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クリスが殿下に報告する話(2/2) #クリス

 マリーは魔法使いも監査局も嫌い。


「…ケントは最初にマリーさんに会うとき、もし視る者なら驚かせないようにと魔力を消して会い……拘束の魔法も通りすがりの魔法使いに頼んだとうそぶいたんです。だから、マリーさんはケントを魔法使いだと思っていません。監査員だとも」


 クリスがケントの卑劣な嘘を告げると、さしもの王太子も黙った。

 あちゃー、やっちまったな、という顔をする。


「それで。本来なら解く手段のない魔法を嫌がるところなんですが、マリーさんはケントの善意をきっちり汲みとって、私に対してケントを処罰しないでほしいと、それはもう一生懸命になってくださって──本当のことが言えませんでした」

「なに、おまえがやりこめられたの?」


 王太子が言った。さっき卑劣な嘘を聞いたときの焦りはどこへやら。早くもその目には愉悦が浮かんでいる。

 …まあ、失態を怒らず楽しんでくれるのは良い上司と言えるのかもしれない。それでクリスの悔いる気持ちは晴れないが。


「はい」

「そりゃ、ますます放っておけないなあ。ええと、マリーちゃんの方は脈あり…なんだよな?」

「惹かれる気持ちはあると…私は見ました」

「魔法使いはともかく、監査局も嫌いっていうのはどうして?」


 監査局は、悪の親玉・魔法使いダグラスに対抗する組織として、民の好感度や期待値は高い。


「もともと国がお嫌いみたいですね」

「なあ、ケントがマリーちゃんを拾ったのって、いつ?」

「三日前です。ただ、マリーさんの例え話によると、蝶をつかまえた蜘蛛は蝶を食べる気がなく、外からではわからないこともあるから、自分たちのことは放っておいてほしいと」

「なにそれ、めっちゃ楽しいこと言われてんなあ!」


 王太子は奇声に近い声を上げた。

 もう本当に、心から楽しそうだ。


「殿下……念のためうかがいますが、ケントと男女関係の話をしたことは?」

「うん? そうだなあ……あ、したことないぞ! もしかしてケント、知らないんじゃないの?」

「そうですね。私も殿下も教えていないとなれば」


 ケントは男女間の営みについて知らない。

 ならば、マリーを襲いようもない。

 王太子と話して、確認したかったことを一点確認できて、クリスは少しだけ気を楽にした。

 男なのだから知らなくともその衝動を暴走させてしまうことはあるし、実際クリスの見ていないところで未遂をやらかしていたのだが、ケントの『攻撃を嫌い、それくらいなら閉じこもる』行動を長年見てきたクリスはその可能性を意識下から綺麗に排除していた。


「しっかしケントが恋ってだけでもおどろきなのに、脈ありって天地がひっくり返るくらいの衝撃だな!」


 王太子は興奮しきりだ。

 王の後継モードはすっかり飛んでいる。

 が、大事な友人の話でもあるから、あまり目くじらを立てようとはクリスも思わなかった。


「ケントは人嫌いでコミュニケーション下手ですが、人間として中身は悪く……ああ、いえ、恋愛には問題がありました。ケントは自分が女性から愛されることを考えられないし、恋をしたところで建設的な未来を考えられないんです。ですからマリーさんがケントに本気になったら傷つきます」

「なるほど。それが『相談』か」

「はい。ですが、さっき答えがでました。ケントに任せたらいい方向に向かわないとハッキリしているので、呼び戻して別れさせます」

「ちょ、ちょっと待て! 今、五分だけ待ってくれ。それならいいだろう?」

「え…ええ」


 王太子が腕組みをして考えはじめたので、クリスは書簡を書くことにした。真面目モードが復活していたから、任せていいだろうと思った。

 ちょうど書簡を書き終えたころ。


「よし!」


 王太子の満足そうなつぶやきが聞こえてきた。


「考えはまとまりましたか?」

「バッチリだ! クリス。おまえはマリーちゃんを傷つけないことばかり考えているが、その必要はない」


 予想外のセリフが王太子の口から出てきて、クリスは困惑した。


「殿下……どうしてそういうことになるんでしょうか?」

「いいか? ケントに対するおまえの責任範囲は魔法限定だ。だから恋愛にまで責任もったり、介入する必要はまったくない。僕だってゴメンだ」

「それは…まあ、そうですが。でも今回の場合は」

「今回の場合も、だよ。今回の場合のおまえの責任範囲は拘束の魔法に関する部分のみで、現状、マリー嬢に被害者意識がなければ、それまで」

「それまでって、そんなわけにはいきません!」

「落ち着けよ。一応確認するが、村人たちは二人をカップルだと納得。マリー嬢本人も問題ないから口を出すなと言ってるわけだよな?」

「ええ」

「クリス。僕はさ、ケントが魔法犯罪をおかすなんてあってはならないことだと思ってる」

「私もそうですよ」

「じゃあ、今から言うことを肝に銘じてくれ。拘束の魔法はマリー嬢も同意の上。だから、ケントは魔法犯罪をおかしていない。加害者でもない」

「殿下っ!?」

「恋愛に関しては放っておけ。どうせケントのことだから、しばらく一緒にいよう、としか言ってないんだろ? その状況でマリーちゃんが勝手に未来を期待して傷ついたとしても、それはマリーちゃんに男を見る目がなかったで終わる話だ。仕事面で問題なければ局長としては、よし。この話は以上!」


 騙されるマリーが悪い。

 王太子の出した暴論に、しかし、クリスは目が醒める思いだった。

 反論が思い付かなかったから。

 マリー自身が被害者ではないと言い張る以上、監査局の介入は余計なお世話になるし、恋愛方面で考えるならば尚更クリスは部外者なのだ。


(いや、でも………えええ?)


 クリスは、珍しく混乱した。


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