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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
第五章 青い月の夜に
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4 魔女マリーの魔法の真実 #ケント

「視てくれ」


 ケントはそう言って、短い呪文を唱えた。

 マリーの魔力のオーラを消すだけの。


「えっ?」


 クリスが困惑の声をあげた。


「どういう……ことですか?」


 寝台に横たわるマリーは、魔力のオーラを消してなお、青白い輝きに包まれていたから。


「そう、か……分からない、よな。お前でも。よ…かった」


 ひとつの大きな山場を越えた安堵で、ケントはその場にへたりこんだ。


「ケント、大丈夫ですか?」


 椅子から腰を上げかけたクリスを、そのままで、と制し、大きく息をついたあと、ケントは言った。


「言葉が…見つからなくて。こんな言い方が合ってるのか分からないけど、マリーは『魔法石の能力を持った人』なんだと思う」

「魔法…石……?」

「ああ。マリーが言ったんだ。魔法石は…傷付ける魔法で壊れるって」

「傷付ける魔法で、魔法石が壊れる? ケント、何を言っているんです? そんな話、聞いたことがありません」


 クリスは、少し反発心をのぞかせて言った。

 特別な視る能力者として、国の中枢にいるクリスは、魔法関係で知らないことはないと言っていい存在だ。


(だけど。分かってもらわないといけないんだ)


「うん…今日、緊急回収してもらった舞姫のストーカー。奴の魔法を破壊したのは俺の札って報告したけど、あれ、嘘なんだ。マリーが……やったんだよ。ヘイデンの攻撃が俺に向いたときに、マリーは拘束の魔法は嫌だと思って、魔法が解けて。それからヘイデンの魔法を破壊して。ヘイデンが痛みに転がり回るのと同時に、マリーも…同じようになって」


 ケントはそこで口をつぐんだ。

 事実を並べるのが精一杯。

 その先の解釈を、言葉にはできなかった。


 クリスもまた、硬い表情で沈黙した。

 つたないケントの言葉から、すべてを受け取って。



『マリーは魔法石のように魔法使いの魔法を媒介する。そして、魔法によって生ずる痛みを魔法石と同じように受ける』



 お互い、どのくらい黙っていただろう。


「ケント」


 クリスが先に口を開いた。


「マリーさんとの、本当の始まりを、教えて下さい」


 ケントは、力なくうなずいた。

 それから、ぽつりぽつりと話した。

 一年前、彼女がダグラスの魔法石コールライトを封印する現場に居合わせ、少女姿を見たこと。

 半月前、また空から彼女を見つけ、殴りかかってきたゴロツキを弾き返す彼女の魔法に便乗して、拘束の魔法をかけたこと。


「マリーの『心』を媒介にした魔法に便乗したつもりだったんだ。噂を鵜呑みにして、石を通さない魔法だから、心を媒介にしたんだろうと。あのとき、俺は──無限に、いくらでも魔法が使えて、正直楽しくて、思いつくそばから呪文を並べて、そうしてるうちに限界に当たったから、そこでやめて。後、暗号化して、俺がかけた魔法の()()()を分からなくしたけど…」


 暗号化の理由は、かけた魔法の量を誤魔化すこと。

 事実の重大さにクリスが渋い顔をする。


「それでも、魔女マリーならすぐに魔法を解くと思ってた。青白いオーラの消えた彼女を見て、俺が消してやったんだ、今は俺が勝ってるんだと思った。その魔法を媒介したものの正体も、代償も、まったく気付きもせずに…!」

「落ち着いて、ケント。気付かなくて……当然です。情報を出せるだけ出して、整理しましょう。ええと…まず、これまでマリーさんの青白いオーラの色も消えていたのは、拘束の魔法でマリーさんの魔法媒介能力を使い切っていたから、ということで大丈夫ですか?」


 とんでもない話をしたというのに、ケントの下手な説明から、クリスはキッチリ要点を聞き取る。


「うん。合ってる」

「それから…普通なら魔法石を使う訓練をしてやっと魔法が使えるところ、マリーさんは自身の魔法媒介能力を使って、聞きかじった呪文を唱えるだけで魔法を実現していた」

「ああ。コールライトの封印は、本人もよく分からないうちに、偶然、たまたまできたものだって言ってた」

「では、拘束の魔法が効いていた間、マリーさんは魔法が使えなかったんですね」

「まあ、そうだろうな」


 マリーは魔法石を通して魔法を使う訓練ができていないから。


「おそらくダグラスは三年前、すべてを知った上でイリス一座を襲い、けれどマリーさんの確保に失敗。そこで、二年前に方針を変えたんです。王家に宣戦布告し、みずからの居場所をオープンにして、マリーさんの方から来るように仕向けた」

「そう、いう…ことか……! ロストも罠だったんだ、ダグラスの!」

「ロスト? 魔法装置爆発事故の?」

「マリーは俺と会う前にロストに行ってたんだ。そこで、爆発を増幅させたダグラスの魔法の名残りを視たって…それで、マリーは逃げるのをやめて、ダグラスに立ち向かうことを決めたんだ」

「つまり、爆発を増幅させた魔法は天然石ではありえないもので、ダグラスが新しく人造石コールライトを作っていることが分かったから、マリーさんは自分が逃亡する意味が失くなったと思った…と」

「うん…」

「ケント。あえて聞きますけど、コールライトを上回る能力…なんですよね?」


 マリーの魔法媒介能力は。

 こわばった声で、彼女の能力を聞くクリスに、胸が締め付けられた。


「コールライトは最高クラスの天然石の二倍程度って話だから………比較にならない」


 喉の奥から声をしぼりだすように、ケントは答えた。

 たとえ新コールライトが進化していたとしても遠く及ばない、桁違いの強大な魔法媒介能力。


 それがマリーで、ダグラスの狙う力。


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