■裏設定ノート (画像あり)※ネタばれあり
本日5話投稿しました。
終章からお読み下さい。
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全話読後にお読みください。
二章と三章の間の「設定ノート」は作中世界の公式情報ですが、こちらは非公式、もしくは作中世界ではまだ知られていない情報となります。
※注釈(*)は、作中に出て来ない初出し情報です。
-INDEX-
1.マリーのこと
・誕生の禁術
・マリーの体のこと
・ランク判定(*)
・能力(全部)
・魔女マリーの魔法のカラクリ(*)
・眠らされた人々のこと(*)
2.魔素と魔法と紫斑病
・地図とデータ
・魔素/紫害気
・魔法石/採掘場/浄化魔法装置(*)
・サヴァランス山脈の魔法環境(*)
・東海の孤島にある魔法学校の魔法環境(*)
・大陸における魔素の流れ(*)
・紫斑病(*)
3.メープル公国
・対外国向けの顔
・公国内情(*)
・裏公国(*)
・裏歴史(*)
・メープル酒のカラクリ(*)
・スギナ茶(*)
4.王家
・初代国王の真実
・王都の護りのカラクリ
・王の寝室
・現国王は超級能力者
・王太子ギルバートはBランク
・王家の遺伝
・天空城(*)
5.魔法使いダグラス
・前王との確執(*)
・ダグラス マジック(*)
・荒れ海へ行く
・マリアとの結婚
・火山噴火抑制魔法陣に気付く(*)
・覇権を狙う
・ロスト爆発事故(*)
6.魔法医アーサーが用意したアンダーソン伯爵のクローンの話(*)
7.魔法使いと視る者の血の話(*)
8.未来のこと
・マリーは視る者と認定される
・マリーの後遺症(*)
・マリーとケントの子ども
・メープル公国の変化(*)
・魔法道具の父、大魔法使いケント・ブラウン(*)
* * *
1.マリーのこと
【誕生の禁術】
不妊症だった母マリアを懐妊させるために、父ダグラスが禁術を使い、魔法石の能力を持った子をマリアの胎内に宿した。
途中で生育が止まるが、魔法医アーサーの力を借り、生まれてきた。
【マリーの体のこと】
誕生後もアーサーが力を尽くして、半分魔法石という特殊な身体のマリーは成長できた。
魔法媒介能力を使うと魔法石の成分が減り、一定量を下回ると意識を失う。魔法石成分を摂取すると目覚める。シェイド市で倒れたマリーは、イライザの飲ませた魔法石成分入りのレモン水で目覚めた。
もう少しいうと、ダグラスの起こしたロスト爆発事故には、紫害気に汚染されたロストにマリーを呼び寄せ、汚染された川の水を通して魔法石の成分を補給させたいという目論見もあった。
【ランク判定】(*)
生後3か月の赤子を一堂に集めて行われるランク判定。赤子は裸で並べられる。
同日にランク判定を受けるEランク魔法使いの男児をアーサーが魔法整形でマリーの姿にし、ランク判定印を押す足裏だけダグラスが空間魔法で本物のマリーの足裏にした。
偽マリーの判定を早めの順番で行い、ランク判定員が順に赤子の判定をしている間に、男児を元に姿に戻し、後の方でランク判定されるようにした。
なお、魔法医アーサーが、地域医師として、ランク判定会場の現場スタッフだったため、順番操作ができた。
マリーの足裏にはEランクの判定印が押され、町で暮らしていた幼いころは、Eランクに視えるよう偽装されていた。
後に、このランク判定ごまかしトリックを聞いたクリスは、その高度すぎる技に、再発の可能性なしと判断した。…ダグラスとアーサーのレベルを警戒して不正対策するのは無理と諦めた、ともいう。
【能力(全部)】
規格外な魔女(桁外れの魔力)
『青白い』オーラをまとう
視る目:超級+『魔法石の傷み具合が分かる』
魔法感知:超級+『発動前の魔法感知』
『魔法媒介能力』
※『』で囲った能力は、魔法石由来の能力
【魔女マリーの魔法のカラクリ】(*)
*瞬間移動の魔法
→移動先を指定せず、瞬間移動の呪文だけを唱えた。
移動先を指定しないと、土の中など不都合な場所に跳ぶ場合もあるのだが、マリーの場合は、母の想いを宿した巨大人造魔法石が安全な場所に跳べるよう微調整していた。
*序章で、ニール少年の胃の中から魔法石を取り出した魔法
→マリーの深層心理下から無意識に出てきた魔法。
知識元は魔法医アーサーで、呪文丸ごとコピー。
*第一章1で、ごろつきを弾き飛ばした魔法
→ダグラスがマリーにかけた守護魔法のひとつ、
『物理攻撃の力の向きをそらす』を意識的に利用。
ただし、なぜそんなことができるのかとか、それが父の魔法だとかは知らない。
…生きるのに必死で、まったく、一ミリの余裕もなく、使えるものは使う、と走り続けた結果。
なお、自分への魔法攻撃がなぜか無力化されることも認識しており、何かあると体を張ろうとするのは、その辺の認識も関係している。
【眠らされた人々のこと】(*)
眠らされた人々の大半は、魔法装置爆発で町ごと吹き飛ばされたロストの住民。
残りは、マリーと関わって、ダグラスに消された人々。彼らは、アーサーが人体クローン技術により死体を用意し、社会的に完全抹殺していたため、記憶喪失状態で目覚めた。マリーが気にしていたニール少年も記憶喪失で、魔女マリーの記憶は失われていた。
