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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
付章 秘密裏の会合
144/151

8 創世記の真実 #ギルバート

本日、9話更新しました。

物語は来週完結致します。よろしくお願い致します。

 世界の真実を見誤ったメープル公国が、見誤った情報を元にパパラチア王国滅亡をもくろんでいる。

 あんまりな結論が出たところで、会話が止まった。

 小さくとも他国。そして秘密裏に、高度に進んだ魔法学と大人数の魔法使いを抱える国。


「大公殿と直接顔を合わせて、ダグラス殿の説をお伝えできたら一番いいのですが」


 沈黙を破ったのはクリスだった。


「どうやって? メープル公国は昔から、視る者の国として、魔法使いを抱えるうちを下に見ている。大抵のことじゃ動かないぞ」

「こちらの要求に応じて話し合いのテーブルにつかざるを得ないと、あちらが思うようなプレッシャーをかけられたら理想的ですね。もっとも、ダグラス殿が落ちて王家が残り、仕掛けていた火山噴火も失敗に終わった今、案外すんなりと応じてくれるかもしれませんが」

「慎重になっていると思いますよ」


 そう言ったのはアーサーだ。


「私は西の国々も、メープル公国も訪れ、大公の情報も集めてきましたが──なかなか厄介な古狸ですね、あれは。西の国々の権力闘争、影で操っているのは大公だと思われる件がちらほらと。古来より、裏から世界を操り、実質世界を牛耳ってきた。それがメープル公国です」

「おそらく、我が国と交渉する意思はないでしょう。元警察組の反乱に乗じて、我が国を壊滅させるための攻撃をくりだしてくると考えます」


 アーサーに続き、ダグラスも言った。

 西側の国々の話が出たところで、ギルバートはふと思いついた。


「なあ、大公は、今回は西側は残そうとしてるよな。だから、うちの滅亡に、もっともらしい理由がいる。公国がやったと、西側の連中に悟られるわけにはいなかいから」


「でしょうな」と、ダグラス。


「ってことは、元警察組に反乱をあきらめさせたら、公国は次の一手につまるんじゃないのか?」


 ギルバートは言った。

 そう。何も馬鹿正直に、正面から公国とぶつかる必要はない。国内紛争の種をすべて摘むことで、公国を話し合いの場に引きずり出せばいい。

 ふむ、とダグラスが唸った。


「そうですな。元警察組が反乱を起こすまでに、時間的猶予はあるでしょう。元警察組を取りまとめている者は、自分で裏を取ってから動く慎重派なのです。それこそ、庇護者である公国を不審に感じれば、公国の言いなりには動きません。私の語る覇権に疑問をもって、私に成り代わろうとした男ですから。まっすぐで正義感が強く、骨のある男ですよ」


 簡単ではないが、可能性はある。

 ダグラスの追認を得て、ギルバートの心は決まった。


「それは心強い情報だ。では僕らも、打てるだけの手は打つ! まずはケント!」


 話についてこれていなかったのか、ぼんやりしていたケントを、ギルバートは大声で呼んだ。


「俺!?」


 ケントは面白いくらいに、わたわたと慌てた。


「おまえは、今回の働きの褒賞として、特別に新婚旅行に行かせてやる」

「は!?」

「ダグラスの残党は三種類。王家と和解した者、元警察組、あとは和解を拒否してバラバラに散っていった者。最後の奴らが散っていった地で好き勝手に暴れ始めてると苦情が寄せられてるんだ」

「待て。マリーを巻きこんで残党狩りをしろと? 新婚旅行どころか休暇ですらねえよな!?」


 相変わらずケントは仕事をしたがらない。


「となりに新妻がいたら、新婚旅行だろ? それに、マリーちゃんは魔法事件を引き寄せるタチみたいだから、効率よく残党狩りできる」

「完全にそっちが目的だろ!」

「可及的速やかにするためだ」

「速やかにって、残党狩りなんて急ぐ必要…」

「なにを言う。元警察組が今欲してるのはなんだ?」

「なにって」

「ともに王家を打つ仲間だろう」

「あ」


 そこで、ケントも真顔になった。

 バラバラに散っていった無所属の者たちを追うことで、元警察組を釣れる。


「いや、でも」と食い下がってくるケントを無視し、ギルバートはダグラスを見た。


「ダグラス殿は、王家の資料の読み込みを頼む。場所は王都で、ええと…そうだな…」

「行方不明になっていた娘さんと再会し、娘さんの結婚に合わせて王都暮らしを始めることにした…というのはいかがですか? 職業は薬師。ただし、王都は利権絡みで薬屋の新規参入が難しいので、しばらく検討期間を置く。その後どうされるかはお任せします。教鞭を執っていただけるのであれば、調整します」


 ギルバートが止まったところで、クリスが後を引き継ぎ、ダグラスの新しい生活を提案した。


「マリーさんの方も、ならず者に攫われたものの、なんとか自力で犯人の元から逃れ、流民に扮した。行き倒れそうになっていたところをケントに拾われた──とすると、辻褄が合うかと」

