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クリスが殿下に報告する話(1/2) #クリス

第三章 流民一座での再会「ケント×クリス2回戦(2/2)」の後のお話です。


 王都の監査局執務室。夜の九時。

 昼間に小麦農家の村へ行ってケントのフォローをしたクリスは、諸々の始末をつけた後、魔法通信で再度、ケントの事情聴取を行った。それが夜の八時のこと。


(マリーさんを追い詰める危険性から弱腰になってしまいましたが、ケントが救えないと分かっていて任せるのは放置ですよね…)


 先刻の話し合いを振り返り、クリスは自己判断の甘さを見つめ直した。

 やはりケントともう一度話をしよう、と連絡用の魔法石に手を伸ばす。そのとき。


「クリス」


 明確な意思をもって呼びかけられた声に、クリスはハッとした。

 いつのまにか応接用ソファに、王太子が座っていた。


「殿下…!? 申し訳ありません、いつからそちらに?」

「少し前。声はかけたんだが、考えごとに集中してたみたいだな」

「申し訳ありません…」

「ところで、今日、小麦農家の村に出向いて、ケントの仕事を手伝ったって? 使えそうなガキを拾ってきたって聞いたぞ?」


 村で見出した視る能力を持つ少年の話を振られ、クリスはギョッとした。


「どこでその話を?」


 少年を都に連れ帰ったのは夕方前のことで、まだ彼の話は視る者認定事務所の所長くらいにしかしていない。


「デリアちゃん。おまえが相談とか珍しいこと言うから、夕方に一度来たんだ。取り込んでるみたいだったから、出直してきた」


 監査局受付嬢の名を聞き、クリスは納得した。少年が監査局を訪ねて来たときに対応できるよう、たしかに彼女には伝えていた。


「で? おまえが僕に相談してくるような事案って想像つかないんだけど」


 名目上は監査局局長のくせに、クリスに全部一任している王太子は無責任なことをのたまった。

 もっとも、その点に不満はない。

 今回の件も、相談というより報告義務のある話の報告に当たるもの。


「………ケントが、その」


 クリスはつっかえながら、そう切り出した。

 ケントの悪い報告は気が重かった。クリスに懐き、クリスを頼りにしてくるケントを贔屓に思う気持ちがどうしてもあるから。

 けれど、王太子はそんなクリスの心中に気付かなかった。


「ケント? また仕事やりたくないって?」

「いえ…まあ、仕事にもかかわる話ですが。行き倒れそうになっていた女性を保護したんです」

「え…だれが?」

「ですから、ケントが。その女性に惹かれて。冗談じゃありませんから」

「マジで!? あの人嫌いが!? え、どんな女? 巨乳? ロリ?」

「……美人ですよ。今はやつれていますが、元気になったら、男性の目を惹きつけてやまない女性になるかと」

「へえええ!」


 王太子は目をキラキラさせて、話に食いついた。


「ただ保護の方法が。魔法で拘束するというもので」

「あ、ああ…そこはケントだからな~。そうでもしないと、行き倒れ女性でもついてきてくれないよなあ」


 あっさりと王太子はケントの現状を肯定した。


 もともと彼は最初から、同じAランク魔法使いで同い年のケントに親近感を持っていた。

 だからこそ、魔法学校から問題児ケントの報告が上がってきたとき、王太子は自身の魔法学校入学を思い付いた。王太子とクリスとでケントを囲い込み、王家に忠実な魔法使いに更生させればいいじゃないか、と。

 いざ魔法学校に入学すれば、思わぬ特典がついてきた。

 魔法学校は王都の東の海の、それも沖の孤島にあった。そこは世間から切り離された、小さな独立世界だったのだ。

 ケントを理由にした魔法学校入学は、王城のわずらわしい人間関係からクリスと王太子を解放してくれた。のびのびと過ごすことのできる、貴重な羽休めの時間となった。

 そんなわけで。『問題児ケント』に王太子も甘い。

 分かってはいた。が、それでも予想外だった。ここまで甘々だとは。


「殿下。今の発言は不適切とお見受けしますが」

「堅いこと言うなよ。不適切な件はおまえが謝って、うまく収めてきたんだろ?」


 なるほど。

 どうやら王太子はクリスがすでに解決済みと思ったらしい。

 その信頼と高評価は素直に嬉しい。

 しかし、現実は違う。

 我ながら残念な結果を、報告しなければならない。


「まだです」

「まだ? ………話を聞こう」


 王太子が表情を引き締めた。


「お相手の女性は、マリーさん。十六歳。流浪の民で、売られた先から逃げてきたそうです」

「そりゃかわいそうに。流民を買う輩なんて、ロクデナシがほとんどだもんな」

「状況としては、ケントの援助を彼女が断って自殺をほのめかしたので、魔法で拘束したということなんですが」

「まさかその()、ケントに怯えて…」

「大丈夫です。マリーさんの前のケントは、顔つきも柔らかくて威嚇したりもしてませんし…実は今回の依頼先の小麦農家の事件をマリーさんが解決してくださって。感謝した村人たちが拘束の魔法を心配したんですが、ケントとは一緒にいたくて一緒にいると、マリーさんみずから村人を納得させてくれたんです」

「ちょっと待て! そのマリーちゃんが──事件を解決?」


 王の後継者モードの王太子は鋭かった。

 キッチリ重要な点を拾う。


「マリーさん、視る能力者で、魔法事件に相当慣れていますね」

「なにそれ! ケント、大金星じゃん!」


 あの人嫌いのケントが、人手不足の監査局に有用な人材を見つけてきた。

 王太子はケントを手放しで褒めた。


「残念ながら、マリーさんは魔法使いも監査局もお嫌いなんだそうです」


 クリスは、気の重い話の方へと舵を切った。


「へ? どゆこと? だって、監査員で魔法使いのケントを受け入れてくれてんだろ?」


 王太子は無邪気に首をかしげた。


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