なお、イリス一座の姐たちはダグラスの攻撃で即死しており、眠らされた人々の中には入っていない。
※爆発事故の詳細は、ダグラスの「ロスト爆発事故」を参照下さい。
2.魔素と魔法と紫斑病
【地図とデータ】
【魔素/紫害気】
*魔素
魔素は魔法を実現させる素。
鉱石に含まれると魔法石になり、空気中に含まれ、濃度が濃くなると人体に害を及ぼして紫害気と呼ばれる。
*紫害気
魔素濃度が濃く、人体に害を与える空気を紫害気と呼ぶ。
【魔法石/採掘場/浄化魔法装置】(*)
*魔法石
魔素を含んだ鉱石。
魔素の量によって等級が変わる。量が多いほど等級が高くなる。
*魔法石採掘場
紫害風(魔素の濃い空気の風)の吹く鉱山で、魔法石の採掘を行っている場所のこと。すべて国の管理下にある。
*紫害気浄化魔法装置
採掘場の紫害気を浄化する魔法装置。この装置を利用する以前は、各個人が紫害気対策をして採掘していたが、トラブルが絶えなかった。
一号機は前王フィリップが中心になって作った。(火の系統)
二号機以降は若き日のダグラスが提案した改良型が取って代わった。(水の系統)
前王フィリップとダグラスの確執の元となった。
ちなみにこの装置設置後、採掘場と周辺の紫害気(魔素)が減り、パパラチア王国の他の場所よりも魔素の低い場所となった。
【サヴァランス山脈の魔法環境】(*)
サヴァランス山脈では、魔法が使えない。
魔素が地面下に吸い取られていて、魔法使いが魔素を動かそうとしても動かせないため。
【東海の孤島にある魔法学校の魔法環境】(*)
東の海は魔法が使いやすい地域。
東海の孤島に魔法学校が設立されたのは、初心者でも魔法の感覚をつかみやすいことと、魔法使い集団を隔離できるという理由から。
【大陸における魔素の流れ】(*)
※作中の時代ではまだ解明されていない説になります。
魔素は東海の海底から吹き上がり、空気中を拡散しながら広がり、サヴァランス山脈に吸い取られて地面下に還る。
地面下に還った魔素の大半は東海からまた空気中に排出される。
ごく一部の魔素が、東海にいく前に地面下の亀裂を通って地表に出て来ている。その場所は紫害風の吹く地として、立ち入り禁止地区になっている。ただし、鉱山だけは、魔法石採掘場となった。
また、サヴァランス山脈南の荒れ海は、地面下に大きな亀裂があり、魔素が大量に噴き出す地となった。
なお、サヴァランス山脈から東海へ移動し、噴出する魔素の総量は莫大ではあるものの、東海の広大な海域全体から噴出しているため、一地点における量は多くない。
【紫斑病】(*)
体中の皮膚に紫の痣ができる病。病の進行とともに体が動かなくなり、呼吸が弱くなる。慢性紫斑病はパパラチア王国の国民病。
急な魔素の過剰摂取で起こるのは急性紫斑病だが、作中世界ではその現象が紫斑病とは認識されていなかった。
3.メープル公国
【対外国向けの顔】
サヴァランス山脈で魔力が無力化するため、魔法攻撃を受けない国である。
また、サヴァランス山脈は物理的に大陸の東西をわけ、公国が唯一の安全な道となっているため、古来より中立国家として、魔法使いの東西移動を監視している。
公国のメープル酒は、視る者が魔法使いの魔力を打ち消すときに使う物で、公国の重要輸出品。
ウェブスター家が大公として治める。人口は五千人弱、全員が視る能力者。反面、出生率が低い。(死産率が高い)
視る能力判定は、公国から一番近いパパラチア王国の町で、三歳の子を対象に行い、パパラチア王国にその対価を支払っている。魔法使いを借りるだけの契約で、子どもに付き添って能力判定を行うのは公国の役人が行う。
ちなみに東の国々では、メープル公国を信頼し、視る能力判定すらしていない。
【公国内情】(*)
公国の住民は、スギナというハーブ茶を日常的に飲む。これは、日々大量の魔素を浴びている住民の体調を整えるためである。
公営病院があり、民は無料で治療を受けられる。出産は病院で行われ、これも全額無料。
また、学校(無料)での学習に、健康に長生きするための学習項目があったり、それぞれの家で病に対する対策が取られている。いざという時は、ハーブや食料の備蓄を解放、民に無料で配られる。
民への手厚い配慮は他国にはなく、公国の民は大公に絶大な信頼を寄せている。資金源はメープル酒の売り上げ。
出生率の低さは嘘で、魔法使いとして生まれた子が死産とされている。担当医師には、『視る者の国として魔法使いを監視する公国に魔法使いが生まれては存在意義に関わるため処分』と伝えられている。住民は大公家に心酔しているので、赤子の処分に疑問を持つ者はいない。
また、三歳で視る能力なしと判定された子は、大公の館に集められ、生涯を館の使用人として過ごす。
ひとつは、他国に只人がいるとバレないようにするため。
もうひとつは、只人はサヴァランス山脈の魔素が多い環境では生き難く、大公邸に、魔素を遮断する特別な仕掛けがあったから。
