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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
第三章 流民一座での再会
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5 舞姫との対面 #マリー

 ワアアアア………!


 炎の襲撃とそれを防いだ水の防壁(シールド)、パニック状態の観衆を沈めた舞姫の勇姿。

 大天幕が焼失したために青空の下に立つことになった観衆たちは、最高潮に興奮し、声高に舞姫を讃えた。


「行こう。魔法の札のことを突っ込まれたくない」


 ケントがマリーの耳元でささやいた。

 水の防壁を生み出した魔法の札はケントが手を離した瞬間に力を失い、元の魔法石の姿に戻って、彼のふところに片付けられていた。


 マリーはうなずいた。

 魔法道具に興味を示され、あれこれ質問攻めにされ、そこから二人の事情にまで飛び火されては目も当てられない。人々が舞姫に熱狂している間に消えるのが正解だろう。

 しかし、二人が人波から抜け出たところで声をかけられた。


「お客様。舞姫セシリア・レインがぜひお礼をと申しております」


 声かけと同時に腕をガッチリとつかまれ、マリーは目尻を下げてケントを見た。


  *


「今日は魔法使いの攻撃から観客を、サジッタ一座を守ってくれてありがとう」


 真っ赤な舞台衣裳を着たままの舞姫セシリア・レインが、マリーとケントに深々と頭を下げた。

 場所は、サジッタ一座の生活スペースにあたる、地味な色合いの天幕だ。


 二人を引き止めた女性は押しの強い人で、断りきれず、結局舞姫と対面することになってしまった。

 けれども、隣で早く旅立ちたい空気をたれ流しているケントとは逆に、マリーはセシリアに惹きつけられていた。


(セシリアさんって、華やかで綺麗で、大人の色香があって、素敵な女性だなあ。それに…)


 今は亡きマリーの姐、イライザと雰囲気が似ていた。

 イライザは、おばさんばかりの流民一座の中で、マリーより五歳年上なだけの若い姐で、どんな話もしやすく、大好きだった。骨太で筋肉質で丸みのない男前な容姿だったから、女らしい曲線美を持つ華やかなセシリアと似ていると思うのは失礼なことかもしれないが…。


(でも、髪の色も、目の色も、声も、弱い魔力のオーラも同じ。顔立ちだって、イライザ姐さんの線を細くしたら、ちょうどこんな感じになりそうな…)


「あたしたちはべつに……ねえ?」


 マリーは舞姫セシリアの謝罪を曖昧に受け流し、ケントにふった。イライザを恋慕う気持ちが胸いっぱいにふくらみ、とても言葉多めには話せなかったし、そもそもケントのしたことをマリーが理解できていなかった。


「そうだな。俺は水のシールドを作って、外からの魔法攻撃を防いだだけだ。観客たちがパニックに陥ったままだったら結局は大惨事になっていただろう。観客を守ったのは冷静にパニックを鎮めたあんただ」


 謙遜し、セシリアをたてるケントを、マリーは少し意外に思いつつ、格好良いと思った。


「あなたも充分すごいわ。札に呪文を書いて水の壁を作るなんて。最近はそういう魔法道具も売ってるの?」


 セシリアは目をキラキラさせ、ケントをじっと見つめて言った。


「いや、これは……魔法使いの師匠が俺用に作ってくれたものなんだ」

「へええ! 羨ましい! あたしも便利な魔法道具が欲しいわぁ。魔女とはいっても使える魔法は少ないし、上位魔法使いに襲われたら、なすすべもないし」


 セシリアはやたらとケントに顔を近づけて話した。

 そこに恣意的なものを感じとったマリーはムッとした。


「もういいだろう。俺たちは帰る」


 ケントも息苦しさを感じたのか、セシリアから顔をそむけながら言った。


「あら、待ってよ。今日うちの一座を襲った魔法使い、炎使いのヘイデンって奴だと思うんだけど、こないだからしつこく言い寄られてて」

「知らん。俺たちには関係のない話だ」

「そんなつれないこと言わないで」


 セシリアがケントの顎に手を添え、唇が触れ合いそうなくらい顔を近づけた。


「な…っ」

「ちょっと!」


 ケントより大きく反応したのはマリーだった。


(いくらイライザ姐さんと似てても、このふるまいは許せない!)


 マリーは二人の間に割って入り、力いっぱい引き離した。

 すると。


「プッ…あははっ!」


 セシリアはなぜか笑いだした。それも、カラッとした笑い声だ。


(あたし、この笑い方、知ってる……!)


 でも、あり得ない。彼女は死んだはず。

 そう思いながら、マリーの中でどうしようもなく期待がふくらんだ。


「まさか……」

「意地悪してごめんね、マリー」


 あたたかみのある、アルトの声がマリーを呼んだ。


「イライザ姐さん……?」


 マリーがつぶやくように呼ぶと、舞姫は力強くうなずいた。


「今日は本当にいい日だよ。マリー、あんたに会えて嬉しい」


 両手を広げたセシリア──イライザの胸に、マリーは飛び込んでいった。


「姐さんっ! みんな生きていたの!? 死んだなんて、あたしの勘違いだったの? みんな、みんなサジッタ一座で…」

「ごめん、マリー。それは違うの」


 喜び、はしゃぐマリーに、イライザは重い声で言を継いだ。


「生き残ったのはあたしだけ。ダグラスの(くら)い魔力を視て、ショックで気を失ったあたしだけなの」


 イライザはケントに、かつてマリーと同じ一座にいたことを説明し、二人きりで話がしたいとケントを退席させた。


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