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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
第二章 小麦農家の村
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7 ケント×クリス1回戦(1/3) #ケント

 またまた時間を遡る。


 マリーがジャックやアンナ、村人たちとスワンの悪事を暴く準備をしていたころ。

 ケントは村外れの納屋にいた。

 ほかに、もう一人。栗色の髪の青年が立っていた。名をクリストファー・アンダーソン、通称クリスという。

 ケントより四歳年上の二十二歳。


「正直、二日前に片付いているはずの案件がまだ終わっていないと聞かされて、だいぶ心中おだやかじゃないんですが」


 クリスはおだやかな声音に怒りを乗せて言った。


 忙しい彼を王都から呼び出したことも、怒りの一因だろう。会って話す必要があるときは、ケントが瞬間移動して王都に帰るのが常だった。

 しかし今は、マリーとの拘束の魔法を無視して王都には飛べないし、村人たちの目を考えると、うかつな行動もできない。

 どうしても協力者が必要だった。そんなわけで、クリスに来てもらったのだが。


「それに、あなたも分かっていると思っていたのですが。ロストの事故調査であなたが抜けた分の案件を振り分けしたり、事故調査資料を上申用に手直ししたり…」

「分かってる! 呼び立てて悪かった! 反省してる!」


 クリスがいかに忙しいかを語りだすので、ケントは謝った。

 至らない点があって反省したら、きちんと言葉で謝罪すること。クリスがケントに対してゆずらない点である。


「では、話を聞きましょう」


 クリスがやっとその言葉を口にしてくれたので、ケントはホッとした。


「実は行き倒れ女性を拾ったんだ」


 ケントはそう口火を切った。

 驚くかと思ったが、意外にも彼は反応を示さなかった。


「それで、ちょっとここまで時間がかかってさ。彼女、流浪の民なんだけど、今は一人だから。もう少し元気になるまで一緒にいたいと思ってる」


 ケントは用意しておいた言い訳を言いきった。


 下手にしゃべるとボロがでるので、端的に要約する作戦だった。

 マリーの正体をクリスに隠すつもりだった。

 彼は魔女マリーを見つけ出し、違法放浪者である現状を正し、反逆者ダグラスに対抗する切り札として、味方に引き入れたいと思っているから。


 と、いうのも。

 クリスは、真偽の見極めも難しい、ほとんどがガセネタの膨大な魔女マリーの噂を検証し、彼女とは話し合いができる、話し合いの余地ありと判断していた。

 世間の大多数が、魔女マリーは残忍で、関われば身を滅ぼすと信じているのに。


 クリスの考えはさておき。

 ケントにとって、今回の拘束の魔法は、行き当たりばったりで始めたことで、マリーの自由を奪おうなんて思惑もなく。ケント個人の魔女マリーへの挑戦。なるべくその範囲で終わらせたかった。

 そうすることが、独りを望み、独りを謳歌する魔女マリーに不本意な拘束を仕掛けたケントの、最大限の誠意だと思っていた。


「えと…次の話に行っても?」


 クリスが無反応なので、ケントは言った。


「ああ、待ってください。一応その()()、見せてもらえます?」


 そこでケントは気付いた。

 クリスは、ケントが人間の女の子を拾ったとは思っていないと。いや、生き物だとすら思っていないだろう。

 気持ちは分かる。


(独りがいいと言い続けてきた俺が女の子を拾うとか思わないよな。ましてや星の話をしようなんて口説くようなマネしたとか、言っても信じない。…絶対言わないけど)


「じゃあ、まあ…」


 ケントは話を進めることにした。

 どのみち()()を見せ、この村の現状を伝え、彼の助力を請わねばならないのだ。


 原石から切り出してカットしただけの、こぶし大の紫色の石を、ケントは取り出した。

 フローライトと呼ばれる宝石で、魔法石だった。魔法石は装身具に加工されることが多いが、ケントはそのままが好きだった。


 魔法の呪文を唱えると、フローライトはケントとマリーも泊まった宿の食堂を映した。

 村内ただ一軒の宿屋兼食堂で、村の小麦農家青年団の拠点でもある。


 そこで、十代の女性が二人、なにやら真剣に話し合っていた。

 いや、セリフの練習をしていた。黒髪の少女・マリーがセリフをしゃべり、赤毛の女性が指導する形で。スワンをだます演技のために、マリーのおばさん言葉にNGが出たということらしかった。

 マリーが一生懸命に娘らしいセリフをしゃべっていた。

 クリスの表情がようやく動いた。


「まさかさっきの話、なにかの比喩とかじゃなくて、そのままの意味だとか言います?」


 ケントはコクコクとうなずいた。

 それから、マリーたちの声を邪魔に感じて、音声を消した。フローライトは映像だけを流し続ける。


「流浪の民と言いましたっけ? 左側の黒髪の女性ですよね?」

「そう。マリーって言うんだ」

「確かに人道的観点から保護の必要性は認めます」

「う、うん」


 ケントが行き倒れ寸前の彼女の状態に気付き、彼女の回復を目的としたふたり旅を考えたのは、拘束の魔法をかけた後のことだったけれど。

 それでも、宿の夕食を幸せそうに食べる彼女を見たときは、良いことをしたとケントも嬉しい気持ちになった。


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