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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
第三章 流民一座での再会
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2 ケント×クリス2回戦(2/2) #クリス

 ケントは、好きになった女性を衝動的に魔法で拘束してしまい、その罪悪感に苛まれている。

 そして、そこで思考を停止させている。


 ケントとの会話の中で問題を確信したクリスは、今後の方針を定めるためにも、ゆさぶりをかけることにした。


「個人的な気持ちとしては、あなたに国を裏切ってもマリーさんを選ぶくらいの覚悟があるのなら、すべてを明かしてなお、マリーさんにあなたと向き合ってもらえるような持って行き方も考えるのですが」

「は? 何言ってんの、おまえ!」


 マリーとうまくいくよう手助けする。

 クリスの発言を、ケントは即座に否定した。


「本当に……一番残酷なのは、あなたのその気持ちの軽さですよ」

「ざ、残酷? なんだよそれ。意味分かんねえ」

「好意を示して思わせぶりな態度をとっておきながら、今が良ければそれでいい、未来を考えるつもりもないというのは残酷でしょう」


 遠回しな表現ではケントに伝わらない。

 ストレートな言葉を選び、クリスは言った。


「あのさ、クリス。俺たち出会ったばっかだぞ? いきなり未来とか言い出す男はおかしいって、前に言ってたろ」

「それは…結婚詐欺の話ですね。でも、そうですね…。ケント、どうして出会ったばかりの、あからさまに怪しい男に女性が騙されると思います?」

「バカだからだろ」

「違いますよ! 辛い思いをして心が疲弊して、冷静な判断ができなくなっているからです。いくらしっかりしていそうに見えても、死に急ぐ考え方をする人の心は疲弊しているものです。あなたが彼女の心の拠り所になることで、結果的にあなたのしたことが恋愛詐欺師と同じになることも」

「ありえないから!」


 クリスは言葉を尽くしてケントの行為の残酷性を説いたが、ケントは頑なに自論にしがみつき、反発する。


「私だって恋愛関係は正直、よく分かりません。とくに女性の心理は。でも、だからこそ安易な決めつけで動くのはどうかと思います。それこそ、どんな事態でも受け入れて、彼女の人生に責任をもつ覚悟があるのなら好きにすればいいと思いますけど」

「いや、俺、本当に少し一緒にいて、今より元気になったらいいかなって」

「ええ、ええ。魔法で拘束とか、極端なことをしておきながら、かわいそうな捨て猫に二、三日エサをあげるのと同じ気持ちだと」

「餓死寸前の猫を、体力がつくまで面倒をみることの何が悪いんだよ。腹がふくれたら前向きにもなるだろ」


(…そう言い聞かせて、少しの間だから大丈夫と無責任な恋愛衝動を自分にゆるして……タチが悪いですよ)


「人間の女性は猫より複雑な感情を持っているんです。ケント。これだけは肝に銘じておいてほしいのですが」

「な…なんだよ」

「これ以上、マリーさんに気を持たせるような言動は慎んでください」


 食べる気もなくそばに置こうとする蜘蛛を、蝶が残酷だと感じていない今なら、きっとまだ間に合うから。


「だから…そもそも好かれてないって」

「そうでしょうか? あなた方が小麦農家の村を穏便に出られたのは、マリーさんの言動から、恋人同士だと納得されたからですよ? 私もマリーさんは…あなたのことを好きになっていると思います」


 ケントのことはともかく、マリーの気持ちは正直、クリスにはなんとも言い難い。

 しかしクリスは、ケントにはっぱをかける意味で、断定的に言ってみた。


「いや、ないって! 問答無用で拘束した相手だぞ?」


 ケントが叫んだ。

 自分のような人間が愛されることはないと、劣等感に縛られているのだ。

 人との関わりをケント自身が拒絶せず心を通わせていけば、彼の良さに気付く人はたくさん出てくるに違いないのに。


「マリーさんの解釈は違いますよ。マリーさんは…相当、ご苦労されています。手段はどうあれ、あなたは今、下心も見返りを求める気持ちもなく、マリーさんを助けているんです」

「でも、監査員が俺だって気付かなかったし」

「気付いてましたよ。私にあなたを裁かないでほしいと釘を刺してきましたし」

「へっ? …あ、でも、たぶん今は認識が変わってる。ちょっと伝える言葉を選びそこなって、その…俺、魔法石泥棒だと思われた」

「……なにをどうやったら、そんな滅茶苦茶なミスリードができるんですか……」


 嘘がさらに、こじれている。

 思わず声に殺気がこもってしまった。

 ズキズキと痛む額を押さえ、それをやりすごしてから、クリスは口を開いた。


「とにかく、これ以上好かれないよう……いえ。マリーさんから嫌われなさい。そうすれば魔法も解けるんですよね?」

「ああ」

「いつもやっているように、近寄ってくるなという雰囲気を出せばいいですから」

「…うん」

「魔法が解けたら、すぐに呼んでください。あとはなんとかします。できますか?」

「嫌われることなら、いつでも……」


 ひとまずクリスはケントがうなずきやすい指示を出した。

 それから、さりげなく本丸の指示を出す。


「では、そういうことで。あと、そうですね…今夜のうちにシェイド市近郊へ移動しておいてください。山中ならどうとでも説明できるので」

「わ、分かった」


 クリスの思惑に気付くことなく、ケントは是と返した。


(本当に…バカですね。マリーさんに嫌われる勇気なんて持っていないくせに、自力でなんとかしようと思うなんて)


 いや。より正確には、ケント自身、認めることのできない心の奥底で解っているのだ。

 だからこそクリスを巻き込んだ。

 自分一人の暴走で最悪の結果を招かないように。


(はあ…これで私もケントの共犯…加害者ですね)


 ケントにまるで覚悟が足りず、マリーを救うのは無理だと判断しながら、出来ない指示を出し、介入を先延ばしにした。

 監査局の仕事を遅らせないよう、場所を移動させた。もちろん、監査局の扱う魔法事件にマリーが巻き込まれないよう最大限配慮はするが。


 結局のところ、マリーが嫌がっていないことを免罪符にして、クリスとケントの都合を優先したのだ。

 マリーの存在が、彼女への恋心が、ケントを成長させてくれることを期待して。


(後はもう…ケントとの出会いが最悪だったと思われないよう、何が何でもマリーさんをフォローするしかない…)


 罪悪感に苛まれ、痛む胸を、クリスはギュッと押さえた。


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