そのため、病気でもないのに衰弱気味の赤子は、親が望めば、視る能力の簡易検査を受けることができ、只人と分かれば早々に大公邸に引き取られる。
【裏公国】(*)
視る目を持たない住民が大公邸に集められるのは、実は『大公邸で使われる魔法を視たり感知したりされないように』というのが主目的である。
魔法が使えないサヴァランス山脈において、魔法を使える仕掛けが大公邸には施されていた。
そして、代々の大公はもれなく強い魔法使いであった。
魔力のオーラは、魔法のペンダントで、サヴァランス山中においても完全に消された。(これは、メープル酒の技術の応用系であり、パパラチア王国の代々国王も、これと同じ道具で魔力のオーラを消していた。)
さて。
死産とされた魔法使いの赤子は、生殖能力を潰された後、公国地下にある魔法使いだけの裏公国に送られる。(生殖能力を潰すのは、限りある地下空間の人数をむやみに増やさないため。生殖能力を潰すことで、比較的穏やかな性格にするため)
裏公国は、魔法が使えるよう細工された大きな地下空洞に築かれた町だった。
そこでは、赤子は保育所の祭壇に現れるもので、保育所で五歳まで育つ。玩具を使って数の概念や簡単な足し算引き算は習うが、教育はそれだけ。その後は寮に入って、裏公国の存在理由である『魔素拡散』の仕事をする。裏公国で『魔素拡散』以外の仕事は保育所の所員のみ。
食事は食堂に行けばボタンひとつで暖かいものが出て来るし、皿洗いや掃除や洗濯は魔法で全自動。ケガや病気も、治療ベッドに寝ることで、魔法で自動治癒。
そして肝心の『魔素拡散』の仕事は、人造魔法石に手を当てて魔力を流すだけ。
だから裏公国の魔法使い達は、魔法の概念も術式の知識もない。『魔法使い』という自覚もない。人は皆、魔力のオーラを持っていて、人によって強弱があるという認識。動植物もあえて排除されているので、人以外の生命存在も知らない。
外の世界を知らず、何の疑問も持たず、ただ『魔素拡散』して死んでいく魔法使い集団。
唯一与えられた娯楽は、カードゲームやボードゲーム。ただし、お金や売買という概念すら存在しないので、単純に勝った負けたで終わるゲーム。
…話の中でクリス達が恐れていた裏公国の魔法使い集団は、実は敵にもならない無能力集団だったという…。
【裏歴史】(*)
三千年の昔。
若き魔法使いアドルファス・ウェブスターは、サヴァランス山脈で魔法が使えないのは、魔力が地下に吸収されているからだと気づく。
山脈地下に潜った彼は、マグマの活発な活動を目にし、これは異常ではないか、魔素のせいではないかと考え、このまま魔力の吸収が続けば大陸を消滅させる大噴火につながると考えた。
アドルファスは仲間を集め、生涯をかけて、サヴァランス山脈で魔法が使える環境を作り、『魔素拡散』を行った。
数百年後。体調維持に効くスギナ茶の発見によって定住が可能になり、魔素拡散の地下施設は大きくなり、住民も増え、そして、サヴァランス山脈で生まれる子どもは魔法使いと視る者に偏っていることが分かる。
二千年前。メープル酒に『魔法が記録できる』ことが分かり、魔法道具としての利用が始まる。ただし、この魔法道具が使用できるのは、魔法使いと視る者に限定された。
このタイミングでメープル公国が建国され、『魔法を無力化する』メープル酒が主要輸出品となった。
そして、魔法使いへの対抗手段を手に入れた人々による、魔法使い狩りが始まる。
視る者と魔法使いの壮絶な戦いが大陸を席巻した。このとき、メープル公国を除く全土で、歴史と文化が失われた。
人口減に伴い、魔法の使用も減った。
このとき、アドルファスの末裔は、マグマ活動がおだやかになっていることを確認した。
末裔は、魔法使用を減らすことでマグマ沈静化できると結論づけた。(この説は後にダグラスによって否定されている)
地下公国と『魔素拡散活動』は裏公国となり、地上の人々から隠された。
以降、数百年に一度、大陸で大戦が起こるよう、公国が暗躍するようになった。
また、効率的な魔力拡散を追い求める裏公国は、魔法石の能力アップの研究も行った。
そして千五百年前にあみだされたのが、胎児と魔法石を同化させ、絶大な魔法媒介能力をもった人間を誕生させることだった。
しかし、その人間は絶大な力をもつことになり、それを警戒した公国は、魔法媒介能力をもつ人間を、生涯眠らせたまま、媒介能力のみ利用した。人扱いされず、「魔力媒介装置」と呼ばれる子を産む役割は、大公の娘が担った。その娘自体、その役割のためだけに、大公が裏公国で魔女に産ませた子である。
大陸存続の大義の名のもとに。
歴史が累積されていく公国では、魔法研究も、突出して進んだ。
【メープル酒のカラクリ】(*)
メープル酒のそもそもの機能は、『魔法を記録』して、服用者にその魔法を実現させること。
記録する魔法によって、実現する魔法が変わるが、メープル公国はその事実を隠し、メープル酒は『魔法を無力化する』道具とした。
代々の大公が魔力のオーラを隠すために使うペンダントには、メープル酒が入っていて、体に触れることで発動する仕組みになっている。これは、魔法が使えないサヴァランス山脈でも有効。
