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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
第二章 小麦農家の村
17/151

9 ケント×クリス1回戦(3/3) #ケント

「マリーさんに、()()()()()()の終端が視えるんですよね」


(マジか………!)


 クリスに拘束の魔法の終端を言い当てられ、ケントは戦慄した。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()クリスの視る力は、魔法使いであるケントの視る能力を上回る。

 あなたの魔法と指摘したように、魔法から行使した魔法使いを割り出す能力も彼だけのもの。


 しかし、映像の中の魔法まで視るとは知らなかった。

 それも、魔法の術式自体不可視にして、どうしても消すことのできない魔法の終端がほんのチョロっと視えているだけの、直接会ったって見過ごす可能性の高いものに気付くとか。

 クリスはおそらく、魔法使いのオーラも直接・投影関係なく視るのだろう。


(こえーよ! 怖すぎるよ! マリーの青白いオーラを消してなかったら、どうなっていたことか…)


 魔女マリーを守れて良かったと胸をなでおろしたのも束の間。


「つまり、こういうことですか。あなたは彼女の意思を無視して魔法で無理やり拘束していると」


(あ………うん、マリーがただの女の子なら、そうなるよな)


 ケントは新たに増えた嫌疑に、身を小さくして震え上がった。


「ケント。私がどれほどあなたを信頼してきたか、分かってます?」


 クリスは、厳しい声で言った。


「も…もちろん」

「いくらあなたが人と一緒に行動できない問題児で、私が忙しいからといって、信頼がなければ単独行動なんて許可しません。絶対に!」

「う、うん」

「それに、このフローライト。王家が所有する、この国で最高級の魔法石。あなたに持たせて悪用されたら、私の首ひとつではすまないもの」

「分かってる」

「いいえ、分かってない。私は……っ! あなたが魔法の力で一方的に誰かを傷つけるようなことはしない人だと信頼していたんです!」

「一方的じゃない! 彼女が拘束を嫌だと感じたら解けるって術式を入れ込んでる!」


 ケントは言い訳をした。

 その術式は、魔法の最後にクリスの顔が思い浮かんで付け足したものだった。

 我ながらバカなことをしたと思った。こんな術式を入れたら魔法が成立しないと。

 けれど、すぐに思い直した。

 どうせ彼女は幻なのだから、成立しなければそれまでだと。

 そして。

 魔法は成立した。ケントの予想を裏切って。


「それなら、もう解けていてもいいはずですよね? その術式の中にミスがあるのでは?」

「そこは何度も見直したって! っていうか、なんで彼女が嫌がってないって考えはないんだよ!?」

「嫌がられたから、魔法で拘束したんでしょう?」


(あれは魔女マリーなんだよ! いつでも解ける魔法をあえて放置してんだよ!)


 クリスの厳しい追求に、ケントは思わず心の中で叫ぶ。

 が、実際には。


「う…いや、なんていうか、あるだろ? 口と本心が違うっていうの?」


 真実をぐっと喉の奥に呑み込み、それらしい言葉を並べてみた。


「そうですね。世間一般的にはそういうこともあるでしょう。でもあなたの場合は魔法使い以前に、目つきの悪さで視る目を持たない人にも逃げられるじゃないですか」


 身も蓋もない実績をクリスはあげる。

 そう。ケントは望んで独りでいようとしているが、ケントに近寄りたいと思う人間もほぼいないのである。

 ましてやケントを叱る者など、クリスだけ。

 そんな事情もあり、クリスはケントの暴走を止める役割を、強く強く強く自負している。


「ケント。まずは拘束の魔法を解いてから話をしましょう」

「え……? いや、その」

「それが道理でしょう。あなたでも魔法不正監査局の仕事をしている以上、女性を不当に拘束するなんて一瞬たりとも許されません」

「む…むり……」

「はい?」

「だから、魔法を解くのはむり! 勢いで暗号化したら、ちょ…ちょっと難解になって、時間がかかるっていうか…」


 ケントは苦し紛れに言った。


「へえ? たしかにあなたの魔法はクセが強くて読みにくいと定評がありますが、あなた自身には一番読みやすい魔法のはずですよね?」


(う…わー………)


 火に油をそそいだ。


「まさかこの期に及んでまだ拘束を続けようなんて…」

「思ってない思ってない! ちゃんと魔法は解く! ただ、先に粉問屋の件を」

「だーかーら! どうして分からないんです? 今のあなたに不正を裁く資格はありません!」


 クリスは強い口調で言った。

 魔法不正監査局を束ねる者として。Aランク魔法使いケントの監督者として。女性を拘束する魔法は、クリスにとって絶対にゆずれない問題だ。


 それでも。ケントにだって、ゆずれない一線がある。

 拘束の魔法とマリーのオーラを消す魔法を一緒にかけているから。

 魔法を解けば、彼女が魔女マリーだとクリスにバレる。知ればクリスは彼女をおさえようと動く。

 自分が彼女にしたことが自分の一存を離れてしまうのは嫌だ──それは、ケントなりの仁義のようなもの。


「ケント。魔女マリーが魔法使いダグラスから、彼の力の源である魔法石を奪って一年。なんとしてでもダグラスより先に彼女を見つけて保護しようとしているときに、うちの看板を背負う魔法使いが女性を魔法で拘束するような人間だと知られたら…」

「…魔女マリーの件は今関係ないだろ」

「関係ありますよ。オールドミスは女性の人権にうるさいんですから」

「関係ないっつってんだろ! すでに嫌われてるんだから!」


 ケントは逆ギレした。

 マリーの言葉がケントの心に突き刺さっていた。


──嫌いなんだよ、あたしは。魔法も、魔法の力で相手をねじ伏せようって考え方も。


「すでに嫌われてるから、だから彼女は一人で逃げ続けてんじゃないか!」


 叫びきったあと、驚くクリスの顔を見てケントは我に返った。

 そういえば、これまで彼に叱られて、こんなふうに逆ギレしたことはなかった。


「あ……悪い。今のは……その」

「いえ、魔女マリーの件は私が謝ります。たしかに、あなたの言う通りかもしれませんね。共通の敵をもっていても、共闘できないことはある……でも、それはそれとして、あなたの行為は」

「悪い、クリス。そろそろ動きそうなんだ」


 ケントはクリスに時間切れを通告した。

 村人たちが移動を始めたのだ。

 いつのまにかマリーは襟付きブラウスに着替え、痩せこけた頬も化粧でマシになっていた。


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