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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
第四章 魔法使いダグラスの後継者
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6 恋する乙女は彼を正当化する #マリー

 とうとうケントの重荷になってしまった。


 宿の部屋に引き上げたマリーは、しばらくひたすらに落ち込んだ。


 考えては落ち込み、考えては落ち込みをぐるぐる繰り返すうち、だんだんと釈然としない気持ちがむくむくと湧いてきた。


(そもそも、そもそもだよ? ご飯食べさせてとか、逃亡を助けてとか、あたし、頼んでないよ! 勝手に魔法で拘束して親切の押し売りしておいて、独りが好きとか、なにそれ! 意味分かんない!)


 熱いまなざしでマリーを見つめたり、星の話をするところから始めたいとかキザなことを言ったり。ケントを信頼し、誰にも話したことのない重い話をしたときには、強く抱きしめてくれて。

 本当は、どこかで期待していた。

 魔法で拘束するくらい、ケントはマリーを想ってくれているんじゃないかと。


(好きなら、こんなに放置されるわけないのに…)


「ほんと意味分かんない! 支離滅裂! まるで誰かに無理やりやらされてるみたい!」


 腹立ちまぎれに声に出して言ったマリーは、自分が口にした言葉にギクリとし、ガバッとベッドの上に起き上がった。


「無理…やり……? え……」


(でも…そうだよ。ケントは視る能力者だけど…魔女マリーに平気でケンカを売るとか、おかしいよね)


 そもそも出会った一番最初、ケントはマリーをおばさんだと思っていたのだ。マリーを拘束した行為に恋愛感情が入っていないのは明らかで。


『あたしには、あんたが男に惚れて、嘘に目をつむって、バカになったようにしか見えない』


 姐イライザの言葉が胸に舞い戻って来た。

 通りすがりの魔法使いに拘束の魔法を頼んだと言ったケント。


「そんなの、信じる方がどうかしてる…」


 魔女マリーに魔法をかけて欲しいと言われて、気楽に応じる魔法使いがいるなんて、普通に、冷静に考えて、信じ難い話。

 むしろ、ケントの後ろに魔法使いがついていると考えるのが妥当で。

 それも、彼が師匠と呼んだ、他人のために防御用の魔法道具を作る、人格者の魔法使いとは別の人だ。彼の師匠は亡くなっているのだから。


 泣きそうになって、マリーは唇を噛んだ。


──あたしには、泣く権利なんかない…!


(ケントはずっと、誰かの命令で、嫌々あたしのお守りをしてたんだ…! だから、すぐに距離を置きたがって。でも、うまくやってるよう見せかけないといけないから、時々ご機嫌取りをして)


「そうだよ…ケントは言ったじゃないか。魔女マリーにこの魔法を解けないと言われるとは思わなかったって」


 きっとケントにはマリーを拘束するつもりなんかなかった。黒幕のかけた魔法も、黒幕も、魔女マリーが簡単に片付けると思っていたにちがいない。

 ところが、マリーが魔法を知らなかったせいで、彼は無力な相手を魔法で拘束するハメになってしまった。


(黒幕は、あたしが魔女かどうかは気にしてない)


 拘束の魔法をかけられた後、マリーは魔女じゃなくなったのに、拘束を続けているからだ。


(だとしたら、狙いは魔法石コールライト。いくらでも製造できるダグラス以外には、とてつもなく価値があるもの)


 だけど今はまだ、必要としていないのだろう。ケントに確保させるだけさせて、自分は出て来ないのだから。

 おそらくケントは、黒幕の動きを気にしながら、行き倒れそうだったマリーを、ほんの少しだけ、と助けてくれた。

 そして、マリーがダグラスのところへ行くつもりだと察した今、彼はマリーをどう解放しようかと悩んでいる。


「あれ…でも、宿の前で固まってたあたしを迎えに来てくれた。本当に一緒にいたくないなら、あたしが来るのを待つだけじゃない…?」


 マリーは胸元を手でつかんだ。心が大きくゆさぶられ、胸がキュッと締め付けられていた。

 自分の中で、声がする。


『黒幕が悪い人とは限らない。本気でマリーを助けたいだけかもしれない』

『マリーの奪ったコールライトは、ダグラスにとって無価値だった。ダグラスは、あんたの存在なんて、とうに忘れているよ』

『なんの力もないくせに、今更ダグラスのもとへ行ってどうするの?』

『ケントは拘束を続ける意志を示しているのだから、甘えてしまえばいい』


「ちがうちがう!」


 マリーは耳をふさぎ、心の中の声をふりきるように頭を振った。


「あたしのこれからは関係ない…! ケントが優しすぎるだけで、本当はあたしと一緒にいたくないんだから、だから……!」


 ケントが差し伸べてくれる優しさの手を、マリーが振り切らなければいけないのだ。


「約束したバイトを放り出すわけにはいかないから…バイトが終わったら……」


 もうケントの説得はしない。

 解く手段を得るために、動けるだけ動くのだ。


(ああでも、ケントのバックに誰がいるのか、何が目的なのかだけは聞かないと……)


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