【スギナ茶】(*)
日々大量の魔素を浴びるメープル公国の住民の体調を整えるハーブ茶。
もっとも、メープル公国の住民は総じて魔素に耐性がついており、お茶程度で事足りている。他国民はスギナ茶を飲んでいても長期滞在は辛い。
4.王家
【初代国王サディアスの真実】
約三百年前。
裏公国で一大事件が起こる。
『魔力媒介装置』を宿した魔女イーニッドが裏公国を出奔したのだ。
魔力を消す魔法でうまく身を隠したイーニッドは公国の外で出産し、息子にサディアスと名付けた。
折しも裏公国が数百年に一度の大戦を仕掛けていた時期で、世界が混沌としていたことも幸いした。
イーニッドからすべての知識を得て大人になったサディアスは、魔法石の能力も魔法使いのオーラも隠し、視る能力者としてパパラチア王国を興す。裏公国の情報を秘匿することを条件に、裏公国を黙らせたのだった。
裏公国ではサディアスを教訓に、『魔力媒介装置』を人から石に変えるべく研究を重ね、強化魔法石を生み出す。女性を妊娠させず、女性の胎内で魔法石を強化するという手法だ。
また、強化魔法石の成功後、裏公国魔法使いを無知にしておく教育方針も始まった。
余談ではあるが、長い歴史の中で情報の完全秘匿は難しく、ダグラスは宮廷魔法使い時代に、古い魔法書の落書きの中に、『魔力媒介装置』の記述を見つけた。
【王都の護りのカラクリ】
王都の護りは、初代国王サディアスが、強大な魔力と裏公国の知識を使って実現させた、魔法による仕掛けである。魔法使いの入都許可証、安全エリアも同様。
すべては、視る者が魔法使いの上に立って治世を行えるように。
サディアスの強大な魔力と裏公国の知識を隠すため、未開の土地を選び、『昔からそういう特性の土地だった』とした。
※王都の護り、入都許可証、安全エリアの詳細は『設定ノート』をご覧ください。
【王の寝室】
初代国王サディアスは、王の寝室にも仕掛けを施した。
魔法使いである王のみが入れる隠し部屋を作り、王以外の入室を禁止するため、自動掃除機能を付けた。
王の隠し部屋には、裏公国のことや、秘匿された魔法の技術が収められた。そこに、代々国王の日記や研究、裏の情報が積み重ねられていった。
パパラチア王国建国後に裏公国が生み出した強力な人造魔法石の情報は、裏公国が完全に秘匿したため、パパラチア王家には伝わらなかった。
【現国王は超級能力者】
魔法使いの王太子ギルバートの父ヘンリーは、視る能力を持たない只人の国王とされたが、実はクリスと同じ超級能力者だった。
なぜそうなったかというと、ヘンリーの父フィリップが、視る能力判定時、それまでの常識に収まらないヘンリーの言動に腹を立て、「こいつは視る能力なしだ」としたからである。
【王太子ギルバートはBランク】
Aランク魔法使いと公式発表されている王太子ギルバートはBランク魔法使いである。正式な認定前にAランクと広まってしまい、低く訂正するのをやめた結果。
【王家の遺伝】
初代国王サディアスの子は、魔法石の能力こそ継がなかったが、強大な魔力を受け継いだ。
サディアスは、子孫に魔法使いが生まれた場合、視る能力者と偽ることを決め、メープル公国の大公と同じメープル酒を利用したペンダントで、魔力のオーラを隠した。
強大な魔力は代を重ねるごとに弱まっていき、前国王フィリップがダグラスより若干弱いAランク魔法使い、現国王ヘンリーが超級能力者、王太子ギルバートがBランク魔法使いとなっている。
なお、サディアスの特殊な血のせいで王家は代々子が生まれにくく、建国から三百年後の作中世界において、王家の分家はなく、王太子ギルバートが唯一のサディアスの血統である。
ただし、ギルバートの時点で魔法石由来の血はほぼなくなっており、子孫繁栄能力も通常に戻っている。
ギルバートの祖父フィリップの子がヘンリーだけなのは、ひどいストレスのせい。父ヘンリーの場合は、魔法使いの王子ギルバートを生かしたければ弟妹を作るなと後見人アンダーソン伯爵に言われたことを守ったから。
【天空城】(*)
パパラチア王国の王城は、王都の空に浮かんでいる。
空に浮かべたのは、三代目国王。腹心の魔法使い(三代目国王自身)にやらせた、とした。わりと血気盛んで、裏の魔法知識を使って派手にやらかした人。三代目の後、やらかしのフォローに苦心することになる。
なお、空飛ぶ城にはそのための動力(魔力)が必要で、その動力として、思考力を奪ったAランク魔法使いが充てられた。三代目以降、延々と。
作中では、前国王フィリップの任命した人が、まさしく機械のように最初に受けた命令を行使し続けて動力源の役割を果たしていたが、フィリップの没後、彼の正しい役割を知る人はなく、実は彼の寿命とともに天空城が落ちる危険があった。
王の隠し部屋を知ったギルバートがその問題に気付いて、世情が落ち着いた後、動力が喪失したとして、城を地上に下ろした。動力源だった魔法使いは、人間らしい生活を取り戻せるようサポートしたが、戻らず。機械的に魔力を魔法石に送る生活を続けた。動力源の役割はもうなかったが…。
5.魔法使いダグラス
