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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
第六章 魔女っ娘が守る村
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6 追憶~出発前夜(2/2) #ケント

(最低だ。クリスがいたから、ここまで来られたのに…)


「ケント」


 ダメ人間の自分に落ち込んでいたケントは、声に反応し、彼を見た。

 クリスは、優しい目をしていた。


「あなたは、あなたの思うように行動していいんですよ」


(いや、ダメだろ…魔法使いの俺は、お前に管理されてないと…)


 心の中でそう言い返したが、声には出せなかった。


「もし、連絡が取れない状況で、あなたが何か突拍子もないようなことをしたとしても、誤解されるなんて思わないでください。私は必ず、あなたの真意にたどりつきますから」

「い、いや、俺の思うようにって言われても…」

「その時、その時に、あなたが『最善』だと思う行動を選択する、それが思うように行動するということです。そんなに難しい話ではないでしょう」

「………」

「ああ、ひとつだけお願いがあります。以前、あなたに草案を作ってもらった、魔法戦時の陣を守る魔法装置。あれのさわりだけでかまいませんので、カールにレクチャーしておいて欲しいんです。やって…もらえますか?」


 滞在中のシェイド市に住む味方の魔法使いの名を出して、クリスが言った。

 カールは、魔法使いなのに視る目を持たないという珍しい存在で、その分、人の何倍も努力してきた、見所のある魔法使いだった。


「そりゃ、それくらい、もちろん」

「助かります。後でカールに資料を持たせて、寄越します。では、私はこれで。軍資金、置いておきますね」

「クリス!」


 部屋を出ようとするクリスをケントは呼び止めた。

 けれど。


「健闘を祈ります」


 それだけ言って、彼は出て行った。




「くそっ」


 一人部屋に残されたケントは、壁を叩き、そこから一歩足を前に踏み出し。

 そこで、小さな四角い箱の存在に気付いた。軍資金と言って、ベッド脇のサイドテーブルにクリスが置いた巾着袋のむこう側。さっきまでは巾着袋の死角になっていて、見えなかったもの。


「この箱、どこかで…」


 記憶をたどったケントは、箱の意味に気付いた瞬間、全身が凍り付いた気がした。


──この箱は、俺の心臓を止めるボタンが入った箱だ!


 今より約一年半前。クリスが、ケントの都の外での活動を申請したとき。

 Aランク魔法使いの活動の拡大に対し、視る者の偉い人たちは、賛否様々な意見を出した。最終的に、ケントが望ましくない行動に走ったとき、命を奪う仕組みをつけることで、決着した。


 かつて、視る者が魔法使いの上に立つ過程で、すべての魔法使いにつけられたもの。パパラチア王国が建国され、魔法使いを管理する制度が整って、警官など、一部の職業を除いて、外すことを許されたもの。


 ケントの心臓を止めるボタンは、偉い人が持つという話もあったが、クリスが全責任を負うと押し通して、クリスが持った。

 当然、ケント本人に渡すなど、絶対にしてはいけないものだ。


「俺の思うように行動しろって…そういうことかよ…!」


 これから先のケントの行動に関して、クリスは一切管理しない。

 ケントの自由。

 監督放棄。


「バカやろう…! こんなことして、俺が王家を裏切ったように誤解されたら…!」


 間違いなく、クリスの命に関わる。


──逆に怖くて、誤解されそうな行動できねぇよ!


 誤解を産まない品行方正な行動を求めて置いていったのだとしたら、とんだ策略家だ。

 けれど、ケントは知っている。

 クリスは策略家ではあるが、こういう謀り方はしない。


 そう。王家方の偉い人たちだって、マリーの能力を知れば、彼女の犠牲を命じてこないとも限らないから。そうなったときに、ケントが、ケントの一存で動けるようにと、クリスは箱を置いて行ったのだ。


(俺を決戦から外すって、もしかして、マリーを巻き込まないようにするためか…!)


 魔法戦時に、強大な魔法媒介能力は、喉から手が出るほど欲されるものだ。


 もちろん、人が魔法石の能力を持つなんて、普通は思いつかない。けれど、魔法で傷付く人を見過ごせないマリーは、みずから魔法トラブルに首をつっこんでいく。自分を犠牲に、人を助けようとする。

 ケントが彼女の能力と副作用に気付いたのだって。拘束の魔法が解けた瞬間に、彼女がケントを助けようと魔法を使い、痛みに転がりまわったから。


 マリーの行動力を思ったら、ここまで誰にも気付かれずに来たことの方を、むしろ奇跡と考えるべきなのだ。


「けど、自由って…怖すぎんだろ……」


(だいたい、あいつ、忙しいって、相談にも乗ってくれないってことで……つまりマリーのことを俺一人でなんとかしろってことで……!)


 考えれば考えるほど思考が行き詰まって、目の前が真っ黒に塗りつぶされていくような感じがした。


「無理っ! 俺には無理!!」


 箱を返しに行こう。ケントは思い余って部屋を出た。

 そこで。


「あ」

「ケントさん」


 魔法使いカールと会い、ケントは慌てて箱を持つ手を背中に回した。


「き、来たか。まあ、入れ」


 ケントは、先にカールを部屋に入れておいて、箱をふところに隠した。

 仲間であっても、クリスの監督放棄の証拠を知られるわけにはいかなかった。



 結局、その夜はそのままカールと魔法装置の話に没頭した。

 カールが優秀な生徒だったこともあり、夢中になって教えていたら、あっという間に時間が過ぎ、朝になっていた。

 一睡もせずに旅立ったせいで、体力が夕方まで持たず、かっこ悪い結果になった。


  *


「早く…なんとかしよう」


 ウッズ村の宿のベッドの上で、ケントはつぶやいた。

 今、マリーの青白い輝きは消えている。ケントがかけた拘束の魔法が彼女の魔法媒介能力を使い切ったことで、青白い色も消えたのだ。


 だから、拘束の魔法を別の魔法に置き換えられたらと、ケントは考えていた。青白い輝きを消せたら、魔法媒介能力露見の可能性は限りなくゼロに近づく。

 ただし、意味の通らない術式では魔法が成立しないし、マリーに害を及ぼすことのない魔法を選ばないといけない。

 今は拘束に関連した魔法で大半を埋めているだけに、そこに変わる魔法を考えるのは簡単な作業ではなかった。


「意味のない無害な魔法って、逆に思いつかないんだよな…」


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