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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
第六章 魔女っ娘が守る村
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2 魔女っ娘は人の話を聞かない #マリー

「ああ、もう、ここの野苺、邪魔っ」


 山中の茂みをかき分け突き進みながら、マリーはぼやいた。

 蔓を縦横無尽に伸ばした野苺が歩みを著しく阻むのだ。

 急いでいなければ、すべてありがたく大切に食べるのにという思いから、余計にイライラしてしまう。


 魔法使いによる魔法の行使と山崩れの轟音を聞いたマリーは、その現場へ急行していた。

 助けられるかもしれない命があるのなら、()()()()()()()()()()。それがマリーの思考だ。

 野苺の茂みを気にしながら進んでいたら、突然、視界が開けた。


「えっ? 空?」


 そして、何もない眼前を見ながら踏み出した足が…。


(地面がないっ…!)


「うそっ」

「マリー!!」


 突然地面が途切れ、落ちると思った瞬間、ケントに後ろから抱きとめられた。

 二人して茂みに尻もちをつく。


「大丈夫か?」

「ダメ…心臓ばくばく」


 マリーは素直に答えた。

 目の前には、気前よく開けた空間。

 足元では、カラカラ…と土の崩れる音がする。

 ふとマリーは、自分をすっぽり包みこむケントの体を意識した。

 自分より大きく、骨張った硬い体。すぐ疲れる軟弱者のくせに、こうして密着すると、いやでも認識してしまう。自分が女で、彼が男だと。

 同時に、ケントとマリーの進展を応援し、彼を体で落とせとささやいた姐イライザの言葉が頭に戻ってきて。


(身体……ぅわあああぁっ!)


「助けてくれてありがと! もう大丈夫っ」


 焦ったマリーは、早口で言うと、慌てて立ち上がった。

 そのとき。


「ごっめーん!」


 空から元気な声が降ってきた。

 十四、五歳の少女が、マリーたちから少し離れた空中に浮かんでいた。

 黒髪をふたつに振り分けてくくり、赤色の上半身だけの丈の短いフード付き外套を着た、見た目には可愛らしい雰囲気の魔女っ()だった。

 紫系のマーブル模様の宝石をイヤリングにして、つけている。魔法を媒介する力を持った魔法石だった。


(あの宝石はチャロアイトだね。右耳のチャロアイトを使って、空を飛んでいるのか…)


 マリーはいつものクセで、魔法石をチェックした。

 空を飛ぶ魔法の呪文が、光る魔法文字の輪となって、魔女っ娘の周りを回っている。


 魔力のオーラは、普通に見かける魔法使いの中では、やや強い方。

 轟音をとどろかせ、マリーが足を踏み外した場所まで山を削ったのは彼女だ。

 特別よく視える目を持つマリーは、空間に残った魔法の残滓から、目の前の魔女っ娘の魔法だと判別できた。


 ちなみに、魔力のオーラは通常、無色透明で、魔法使いの体を包む陽炎のように視える。誰にでも視えるわけではなく、魔法使いか、魔法を視る目を持った者だけが魔力のオーラを視ることができた。魔力量は、オーラの持つ密度の濃さ…視たときに受ける圧迫感で感覚的に判断した。


「人がいるなんて思わなくて、巻きこんじゃって悪か…」


 そこまで言ったところで、魔女っ娘は言葉を切った。

 そのまま空中で、ブツブツつぶやいたり、思案を始める。どうやら、マリーにかかる魔法に気付き、読み始めたらしい。術式の隠された魔法だったが、魔法使いなら、魔法の終端から術式を解放して読むということができる。

 もっとも、マリーの場合は、凄腕の魔女と噂されながら、術式の解放魔法すら知らないのだが。


「ちょっと、あんた!」


 魔女っ娘が魔法の解析に没頭し、戻ってこないので、マリーは声をかけた。


「話しかけておいて、放置は失礼じゃないかい?」

「あ、わ…待って、もうちょっと待って!」


 魔女っ娘は、悪びれる様子もなく答え、思案を続けようとする。

 マリーは憤然とした。


「ケント、行こ」


 マリーはいまだ尻もちをついたままのケントに言った。

 踵を返して、歩き出す。

 こんな無礼者の相手をする義理はない。


「あ、もうちょっと魔法を読……って、お姉さん、足っ!」

「え? …ぅわっ!」


 魔女っ娘が「足」と言った次の瞬間、マリーの身体は宙に浮いていた。

 物を空中に浮かせる魔法だ。

 マリーの胴回りに、魔法文字の輪っかが回る。

 魔女っ娘のさじ加減で空中を運ばれる感覚に戸惑いながら、マリーはなんとかバランスを取り、体勢を保った。


「いったい、なんの真似だい?」


 魔女っ娘の目の前まで運ばれたマリーは、抗議した。


 しかし、魔女っ娘はやはり悪びれず、

「その足じゃ歩けないでしょ」

 と、マリーの足を指して言った。


 なるほど。

 言われて気付いたが、マリーの膝下は赤い汁でびっしょり濡れていた。


「あたしのせいだし、医者まで連れてくから。あ、そっちのも一緒に連れてかないとね」


 魔女っ娘が追加で呪文を唱えると、ケントの胴回りにも魔法文字の輪っかが出現した。


「う…わああああぁっ!」


 途端、ケントが絶叫した。


お読みいただき、ありがとうございます。

ケントの絶叫の理由はアレです。

車を良く運転する人が、私の運転する車に乗ると青ざめるのと同じ理由です。

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