【前王との確執】(*)
視る者として国を治めた前王フィリップは、本当はAランク魔法使いだった。そして、その魔力は、Aランク魔法使いダグラスより若干低かった。
フィリップは魔法石採掘場の紫害気対策として、紫害気浄化魔法装置を発案、チームを作って製作し、魔法石採掘場のフロント町ロストに一号機を設置した。動力は火魔法の系統を採用した。
一号機の稼働が始まったころ、魔法学校を優秀な成績で卒業したダグラスが、浄化魔法装置製作チームに入った。
ダグラスは一号機の欠点を指摘した。火魔法の系統ゆえに、暴発がありうると。さらにダグラスは、水魔法の系統を採用して安全性を高めた浄化魔法装置を提案した。二号機以降は、ダグラスの案が採用された。
まじめで勤勉な魔法使いダグラス。王家が秘密裏に受け継いできた高度な魔法知識もなしに、フィリップを上回る魔法装置を提案してきた若き天才。
フィリップはダグラスに脅威を感じた。そして、魔法使いとして嫉妬したのだ。
さて。
若き日の摂政ウィルフレッド・アンダーソンが王命で都の大貴族マッキンレイの令嬢と結婚したとき。大貴族マッキンレイは、ウィルフレッドと魔法使いダグラスの穏やかな親交を不都合だと感じた。魔法使いダグラスはウィルフレッドに強大な力を持たせてしまう、と。
大貴族マッキンレイは国王フィリップにささやいた。王太子ヘンリーはまだ幼く、フィリップの老い先は短い。魔法使いダグラスは危険因子ではないか、と。
独り孤独に戦い続けていたフィリップは、ダグラスの排除を決意する。濡れ衣を着せ、処刑を命じた。ダグラスを拘束した上で、魔法使いを都の中で生かす入都許可証を取り上げたのだ。
【ダグラス マジック】(*)
処刑で死ぬはずだったダグラスが、瞬間移動で逃亡し、生き延びたことを、都の人々は『ダグラスマジック』と呼んだ。
処刑ということで、ダグラスが魔法石を持っているはずなかったし、そもそも瞬間移動に必要な1等級魔法石は数が少なく、すべて王家の管理下にあるからだ。
さて、そのカラクリは。
実は、ダグラスは、ちょっとした親切から知り合った町の宝石屋の勧めで、歯の一つを義歯に変え、そこに魔法石を仕込んでいた。違法行為ではあったが、宝石屋の売り上げ貢献のために、と頼みこまれて。それは、宝石屋が扱える最高の2等級の魔法石で──世の無常を知る宝石屋の、ダグラスに対する純粋な善意だった。
濡れ衣で処刑を言い渡され、絶望したダグラスは、瞬間移動での逃亡を決意する。移動先を指定しての瞬間移動は1等級の魔法石でないとできないが、理論上では移動先を指定しなければ2等級の魔法石でも瞬間移動できると気付いていたからだ。
移動先を指定せず瞬間移動し、出先の障害物にそなえて間髪入れずにバリアを張る。移動先は土の中だった。真上を探知し、森の中だと判断した後、地上に出た。
こうして、ダグラスは九死に一生を得た。
【荒れ海へ行く】
処刑から逃げて都を落ちたダグラスは、その日のうちに、人の寄り付かない場所であるミルキー山脈に行った。
そこで、ダグラスと同じ境遇だったらしい先人の住処と、国宝級を含む十数個の魔法石を見つける。住民は死亡しており、小屋は百年を経過していた。
いつの時代も権力者の横暴は変わらない──絶望を深くしたダグラスは、世界の果てを見てやろうと思いたつ。
人が近寄ることのできない、荒れ海へと。
荒れ海は、濃い魔素の吹き荒れる世界だった。息すらできなかったから、ミルキー山脈の隠れ家から拝借した魔法石を消費することで生き延びた。
海の中では、強い魔力を帯びた巨大魚たちが、互いを威嚇し、攻撃しあっていた。
ダグラスは、おのれの…人類の小ささを知った。ひときわ大きな魚に大口を開けて威嚇され、弱き者は帰れと言われた気がして、そこでダグラスは引き返した。陸へと。
生きて砂浜にたどり着いたとき、持っていった魔法石は消費し、残ったのは映像を記録した魔法石ひとつだった。
生還を実感したら、自分が生きていることが無性に可笑しくなって、しばらく笑いが止まらなかった。
強い怨嗟の気持ちから解き放たれたダグラスは、パパラチア王国の北西地方にある森の中に住むことを決めた。
また、国王フィリップの急死と、友人であった摂政ウィルフレッドが自分を探していることを知り、ウィルフレッドと連絡を取って、隠居生活を始めた。
【マリアとの結婚】
隠居生活数年後、ダグラスは、北西地方を転々とする小規模流民一座イリス一座のマリアと出会う。ダグラス三十五歳、マリア十八歳。
ダグラスは、摂政ウィルフレッドに申告した家とは別に、隠れ家を持っていて、定期的に利用していた。国を恨む気持ちは薄れても、馬鹿正直に、申告した家に定住し、魔法石も持たず暮らそうとは思えなかった。国の再度の裏切りに備え、保険をかけるくらいはする。
マリアと出会ったのは、その隠れ家の近くだった。
マリアは美しい娘だったが、流民であることなど立場の弱さを理由に、町の若者たちから虐げられていた。全身殴打され、血まみれで倒れていた彼女をダグラスが介抱したことが、二人の出会いだった。
