く。

 分かっている。分かっているからこそ、悲しいという感情とその言葉をすくって溢さないようにすることで精一杯だ。


「み、ミーシャ……なんといっていいか」


「いいんだよ。私の立場を考えるなら、対立することは分かっていたし、私は途中まで君を殺そうとしていたし……でも、ありがとう。四人を守って、戦ってくれて……」


「いや、ミーシャのおかげだ。俺こそ、ありがとう!!! ミーシャ」


 彼は本当に善人だと再確認してミーシャは微笑む。


「ふふ……君はこれから世界の安寧を守っていくけど、一つお願いがある」


「うん、何でも言ってくれ」


「この子達を頼みたい。まだ幼いから、魔法国で……勇者として、共に戦った同志として……」


「あぁ、俺に任せてくれ……」


「……ありがとう。アウレス」


 勇者に感謝するなんて思ってもみなかった。


 だが本当に何が起きるか分からない。


 これこそ人生の醍醐味かもしれないな。


「みんな……元気でね――――」


 そう言い、ミーシャは目を瞑り、約二千年という長い人生に幕を閉じた。


 その後、五人の声が荒野に響いた。

 ただほんの一瞬で当人は気付かずに自分の事を教え、導き、先導してくれた人。

 勇者のように心優しかったもう一人の人類最高の善人、『万能の魔法使い』ミーシャは永遠の眠りについた。


「お待たせしました。あ――」


 そこには魔王軍幹部、全員がいた。

 殆どが涙を流しながら笑顔でミーシャに手を振るう。

 叱られたのか、頭にこぶが出来ているカインもいる。


「みんな、ただいま!!!」


「「「「「「「 おかえり!!! 」」」」」」」


 ずっと見ていてくれたのだ。

 全員が涙を流しなら、それに呼応する。


『それじゃあ、行くぞ!!!』


 アビルスが声を上げる。


 真っ白な世界。

 ただ目的がないが、全員が笑顔で歩み出す。

 当分は飽きることはないだろう。


 後ろからナイラとミナがこっそりと後をつける。


 ゴールなどあるか分からないが、二千年分は歩き続けるだろう。


 『万能の魔法使い』ミーシャの物語はやっと、幕を閉じたのだった。






 十年後――


 魔法国の中央にそびえ立つ塔とは別に、神殿が端っこに弟子達によって建てられた。


 あの偉大なる『万能の魔法使い』であるミーシャから受け継がれた魔導書を用いてと何かしら噂されているが、半分は正解だ。

 真っ白な鉱石で作られた神殿。

 入り口は神殿であるが、中央に進む道中は草原の丘であり、そこに『万能の魔法使い』関連の書物やらが貯蔵されている。


 その貯蔵されていると言われている建物はまるで誰かが住んでいるような外観であり、蔵のようなものではなかった。

 それは今でも亡き『万能の魔法使い』が住み、見守っているという意図だった。


 その家の周りには様々な花が咲き誇り、それに囲まれるように墓石が立てられていた。


 『万能の魔法使い』ミーシャ、ここい眠る。

 遺体はここに運ばれ、埋葬された。


 毎年、弟子達がここに手を合わせている。


「師匠……お元気ですか、私はようやく魔法国管理者に就任しました」


 白い杖を抱え、しゃがみ、手を合わせている金髪の女性。


「師匠のおかげで最年少みたいです。みんなも凄いことになっていて、シナは竜王達を説得して王国に代わり万人国を建国して、議会制度なのでシナ、アカリ、フィム、そして希望のアウレスさんも議員になられて、最初は国運営で忙しかったそうですが、今は四人の凄さは有名となって弟子が永久に急増しているとか、まぁ、人の事は言えませんが……退屈なんてなくて忙しい毎日です。皆で旅をすることはもっと先になりそうです」


 一人語りと言えばそうだろうが、少し間を置いてから再び話し出す。


「師匠……私は魔法の到達はさせない方がいいと思います。一番は危険ですね。人や世界の均衡を狂わすほどの者が次々と現れることは避けた方がいいと思いました。当然、師匠も後のことは考えていなかったでしょう。私は決めて、到達する方法などは絶対に誰にも見せないようにします」