「あ、ああ…」


 すらすらと偽りの過去を捏造するクリスに、ダグラスが、感心とも呆れともつかない相槌を打った。


「新しい戸籍と住居、資金をご用意させていただきます。ただ、王家資料の保管は秘密厳守で願います」

「それなら、この空間につながる隠し扉を、新しい住居につくれば問題ないかと。この場を生かせば、殿下との連絡も取りやすくなりましょう」


 機密資料の管理に言及したクリスに、アーサーが次元の違いすぎる解決方法をさくっと提示した。

 …こんな怪物と戦っていたのかと、ギルバートは改めて背筋が凍る思いだった。

 ケントも同じように怖がっているだろうと思って目を向ければ、彼は考え事をしていた。


「どうした、ケント」

「…ダグラスの住居と資金なんだが」


 ギルバートが話をふると、おもむろにケントが口を開いた。


「俺に用意させて欲しい。それが自然っていうか、疑われる余地が減る…と思うんだ」


 ケントがめずらしく、魔法以外で頭を使って、まともな案を出した。


(いや、違う。成長して、考えられるようになったんだ。それに、ダグラスとマリーちゃんのこれからの人生に、責任を持った)


 ギルバートは、友の成長を嬉しく思うのと同時に、少し寂しく思った。


「ケント。よく考えましたね」


 クリスが、ケントの申し出を評価した。が、そのクリスの声にも寂しさがにじんでいた。

 そして。

 その場にいる全員から新しい人生の提案を受けたダグラスは。


「お心遣い、痛み入ります…」


 恐縮した様子で、ゆるゆると頭を下げた。

 良かった。対応を間違わず、救国の英雄の大恩に酬いることができたと、ギルバートはホッと胸をなで下ろした。

 一呼吸置いてから、ギルバートはアーサーに顔を向けた。


「アーサー殿は、眠らされていた人たちの治療に加わってくれ」

「よろしいのですか? その…諜報活動を私に期待されていたのでは?」


 アーサーは驚いた顔をしていた。


「それなら、僕だって独自網を持っているし、治療に加わるなら早い方がいいだろう」


 ギルバートは、寛大な主君の顔を作って言った。

 彼を、アーサー・ケインズのまま治療に参画させるなら、タイミングは今しかない。後になればなるほど、ダグラス陣営崩壊後の空白時間の説明が難しくなる。


「ありがとうございます、殿下」


 このとき、初めてアーサーはまっすぐにギルバート見て、それから頭を下げた。

 貴重な諜報部員のロスにはなるが、少しでも自分の株が上がったのなら、痛手をのみこんだ価値はある──ギルバートはやせ我慢をしてそう思った。


「クリス。おまえは身動き取れないよな」


 最後に、ギルバートは隣に座るクリスに言った。


「申し訳ありません。一ヶ月以内にカタをつけます」


 クリスは今、彼自身の問題で正念場だ(*1)。


「いや、気にするな。元警察組程度の戦力で国を滅亡させたと言い張るだけの細工を、一朝一夕で作れるとは思えない。時間はある」


 そこまで言ったところで、ギルバートはもうひとつ、話すべき事柄があったことを思い出した。


「そうだ。パパラチア王国の創世記に王都の護りを施した魔法使いだが、初代国王だった」


 え、とその場にいた全員が目を丸くした。


「もともとはメープル公国の地下で、魔法石の能力を持つ人間が生み出され、生涯眠らされたまま魔法石として利用されていたらしいんだ。だが、三百年前、我が子の石扱いを拒否した魔女が子連れで公国を出奔。その子は魔力のオーラを消して視る者と偽り、混乱期のこの国をまとめあげ、公国と裏取引をして、魔法使いと共存する国を認めさせた。パパラチアサファイア(*2)の、橙色の魔力のオーラを持っていたそうだ」


 公国においては、このときを境に魔法石の能力を持った人間を生み出すのをやめ、代わりに人造魔法石をつくるようになった。


「それで、持ってきた資料にもあるが、その初代が原因で、王家には代々高ランク魔法使いが生まれてたんだ。ただ、王家はもう、父上が視る能力者だし、僕もAランクを割ってるから、このあとは普通になっていくと思うが…」

「殿下──Aランクを割ってるって、ご存じだったのですか」


 クリスが心底驚いたようで、声を上げた。


「知ってたさ。本当はBランクだって。出産時の医師がAランクって叫んで、それが知れ渡ってしまったから、低く訂正するのをやめたんだろ」

「そうだったのか。俺とあまり変わらないように見えるけど」


 そう言ったのはケントだ。


「殿下の場合は、ほぼ境界線なので。視る人によって意見が割れますよ」

 とは、クリス。


 でもクリスが基準を定めたランク判定でB判定を食らったのだから、それはフォローになるのかと、ギルバートは内心思う。

 それに。


「ふーん」と噂話に興じるような顔をしているケントにも地味にムカついた。


「ケント。人ごとじゃないぞ」

「え?」

「おまえとマリーちゃんに子どもができたら、しばらく王家と同じ状態が続くんだよ」


 ケントが想像もしていない未来予想図を、ギルバートは突きつけてやった。

 しかし。


「子ども…いや、まだそういうの、気が早いっていうか、ええと…」


 ケントは顔を赤くして狼狽えた。

 ダイレクトにハッキリ言ってやったにも関わらず、想像ですら子どもを考えるところまで、たどりつけないらしい。


(こいつ…できる自信がなくて、そこで思考が止まってんな)


「ほら、これをやる。だから、子作りは計画的に、な?」


 ギルバートは強引に話を進めた。

 成功する瞬間まで自信が持てないタイプに、自信がつくまで待つ選択をしたら阿保だ。


「いや、だから、今そういうの言われても!」


 もちろん、まだ自信のないケントは、目一杯抵抗した。



(*1)クリスの正念場は、「伯爵令嬢ヘンリエッタと三番目の求婚者」のスペシャルエンディングの部分になります。


(*2)パパラチアサファイア…ピンクと橙の中間色のサファイア。数が少なく、幻の宝石といわれている。




*捕捉 メープル公国との戦いは、ギルバートがメープル公国の女の子と仲良くなることで解決しました。


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