自分を下に見ず、親切で理知的なダグラスに惹かれたマリアは、ダグラスに猛アタックした。
魔力のオーラを低く視えるようにして、市場で魔法石を複数入手し、魔法で不自由なく暮らしていたダグラスだったが、家庭的な彼女の料理や女子力に陥落。
マリアは流民一座にいては不幸から逃れられないと判断し、プロポーズした。
行き倒れていたDランク魔法使いエドワード・ハリスに外見を似せ、魔力のオーラをDランクにし、エドワード・ハリスとして結婚する。マリアはダグラス・ウォーレンと結婚したいと渋ったが、最終的には折れた。
二人は、北西地方の中規模の町の片隅で薬屋を開いた。結婚を機に、ダグラスは摂政ウィルフレッドと約束した定期連絡を放棄した。
また、子どもに憧れるマリアのため、ダグラスは禁を犯して彼女を妊娠させ、途中で行き詰まり、近くの開業医だったアーサー・ケインズを頼った。
アーサーは、ダグラスの正体を知ったが、国に通報するどころか、ダグラスの親友になった。マリーのフォローはもちろん、素人技術だったダグラス自身の魔法整形を、アーサーがやり直してくれた。
平和に薬屋一家として暮らしていたが、マリーが五歳のとき。美しいマリアが横暴な地方領主の目に留まり、攫われ、乱暴されて死んでしまう。
最愛の妻の無残な姿に逆上し、領主の館を襲撃したダグラス。そこに、アーサーに連れられてやってきた娘のマリー。このとき、ダグラスにはマリーが魔法石に見えた。マリーを抱き上げ、マリーの膨大な魔法媒介力を利用して、雷を発生させた。
ダグラスが正気に戻ったのは、魔法を媒介した痛みでマリーが悲鳴をあげたとき。
アーサーの提案で死亡偽装したダグラスは、マリアと出会った森の隠れ家に瀕死のマリーを連れていき、そこでアーサーと必死の看病をした。
このとき、摂政ウィルフレッドに申告した家に魔法書を取りに行き、ウィルフレッドの設置していた警報に引っ掛かる。仕方なくダグラスはウィルフレッドに音信不通を謝罪し、定期連絡を再開した。
【火山噴火抑制魔法陣に気付く】(*)
隠れ家でダグラスとアーサー、マリーの三人で平和に暮らしていたあるとき。
ダグラスはミルキー山脈に向かって空を飛んでいく、自分より強い魔法使いを見つける。しかし、マリーとダグラスを除くAランク魔法使いは国内に五人。全員きっちり国に管理されていた。
魔法使いの行動を追い、ミルキー山脈内部のマグマだまりにたどり着いたダグラスは、そこに仕掛けられた多数の巨大な魔法石で作られた魔法陣を見つける。
ただ事ではないと直感したダグラスは、マリーをイリス一座に預け、アーサーとともに調査に乗り出した。
そうして、魔法陣の目的がマグマを抑えること、何年後かの大噴火を狙っていることを解明。犯人や目的をさまざまな観点から調査して、メープル公国にたどり着いた。
また、メープル公国の魔法技術を見たことで、ダグラス自身も高度な魔法技術を身に着け、独自の人造魔法石コールライトの開発に成功した。
【覇権を狙う】
火山噴火抑制魔法陣を見つけた最初、ダグラスは摂政ウィルフレッドに報告するべきだと考えた。
しかし、ウィルフレッドは摂政でありながら、その権力は盤石ではなかった。横暴な大貴族マッキンレイが政治の中枢でのさばっていた。
ウィルフレッドには知らせたいが、マッキンレイが知れば、その自己中な超思考回路で国を滅ぼしかねない──ダグラスは国への報告を諦めた。
アーサーと二人で、まず調査できるだけ調査することにしたのだ。
結果。メープル公国に遥か先の魔法技術があること、多数の魔法使いがいることが推察できた。
ダグラスは考えた。魔法大戦が起こるなら、マリーの魔法媒介能力は切り札にされかねない。自分が王になって、マリーが利用されないことを担保しなければ。
国を救って、最愛の娘をズタボロにされるなど、到底承服できることではなかった。
そう決意したダグラスに対し、イリス一座の姐たちは、マリーの心に焦点を当てて物事を考え、ダグラスの覇権に反対した。
そして、火山噴火抑制魔法陣の件を国に報告に行く強硬姿勢を見せたため、ダグラスはイリス一座の姐たちを皆殺しにした。
魔法攻撃で殺害したのは、死の痛みや恐怖を与えないという、ひと欠片の思いやりであった。ダグラスの強い魔力を視て気を失ったイライザを取りこぼしたのは、彼も冷静ではなく、きっちり確認しなかったから。
【ロスト爆発事故】(*)
放置しておけば火山が噴火する。そう結論を出したダグラスは、人造魔法石の強化版を作り、噴火抑制力を強くした。ダグラスが王家と対立していればメープル公国は見逃す、という読みの元に。
その読みは当たったものの、噴火抑制は非常にエネルギーのいる作業だった。
ダグラスとアーサーは、人間の精気をエネルギーに充てる方法を編み出した。
覇権に反発して一人旅中のマリーと関わり、排除した人々の大半は、眠らせて、精気エネルギーの供給源とした。(死亡偽装のためにクローン死体を使った)
そうこうしているうちに、エネルギー不足が深刻になってきた。
ダグラスは、ロスト爆発事故を起こし、町ひとつ分の人間の精気をエネルギーを入手した。
