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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
第六章 魔女っ娘が守る村
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4 魔女っ娘が守る村 #ケント

「おまえが立ってんのは、魔法使いの魔力を無効化してくれる餅の上だァ!」


 高らかに勝利宣言する魔法使いゲーリー。

 足元の透明な餅に、魔法と身動きを封じられてしまったアリス。

 そして、アリスをかばい、彼女の前に立ったマリー。


 魔法使いとして魔法を使うわけにいかない状況下で、ケントは舌打ちした。

 それから。


 胸元から魔法道具を取り出して、投げた。


「な、なんだ、これはっ!」


 意気揚々と攻撃魔法を詠唱していたゲーリーが叫んだ。

 ケントが投げた魔法道具の縄は、あっという間にゲーリーをぐるぐる巻きに縛りあげると、彼の魔力を封じた。


「ケント!?」


 マリーが驚いて、ケントをふりかえる。

 ケントは、バテバテの体をなんとか動かし、マリーの横に並んだ。


「お…おまえか!? この訳わからん縄はっ」


 ケントを見て、ゲーリーが怒りの声を上げた。


「わからんはずがないだろう。おまえの用意したものが魔法を無効化する餅なら、これは魔法を無効化する縄だ」

「はあっ?」

「それからマリー。体を張って人をかばうのは、やめてくれないか」


 ケントはゲーリーの質問に答え、それからマリーを見て言った。

 魔法を使えない制約を抱える中、マリーみずからトラブルに首をつっこむ流れは、本気で勘弁して欲しかった。


「悪かったねっ! あたしはあんたと違って、姑息な小道具なんか準備してないんだよっ」


 心外そうにマリーが叫んだ。


  *


 その日は、ウッズ村で泊まった。

 アリスを救ったケントとマリーは、村人の大歓迎を受けた。



 夜中、ケントはアリスに呼び出された。


「これ、ありがとう。おかげでラクに運べた」


 アリスは、やや不本意そうに言って、ゲーリーを捕縛した魔法の縄をケントに差し出した。

 そのままパクるかと思っていたのだが、律儀なところもあるようだ。


「ああ、うん」

「ねえ。マリーさんの魔法って、ブラウン・イーグルでしょ」


 ケントが縄を受け取ったところで、唐突にアリスは言った。

 ブラウン・イーグルとは、王家方を支える魔法使いの通り名で、魔法使いダグラスによる支配を望まない人々には、ダグラスと戦ってくれる希望の存在で──ケントの別名だった。引きこもりの魔法オタクを、よくもまあ、祀り上げてくれたものだと思うが、今は置いておこう。


「な、なにを…」


 自分の正体を隠さなければと、ケントは焦った。


「マリーさんの魔法、読もうと思っても暗号化されてて、拘束系ってことしか分からないじゃない。あんなクソ難しい魔法、一体誰が…って思ったけど、あんたが監査局の縄を持ってたから、分かったの。ねえ、これってつまり、あんたとブラウン・イーグルが共謀して、マリーさんを魔法で無理やり縛り付けてるってこと?」


 ストレートに、アリスは自分の見解を語った。

 ケントのことを監査員だろう、と。


(ああ、そうだ。俺、魔力のオーラを消してたんだった)


 ケントは安堵の息をついた。


 監査局のブラウン・イーグルは、国内に七人しかいないAランク魔法使いだった。

 魔力のオーラをそのまま視せていたら、それだけで正体がバレる。

 反対に、ケントが偶然発見した魔法で魔力のオーラを消せば、魔法使いと疑われることはなくなる。世間の人たちは、魔力のオーラがコントロールできるものだとは知らないから。


 マリーの魔力のオーラも、拘束の魔法ついでにケントが消した。…マリーは、魔女であることを呪い続けていたら魔力が消え、ただの少女になれたと喜んでいるが。


(とりあえず、縄を使うのは要注意だな)


 ケントが開発した魔法の縄は、王家側の監査局で広く使われている。

 つまり、そのことを知る人間には、ケントが監査局関係者だと推察されてしまうのだ。

 ひとまず身バレの心配はないと判断したケントは、言い訳することにした。


「俺が監査員だったら、なんだよ。『先生』に報告でもするか?」


『先生』──監査局の敵で、当代一の魔法使いダグラス。

 ダグラスと配下たちは、厳密には師匠と弟子の関係だった。


「なんだ、気付いてたの」


 けろりとアリスはケントの指摘を肯定した。自分はダグラスの弟子だと。


 ダグラス陣営は今、都から離れた地方で、勝手に魔法使いを村の統治者に任命し、実効支配する試みを行なっていた。

 つまりアリスは、王家の庇護をアテにできないウッズ村で、村人を守るためにダグラス配下に入り、村の統治者になることをダグラス陣営に認めさせた魔女なのだ。


 捕縛したゲーリーの連行先も、ダグラスの関係機関。ダグラスの認めた統治者にケンカを売った者として。

 もっとも、アリスがゲーリーに負けていれば、ダグラス陣営は新たにゲーリーを支配者と認め、アリスを処分している。村人と結託した名ばかり統治者も許容するダグラスだが、一点。より強い魔法使いによる下克上は推奨しているのだ。


「でも、どうして分かったの? あたしが先生の弟子だって」

「山で増幅器、使っただろ。ダグラスが弟子に配ってるやつ。でもなければ、おまえの魔力であそこまで山が削れるかよ」


 ケントは言った。

 見抜かれたアリスは、うげ、と唸った。


「ゲーリーが村を襲いに来るのは分かってたから、手下を瞬殺したかったのよ。あ、死なないように加減したわよ。…で? あんたは、あたしが監査員のあんたを先生に突き出すと思ってるわけ?」

「いいや。そもそも俺はもう監査員じゃない。分かるだろ? 俺たちの魔法は、ブラウン・イーグルの餞別だよ」

「つまり…あんたを先生じゃなく、監査局に引き渡したら、恋に溺れて魔法犯罪に走ったあんたは捕まって、マリーさんは解放されて…あんたに加担したブラウン・イーグルも咎め立てを受けるってことかしら?」

「そして、ダグラス配下の魔女も捕まるな。増幅器やダグラスの魔法書を所持してたら、ありがたく没収されるな」

「うっ……」

「ゲーリーの件でチャラってのが、お互いに一番いいと思うが?」

「…いいわよ。でもね、言っとくけど、マリーさんが本気で嫌がってないから、引き下がってあげるのよ。あんまり調子に乗らないことね」


 最後に釘を刺し、アリスは夜空に飛び去っていった。


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