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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
第四章 魔法使いダグラスの後継者
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17 王太子、元侍従に灸を据えられる #王太子

「クリス! アレは何だよ!」


 ソファにぐったりと体を預けたギルは、悠々と王都監査局の執務室に戻ってきたクリスを見るなり、かみついた。

 サミーの身柄を担いでシェイド市の活動拠点に行ったら、ケントの作った魔法道具でいきなり都に強制送還されたのだ。しかも、ひどい頭痛と吐き気に見舞われるというオプション付き。


「うぅ…」


 大きな声を出しただけでも、頭にガンガンと響き、ギルはソファに沈みこんだ。


「これ、いつ治んだよ?」

「今日一日、ゆっくりなさってください」

「は? 一日? 仕事は?」

「もともと職務放棄されたのは殿下ですよ」

「放棄じゃないっ。ちょっと行ってすぐ戻るつもりで…ぃてぇ…」


 つい声を大きくしてしまって、跳ね返ってくる痛みにギルは涙目になった。


「…おまえ、主君にこんなことして、いいと思ってんの?」

「殿下に都にいていただくためです。仕方ありませんね。私は、王を守れない臣下には価値がないと考えておりますから」


 クリスはすましてそう言った。


「横暴……っ」


 大声を出せないギルは、精一杯の反抗心を込めてクリスを睨んだ。

 しかし、クリスは顔色ひとつ変えなかった。


「さて、殿下。お持ちの魔法石、預からせてください。王宮倉庫の殿下の魔法石の持ち出しに関しても、禁止させていただきましたから」

「おまえ、なんの権限でそこまで……っ」

「殿下の魔法を管理する、私の権限です。強制措置を取るまでご理解いただけなかったのは残念です」


 ぐぅ、とギルは唸った。

 悔しいが、言い返せない。


 ギルは、視る者が魔法使いを管理するパパラチア王国に生まれた魔法使いの王子。

 特別な視る者で、優秀なクリスがギルの魔法を管理し、魔法による暴走を起こさせないと周囲に示しているからこそ、今の王太子の地位がある。


「自発的に出していただけないのであれば…」

「出すよ、ほら!」


 ギルは観念して、手持ちの魔法石をバラバラバラッとテーブルの上に投げ置いた。


 クリスはさっとそれらを一瞥すると、

「ひとつ足りませんね」

 と言った。


 持ち出した石の数や種類など、把握済みだったらしい。

 ギルは、胸元に下げた首飾りに手を当てた。

 ペンダントトップがスターサファイアの魔法石だったが、これは母からの贈り物であり、魔法石の能力も低め、ギル個人の所有物と認められているものだった。クリスも、このスターサファイアを渡せと言っているわけではなかった。

 ギルが呪文を唱えると、スターサファイアは、上空から街を捉えたような映像をテーブルの上に映した。

 中心に青い点と赤い点が重なり合うようにある。


「なるほど」


 呆れたように、クリスが言った。


「シェイド市の上空に魔法石を浮かべて、都に映像を送っていたんですね。この青い点と赤い点は、ケントとマリーさんですか」

「うん、そう」

「マリーさんとサミーの密会をいち早く見つけてケントを呼んだり、サミーとケントの魔法戦の後、現場に向かうマリーさんに気がついたのも、これで情報を得ていたんですね」

「そうそう。サミーとおまえの動きもマークしてたんだ。こういうこともできるぞ」


 ギルが再び呪文を唱えると、ケントとマリーの姿が大きく映った。アングルが上からなので、顔の表情などは見えなかったが、二人が固く抱き合っている様子が分かった。


「わあ…」


 ギルは思わずやっかみ半分の声をもらした。


「僕があの場を去ってから十分? 十五分は経ってるよな? 最後にちらっと見たときにはもう抱き合ってたから…あいつら、十五分以上くっついてんのかよ!」


 つまらんものを見た、とギルはすぐに映像を消した。


 クリスは表情を和らげると、

「でも…マリーさんがいてくださって良かったです」

 と言った。


 クリスの言いたいことを察し、ギルはふんと鼻を鳴らした。


「あいつ、初めて人を殺して動揺してたからな。僕が身代わりになって良かっただろ? あの上マリーちゃんから責められたら、目も当てられないことになってたぞ」


 クリスはそこで沈黙した。

 ギルは心中で「お?」と期待する。マリーの前でブラウンイーグル(ケント)役を演じたギルの働きをクリスも認めてくれるのではないかと。

 ところが。


「私も現場の様子を見つつマリーさんのそばにいましたので、殿下がいらっしゃらなければ、私がマリーさんを止めてましたよ。魔法使いのケントに会わせるわけにはいきませんからね。ケントのフォローもした上で、すべて丸く収まるよう持っていくつもりでした」


 クリスの声が恐ろしく冷たくなった。


「しかしながら、ダグラスが近くにいる状況で、殿下にしゃしゃり出て来られまして。おかげで最優先事項が殿下を都に送り返すことになりました」


 そこまで聞いたギルは、自分がクリスの邪魔をしたのだと認めざるを得なくなった。

 謝りたくはないが、謝った方がいいかもしれない。

 そのとき、トントン、とノックする音がした。


「先程呼んだ殿下の迎えが来たようですね。シェイド市上空の魔法石はケントに回収させます。今日はゆっくりお休みください」


 クリスは表情を切り替えてそう言った。


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