魔法石採掘場のフロント町ロストの紫害気浄化魔法装置──前王フィリップの発案で作った火系の魔法装置を選んで爆発させたのは、過去の因縁のせいである。
6.魔法医アーサーが用意したアンダーソン伯爵のクローンの話(*)
アーサーはダグラスの影となったあと、人体クローン作製に成功。ただし、魂が入らないせいか、それはクローンとして生まれた瞬間に死んでしまう。ダミーの亡骸としてのみ使える技術だった。
ダグラスが国仕えしていたころに親交があり、逃亡後も、逃亡を認める措置をしてくれた摂政ウィルフレッド・アンダーソン。
彼は、火山噴火を収めて魔法使いダグラスが死んだ(表向き)後、腐りきった大貴族マッキンレイを告発するため、自殺をした(偽装)。
その自殺死体として、アーサーがクローンを作って提供する。
なぜその流れになったかというと、精気エネルギーの供給源にされていた人々の後遺症治療を統括していた医師サイラス・ウェリントンの元に、アーサーが合流し、サイラスがクローン技術に気付いたからである。サイラスは、ウィルフレッドの子であるクリスと親交があり、クリスが主導した大貴族マッキンレイ没落に滅茶苦茶かんでいた。
サイラスは、適当な代理死体では失敗するかもしれないと危惧していたので、クローン死体を推し進めた。
実際に。ウィルフレッドに拗らせまくった恋慕を抱いていた正妻は、おそるべき行動力を発揮し、彼が自殺した視る者協会の執務室に乗り込んだ。正妻や正妻の実家マッキンレイを陥れる証拠資料などには見向きもせず、クローン死体をくまなく観察し、ウィルフレッドの死を確認し、魂の抜け殻のようになり、世間から断罪されたのち、すぐに自死したのだった。
死亡偽装後、ウィルフレッドは魔法整形のゴッドハンドでもあるアーサーの施術で、容姿を変える。
その際、ダグラスとも再会した。
なおダグラスも、ウィルフレッドより前に、アーサーの施術で外見を変えている。
ダグラス討伐の功で伯爵に叙せられたクリスの屋敷の庭師になったウィルフレッド。ときおり友人としてダグラスと会い、親交を温めた。
※ワガママ自己中大貴族マッキンレイに散々煮え湯を飲まされたウィルフレッドは、政治活動にはほとほと嫌気がさしており、死亡偽装からの庭師隠居生活を幸福に過ごしました。
7.魔法使いと視る者の血の話(*)
魔法使い、視る者、只人。
ずっと人々は、三者が身体的に大きく異なると考えていた。
けれど、魔法使いと視る者の、身体的違いは一点だけだった。
血中魔素を体外に放出できるか否か。すなわち、両者の血は同じ種類のものだった。
視る者がメープル酒で魔法を使えるのは、魔法使いと血が同じだから。
この話は、メープル公国との和解後、メープル公国より入ってくることになる。
そして、実は特別な視る目を持つ超級能力者は、Aランク魔法使いより血中魔素濃度が高かった。
幼少期、ケントや王太子ギルバートは、自然とクリスには敵わないと白旗を上げたが、そこには、血中魔素濃度の高い相手への自然な畏怖が入っていたのである。
大きな声では言えない怖い話。メープル酒の技術を使ってクリスが魔法を行使すれば、ケントやギルバートより大きな魔法が使えたりする。
ちなみに。現国王ヘンリーの超級能力は、王家の遺伝。
クリスは……母君の胎内にいるとき、貴族特有の、気に入らない相手の流産を狙って魔法の波動をぶつける攻撃を受けていた状態で、母君が体調を整えるハーブ茶を摂取し、普通なら流産しているところ、しぶとく生きて生まれてきた結果。
なお、血中魔素を体外に排出できない視る者は、その分、性欲が強い。
視る者協会は昔から統計的にその傾向があることを認識していて、協会内において、その手の話題を明るくオープンにするよう仕向けている。国の最高権威である視る者協会の関係者から、性犯罪者を出さないようにするために。協会が推奨するのは、恋人や妻との幸せ経験。すなわち、女性を喜ばせることに重点をおくこと。それによって犯罪者を出さず、家庭と協会の平和を保った。
ぶっちゃけ、クリスが性犯罪に走らなかったのは、盛大に褒めてあげてほしいくらいの大変なこと。もっとも本人的には、出自に対する劣等感から、そういう行為に忌避感があったので、性犯罪なんてとんでもないって感覚だった。意中の相手から熱烈アプローチを受けていた際の彼の苦労は…察してあげてください。
8.未来のこと
【マリーは視る者と認定される】
魔力のオーラを消したマリーは、視る者として認定される。
詳細認定試験は、クリスに誤魔化し方を聞き、実際より低く認定された。当然、特殊な視る力は公には隠された。
【マリーの後遺症】(*)
視る者として新たな人生を得たマリーだが、父の非道な行いを自身の罪と思うトラウマは根深いものだった。
ケントと結婚し、王都で暮らすマリーは、ケントとの結婚を後押ししてくれた医師サイラス・ウェリントンの助手として病院勤務を始める。
本来ならケントは男爵に叙爵されていて、貴族生活を送るべきところだったが、ケント本人がそれを拒否。平民(といっても上流)生活を送っていたので、妻の労働が叶ったのである。
