表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
第四章 魔法使いダグラスの後継者
47/151

3 軟派男から全力で揶揄われる #ケント

「分かった。じゃあ、後でな」


 ケントはそう言うと、クリスとの遠距離通信を切った。


 場所は、薬屋兼魔法相談屋サミーの店にマリーが行けないよう、拘束の魔法の制約が発動する距離を計算して取り直した宿の一室だ。


 マリーを魔法相談屋に行かせたくなかった。

 変な入れ知恵をされ、拘束の魔法を嫌だと思い、予定外のところで魔法が解けるとか、とにかく厄介な未来しか思い描けなかった。

 けれど失言をせずにマリーを説得できる自信が…ケントにはなかった。


(黙って宿を移動して、マリー、怒ってるだろうな…。まあでも、波乱万丈に巻き込まれて、ここに来るころには怒りも冷めてる…よな?)


()()()はもうマリーと接触したのかな…」


 窓際に立ち、窓の外、整備された街を眺めながら、ケントはつぶやいた。


 デリアは監査局の受付嬢(王都より特別出張)である。

 計算も下心もなく多くの人とフレンドリーに付き合える彼女をクリスが見込んで、マリーと接触する役目に抜擢したのだという。デリアが安全な仕事をマリーに持ちかけ、マリーがケントの担当事件に関わってこないよう遠ざける計画らしい。


(俺の到着が遅れたことで、シェイド市の事件解決が優先されて、マリーの件は後回しってことだったけど…)


 クリスは同時並行的にたくさんの問題を片付ける。ケントが事件にかかっている間に、裏で動くのは目に見えていた。

 通信に使っていた魔法石を握りしめ、ケントはため息をついた。



 マリーがダグラスに立ち向かう決意を固めていると知ったあのとき。ケントは、王家から離脱して己一人の意思で彼女を守るべきだと思いながら、それを実行できなかった。


 宝石屋を見つけたときに思いついたのは、そこで魔法石を買って、その石を用いて、姐舞姫イライザとマリーを離れられなくする魔法をかけることだった。大量の魔法石を持つケントだが、それらはクリスに管理されているため、譲渡するわけにはいかない。

 イライザと一緒ならマリーも無茶しないだろうし、魔力のオーラさえ消せば、変装自在なマリーならダグラスに見つからず過ごせるだろう。


 そう考え、昨夜、マリーを早々に宿の部屋に追いやり、再び宝石屋に出向いた。実のところ昼間、途中でマリーが店を出たことを察知していれば、再度出向く手間はかけずに済んだのだが。店の主人との魔法石談義に熱中していて気付かなかったものは、もう仕方ない。

 宝石屋に出直して魔法石の原石を買い、昼間に同伴した少女、マリーに似合うような細工をして欲しいと頼んだ。

 ところが、宝石屋は細工に一週間かかると言い張った。

 マリーの美少女っぷりが職人魂に火をつけてしまったのかもしれない。いくら急いでいると言っても、宝石屋は頑として譲らなかった。

 そして、ケントの拙い話術では、宝石屋の主張を覆せなかった。

 ケントは一週間後の受け取りを了承して宿に戻り、ひとまずマリーと魔法相談屋の接触を避けるため、宿を移ったというわけだ。


 正直、引きこもりの低い経験値で、考えられるだけ考え、頑張ったと思う。やれるだけのことはやったはずだ。

 無策で彼女を解放するくらいなら、クリスに保護してもらう方がマシだと思う。

 自由を奪われたとしても、クリスなら今のケントよりよっぽど良い環境を用意できるから。


(まあ、クリスが気付いてないのに、自分から暴露するような真似はしないけどさ…)


 宝石職人に頼んだ魔法石の首飾りが出来上がる一週間後まで、ケントがクリスからマリーを守れる可能性だって、ゼロではないはずだから。

 …たぶん、きっと。




「やあ、ケント」


 突然、誰もいなかった背後から声がかかった。

 窓の外を見ていたケントは、バッと室内を振り返った。

 さっきまでは誰もいなかった場所に、亜麻色の髪とサファイアの瞳、弱い魔力を持った容姿端麗な青年が立っていた。


「は? え? ギル?」

「って、おまえ、顔!」


 驚き、慌てるケントに対し、ギルはケントの顔を見るなり吹き出した。


「うっそだろ? 誰だよその顔! 信じらんねぇー!」


 腹をかかえて大笑いされ、ケントはギルに背を向けて、顔を隠した。


 マリーと一緒に過ごして一週間余り。

 最初はマリーの前でだけゆるんでいた顔が、今ではゆるんだ顔の方が普通になってしまっていた。


(くっ…こいつにだけは見られたくなかった…!)


 脳内に響く耳障りな笑い声に屈辱を味わいながら、ケントはなんとか腹に力を入れ、マリーと出会う前の顔を…睨み顔を作った。


「何しに来た」


 ケントが怒気を込めて言うと、ギルは「ひぃー、ふぅー」と呼吸困難すら起こしながら、やっとのことで笑いを収めた。


「…はぁー、笑った笑った」

「ギル、何しに来た」


 いい加減苛ついていたケントは、再度強くギルに訪問理由を聞いた。


「あれれ? 僕が来るとは思ってなかった?」


 ギルは図々しくも、いけしゃあしゃあと言った。


「いや、来る方がおかしいだろ! おまえ、自分を何だと…」

「あ! もしかして、マリーちゃんから僕の話を聞いてない?」

「は? マリー?」

「美人で健気で可愛いね、彼女。昨日、街を案内してあげるって誘ったのに、連れ合いがいるからって、この僕がソデにされちゃったよ。こぉんなにキラキラしたイケメンな・の・に!」


(うざっ…!)


 こいつマリーをナンパしやがったな、の前に、いちいち芝居掛かったギルに拒否反応を持ってしまう。

 そして、あっさりマリーにソデにされたとの情報に、ザマアミロと溜飲が下がる。


「…おまえの邪悪な中身を見抜いたんだろ」

「ええ~? 心外だなあ。僕ほど善良な人間はいないよ?」

「ほざけ」

「やだなあ、ケントってば冷たい。ケントがひどい人間だって、マリーちゃんに告げ口しちゃおっかなぁ~?」

「いい加減にしろっ!」


 思わず攻撃魔法を口にしかけたケントだったが、ギルは「べーっ」と舌を出すと、来たときと同じように、瞬間移動の魔法で姿を消してしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