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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
第七章 女詐欺師の誘惑
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3 監査員ヘレン登場 #マリー

「本当にこの光る置物を売りつけるのが目的だったの?」


 詐欺に遭ったことを信じたくなくて、マリーは鸚鵡返しにケントに言った。

 正直、自分は詐欺に遭わない、だまされないと、これまで思っていた。


「うん。よくある詐欺だと思う。正直、きみがどうしてあんな浮ついた男の口車に乗せられたのか、理解できないんだけど」


 責めるようなケントの言い方に、マリーの頭の中で『カーン』とゴングが鳴った。


「もとはと言えば、あんたがあんな女についていったからでしょう!?」

「送って欲しいと言われたから送っていっただけだ」

「あからさまに、あっちの意味で誘ってたじゃない!」

「知るかよ。俺はただ、ああいう、裏社会に生きる人間なら、市場に出回らない魔法石を持ってるんじゃないかと思っただけだ」

「魔法石!? あんた、あの場面で魔法石のこと考えてたっていうの!? 信じられない!! 何それ!!」


 売り言葉に買い言葉。

 口論はどんどんヒートアップしていく。

 二人の言い争いを止めたのは、大きく張り上げた声にもかかわらず、やわらかな響きを保った女性の呼びかけだった。


「すみません!!」

「えっ…あ、はい」


 マリーはハッと我に返り、声のした方をふりかえった。

 そこには、亜麻色の髪をおだんごにしてコンパクトにまとめた女性が立っていた。

 年齢は十七、八歳くらい。男物の服を着て、手にはベレー帽を持っている。帽子をかぶって薄暗い街を歩けば、一見では線の細い少年に見えるだろう。


(でも、不思議。男装しているのに、やわらかい雰囲気で、とても女性らしいひと…)


 女性はにっこりと微笑んだ。


「はじめまして。監査局のヘレン・フォードと言います。王都から詐欺師サンドラを追って来たのだけれど、少しお話、聞かせていただけませんか?」


  *


 バーのテーブル席を借り、マリーとケント、そして監査員ヘレンは腰を落ち着けた。


 ヘレンの話によると、サンドラは、都でも貴族や裕福な男性をたぶらかして数々の事件を起こしていたらしい。それも大抵、魔法使いも巻き込んでの詐欺。

 魔法事件を扱う監査局の取締り対象というわけだ。


「サンドラはとにかく逃げ足が速くて、いつも共犯者の逮捕止まりだったの。…愚痴をこぼしていても仕方ないわね。光る置物詐欺の話をしましょう」


 ため息をひとつ落としてから、ヘレンが言った。


「ここ二週間くらいのことよ。サンドラは、数人の仲間と、町から町へ渡り歩きながら、光る置物を大量に売り歩いているの。ひとつの町に長居はしないから、詐欺の話が出回るころには姿を消してるってわけ。だから、こちらも先回りして、次の被害先を予想して、網を張ったのよ。このバーも、協力を依頼したお店のひとつ」


 そこで、ヘレンは紙包みを出してきて、テーブルの上に置いた。中身は、白い粉だった。


「これは即効性の高い睡眠薬で、レナードがバーテンダーにこっそり渡したものよ。これを合図に、わたしに連絡が来るようにしていたわ。でも、なんの反応も出ないのも怪しまれるから、ごめんなさいね。少しだけ、マリーさんのお酒に入っていたはずだわ」

「すみません…あの、あたしを眠らせる意味が分からないんですけど」


 突然出てきた睡眠薬の話に、マリーは聞いた。

 逆にヘレンは、マリーの反応が予想外だったらしく、目を丸くした。


「ええと…一般的に、男性が女性を眠らせる動機はひとつだと思うの。マリーさんも、男性に迫られたりして、嫌な思いをたくさんしてきたでしょう?」

「え……と、ありませんよ? ほら、あたしみたいな女、男性は興味ないでしょう?」

「ええ? そんなはずないと思うわ。マリーさんみたいに魅力的な女性、ほとんどの男性がすれちがいざまに振り返る位じゃないかしら」

「いえ、本当にないんです」


 キッパリとマリーが言い切ると、ヘレンは困ったように少し考えてから、その話題を諦めた。


「ええとね、とても言いにくい話なんだけど、レナードはあなたを眠らせて、レイプした上で、その光る置物を売りつけるつもりだったと思うわ。こういう犯罪の場合、被害者は悪くないんだけど、彼氏側にも、彼女に隙があったとか、批難する気持ちがあったりして、彼女側も被害者なのに隠そうとするでしょ。つまりは、痴情のもつれを利用した詐欺なの。ごめんなさい。ゾッとしたわよね」


 ヘレンは、マリーの気持ちを思いやりながら、説明してくれた。

 自分に魅力がないと思っているマリーだが、商品を売りつけるためのレイプと言われたら、納得せざるを得なかった。


「マリーさんはお金を持ってないとレナードに言ったみたいだけど、若い女性はね、体を売ってお金を稼げるから、詐欺相手として、手持ちのお金の有無は関係ないのよ」


 そこまで聞いて、マリーは自分で自分を抱きしめた。

 怖かった。

 一歩間違えば、そうなっていたのだと実感したから。


「これからは、そういうことも考えてね」

「はい…」


 素直にマリーはうなずいた。

 ヘレンは優しい目でうなずいた。


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