サイラスの助手として人を救う生活を送ることで、マリー自身も癒される。ついでに、それまで人を助けても自身は奈落の底に居続けていたサイラスも、癒されるマリーと一緒に浮上する。
マリーは、孤児院の手伝いボランティアなども積極的に行った。
贅沢やパーティーなどといった貴族の享楽はせずに、民のために働く姿勢を見せる。
それは、『大魔法使いケント・ブラウン』が人々から敵認定されないために、大いに役立った。
【マリーとケントの子ども】
マリーは結局、体質的に自然妊娠できなかった。
魔法医アーサーによる人口受精で一子を授かる。このとき、魔法石がらみの体質はすべて除去。代々高ランク魔法使いが生まれ、出生率に問題のあった王家の二の舞は避けられた。通常遺伝子の子どもを授ったのだった。
【メープル公国の変化】(*)
作品世界後。
王太子ギルバートの活躍によって、メープル公国大公は位を息子にゆずり、ギルバートの配下に下る。
大公の代替わりと同時に、メープル公国でも魔法使い、只人が生まれることが公表された。空気中の魔素濃度により魔法使い、視る者、只人の生まれる率が決まることや、公国のあるサヴァランス山脈が人の住むのに適さない地であることも。
新大公は、サヴァランス山脈を下りることを決断した。住民を二手に分け、サヴァランス山脈の峠道のはじまる西側と東側、両方に新たに街を興した。これにより、メープル公国に生まれる視る者と魔法使いの人数は減っていくことになる。
もちろん、魔法使いの赤子も生存を認められた。西側の町で魔法使いが生まれた場合、家族そろって東側の町に来ることになった。その際、魔法使いのいない家族が東側に移る。
西と東に別れてもどちらもメープル公国。新大公は、住民たちが頻繁に行き来しあうことで、ひとつの国として機能するよう図った。
息子に位を譲ったメープル公国元大公は、これまでのメープル公国の誤った歴史の責任を取って自死した。(表向き)
さて。サヴァランス山脈地下の裏公国は。
さすがに公表できるものではなく、また、数人の裏公国魔法使いをこっそり表の世界に連れ出してみたものの、魔法で衣食住が自動化された環境にいた彼らは、表の世界に適応できなかった。自らの手で掃除しないと汚い部屋やトイレ、薪を使って沸かす労力大な風呂(しかもめったに入れない)。馬車に轢かれてケガしたり、火の不始末で火事が起きたりと、表の世界は地下公国にない危険もいっぱい。文字や通貨という未知の考え方、貧富の差があり落ちれば生存が保証されないこと…。
表の世界を知った裏公国魔法使いは、山脈地下に戻ったあと、皆で話し合い、山脈地下に留まることを決めた。
魔素拡散の仕事もなくなり、完全に裏の負の遺産、ただ飯食らいの集団と化したわけだが、非人道的な扱いを受けた被害者ということで、彼らは地下の魔法自動化された世界に引きこもったのであった。
危険で不浄な表の世界は恐ろしい、と。
【魔法道具の父、大魔法使いケント・ブラウン】(*)
魔法使いダグラスが裏で蓄積していた魔法知識。メープル公国の数千年の魔法知識。
時代を一足飛びに進める彼らの知識は、ケントを通して少しずつ、世界に広められた。
それ以外にケントが尽力したのは、只人でも使える魔法道具の普及だった。
表の世界から姿を消し、ギルバートの影となったメープル公国元大公や、ケントの義父となった薬屋ダグラスの知恵を借り、魔素を液体に込め、魔法道具を動かす仕組みを開発する。魔素を含んだ液体はさまざまな容器に詰められ、魔素電池とよばれるようになる。メープル酒の技術の発展形ではあるが、楓の木の樹液頼みではなく、サヴァランス山脈に降り注ぐ魔素を直接液体に取り込めることから、かつてない大量生産が可能になった。
かくして世界に魔法道具が広まった。
魔素電池と魔法解析装置を使って、只人でも魔法道具を開発できるようになった。
数多の人々の発想をもとに多種類の、大量の魔法道具が世界に供給され、人々の生活は飛躍的に向上した。魔法道具の普及に合わせて法も整備され、犯罪利用には罰則がついた。
魔法道具を持つことで魔法使いへの畏怖は薄れたし、魔法が万能でないことへの理解も進んだ。
魔法道具が席巻して、魔法使いは特別な存在ではなくなった。
いつしか『ケント自身が強大な魔法使い』であることは人々の意識から抜け落ちていった。
ケントの名は、魔法道具の父、世界を変えた一人として後世に伝わっていくことになる。
また、視る能力のない人々に魔法を視せる魔法視覚化ロジックは、視る目を持たない盲目の魔法使いカールが開発した。カールはケントと同時に叙爵されていて、ケントの補佐役もこなした。
視る者の詳細認定を都だけでなく全国展開する改革では、辺境小麦農家出身の視る能力者ジャックが活躍した。ジャックは超級能力者ではないが、魔力のオーラ判別においては超級レベル、周囲から愛され属性の彼は、視る者協会の上に登っていった。彼の嫁が年上で、元監査局受付嬢で、数年ほど彼女の移り気な失恋の愚痴を聞き続けたのちに口説きおとし、愛妻家になったことはわりと有名な話である。口説き文句は「もうオレにしとけよ」。