 良い選択だ。

 考えていなかったことはバレバレのようだ。


 確かに二千年前までは存在すらなかったが、到達点があると教えれば、誰もがそこに到達しようと躍起になり、あるかどうかは分からない確率だが、出現してしまえば、リーネの言う通りに世界の均衡が崩れてしまう。


 だからそもそも教えない方がいい。


「でも、私は到達点のような上下ではなく、幅を広げたいと思っています。それが私の魔法の目的です。ですので、見守っていてください。たぶん、皆は忙しいから来られないと思いますが、怒らないくださいね」


 あぁ、怒らないさ。

 先に進め。


「さて、もう戻りますか。新生物が発見されたり、世界は動き出しました。これからは私達がこれからの道を歩んで行きますから、楽しみにしていてくださいね!!!」


 それは自他からの期待。

 師匠でさえ知らないことが増え、リーネも期待が高まっている。

 魔法国管理者としての仕事と最先端で研究する研究者でもあるリーネは満面の笑顔を墓石に向けて、軽い足取りで丘を降りる。


「あ、そういえば、思い出したことが!!」


 ん?

 何だ?


「あの魔導書、題名のところが一度書いて塗りつぶされていました。十年も経って気付きましたが、あの魔導書の題名」


 え、ん……あぁ!!

 ん~、いやでも、本当のことだから!!


「『ミーシャの万能魔法』って……その通りの題名ですね」


 うあぁぁぁッ改めて聞くと、めちゃくちゃ恥ずかしい!!!


 どうしよう、皆にバカにされるぅぅぅぅぅッ!!!




 歩む、歩む。

 ただ生きるために……。


 まだ未練があるのか、だからなのか、ミーシャ達は歩き続ける。


 まだだいぶ遠い、彼女たちが合流するまで歓談は尽きることなく、自分達が歩んできた者をおさらいするように思い出を……。


 最後のページまで――――




ここまで読んで下さいありがとうございます。

ここからは長めのあとがきですので、興味をあるは御覧になってください。


★★★


まず自分でこの作品を書き始め、プロット通りに書き終えたことが出来ました。

自分の作品の中で正真正銘の終わりであり、自分にとって長い連載作品の完結はこの『ミーシャの万能魔法』が初めてです。


そして作品を完結させて一つ思ったことは『達成感』が湧き上がってきたことが、初めてであり、驚きでした。適当さも混じっていながら連載して、途中でやめたりしていましたが、どこかで聞いた完結させることが大事ということがに従って、再開しました。


作品を途中で投げ出すということは読者から作者の印象は悪いことは承知していますが、効率はいいです。

ですので、今後の方針がどうなるか分かりませんが、今は完結したことを自分自身で喜びたいと思います。


では作品のことを少しは語っておきたいです。

ファンタジージャンルで上手く行っていなかったが、伸ばすにはハイファンタジーしかないと思って再び書き始めた今作、一応プロットを組み立てて、大まかな流れを決めましたが、伸びずに挫折しました。


最終章でプロットでは主人公であるミーシャは生きる予定でしたが、二千年の時間の事を考えたら師匠と弟子の関係性を強調するために受け継がれるということでミーシャは合流するまでかつての仲間達と幸せになりながら歩んで行くという結末になりました。


ぶっちゃけ執筆していて感情移入がヤバくて吐き気を感じていたので、これは自分の押している『ハサプリ』はどうなるだろうと少し恐怖ではありますが、楽しみでもあります。


自分の創作の方針として自分の押していきたい作品を伸ばすためにハイファンタジーで伸ばすための作品を書いて、作者経由で『ハサプリ』に来てくれないかという作戦です。

まぁ、今まで成功したことがないですが、その方針は変わることはないでしょう。


この完結したという気持ちを忘れずに今後とも作品を執筆していきたいと思います。


改めて駄作でもいい感じにまとまった『ミーシャの万能魔法』を読んで下さり本当に、本当にありがとうございました!!!


それでは――――


【“面白い”と“先が気になる”と思ったら、『ブックマーク』や『☆☆☆☆☆の評価』や『感想』をしてくれるとモチベーションアップに繋がるので何卒よろしくお願いします!!!】

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