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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
付章 秘密裏の会合
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5 interval #クリス

「まだ先は長そうだ。夕食を作ろう」


 ギルバートが王城に戻ったあと、アーサーが言った。

 クリスはそこでハッとした。


「ケント、あなたは上で食事を。作業の合間に夕食を取った痕跡を残してきて下さい」


 クリスとギルバートは外出の体裁で時間を作ったが、ケントは部屋にこもって作業中の身だった。


「分かった」


 ケントはうなずくと、会合場所である地下室から、上に建つダグラス邸へと瞬間移動した。


  *


 アーサーが台所に立ち、ダグラスと二人になったところで、クリスは気になっていたことを聞いてみることにした。


「ところで、このテーブルの下に魔法の扉が視えるのですが」

「おまえさんの目は怖いな」

 と、ダグラスは笑った。


 普通なら気づかないはずの隠し扉すら、見破ってしまうのかと。


「下は資料室で、さっきケントにも見せたが──まあ、来なさい」


 ダグラスが合言葉を言うと、スッとテーブルが移動し、床に穴が開き、さらに地下へと降りる階段が現れた。

 さっさと降りていくダグラスを、クリスは追った。

 降りた先は、資料室というだけあって、たくさんの書架と、資料が並んでいた。


「アーサーの調査資料や、検証資料、上の図書室には置けない魔法技術資料だ」

「たったお二人でこれだけの資料を…」


 ずっと強大な敵だと思い、なんとか負けないよう食らいついてきた相手に、国も、王家も守られていた。


──ダグラス殿とアーサー殿こそ、救国の英雄ではないか………。


 そう事実を認識したクリスは、胸がつかまれる思いだった。


  *


「クリス殿」


 資料室を出て、再び席についたあと、ダグラスが口を開いた。


「火山噴火のとき、早急な救援で我が配下の者たちを救ってくれたこと、感謝する。トリスタン(ダグラス陣営ナンバー2)に脱出誘導を指示はしたが、なにせ、皆、翌日の決戦に向けて休んでいた真夜中だった。監査局の助けがなければ犠牲者ゼロはなし得なかっただろう」

「いえ、礼を言うのはこちらの方です。トリスタン殿に王家へ下れと言ってくださったおかげで、スムーズに連携できました。それも、あなたは破滅を望んでいただけだと、悪役になってくださって」


 ダグラスの謝辞に、クリスも謝辞を返した。


「嘆願書も拝見しましたが………ダグラス殿お一人が悪かったことになってしまって」


 すべては世界を滅ぼそうとした自分一人の悪事だから、配下の者たちの罪は問わないで欲しい。嘆願書にはそんな内容が書かれていた。


「そのくらい、安い代償だよ。マリーに明るい未来をやれるのなら。ところで。おまえさん、早い段階でわしの目的に気付いておったのではないかね?」

「ええ、まあ。炎の魔法使いを下してマリーさんが倒れたときにケントから彼女の話を聞きまして。そこから予想できましたので」

「ケントはギリギリまで知らなかったようだが、予想結果をケントに話さなかったのは、なぜだ?」

「私が教えたのでは駄目だと思ったからです。ケントがしっかり覚悟を決めて、また、マリーさんの方にも、ケントとの未来を受け入れてもらいたかったんです」

「マリーは…わしの罪を背負って、死ぬことを決意しておったんだな……ずっと体のデータを取り、あれのことはすべて分かっているつもりだったが、肝心のことに気付けていなかった……」


 そこでダグラスは力なく言った。


「今回の戦。わしはきみに敗けた。わしは…待てなかった」


 王家に全面戦争を仕掛け、ケントを罠にかけようとした。


「きみは…よく待てたな」


 クリスはケントに真実を伝えず、二人がみずから手を取り合うのを待った。

 ダグラスにしみじみと感心されて、クリスは思わず涙ぐみそうになった。


 実際、本当に辛かった。

 自分自身が無理難題をふっかけられる方がよっぽど楽だと思った。

 他人が動くのを、ただ待つだけ。

 それが、こんなにも忍耐を要することだとは。


「ありがとう…ございます」


 クリスは、そっとこめかみを押さえて言った。


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