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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
付章 秘密裏の会合
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4 パパラチア王国の嘘 #クリス

「おそらく先王陛下までの歴代の国王陛下は、正史の影でメープル公国と渡り合い、国の安寧を守っていたはずです。火山噴火抑制魔法陣を知った日、私は先王陛下のお気持ちが少し分かった気がしました。これほどの魔法技術を持つ相手と戦うプレッシャー、さらにはご自身の持病と幼い王子、毒のような臣下………神経を擦り減らすばかりの日々の中で見た、魔法学の才能を持つAランク魔法使い──いつか叛意を持ったときに王家の嘘を暴きかねない存在──は、さぞ危険人物に映ったことだろうと」


 ダグラスは、メープル公国の脅威を語り、先王が彼に仕掛けた冤罪に理解を示した。


 クリスの隣で、ギルバートがギリッと歯を食いしばった。納得できないときの彼の癖だ。


「それは…ちがう、と思う」


 ギルバートが声を上げた。

 その発言に、みんなの視線が彼に向く。

 ギルバートは、まっすぐにダグラスを見て言った。


「祖父は、アンダーソン伯爵(*1)に期待していた。アンダーソン伯爵は、ダグラス殿と親交があった。祖父は、祖父が抱えていたものを、アンダーソン伯爵とダグラス殿に託せば良かったんだ」


 実際、ダグラスはパパラチア王国の滅亡阻止に動いたのだから。

 ダグラスは、一瞬目を丸くしたあと、「そう…かもしれませんな」と、寂しそうに微笑んだ。

 それから、ほんの少し瞑目した後、表情を引き締めた。


「畏れながら申し上げます。殿下と、クリス殿と、ケントと。お三方が真の絆を築けたことは、誠に得難き奇跡。そのことを、お忘れになってはいけません」


 三人の絆は、当然のものではないのだと。

 先王と、アンダーソン伯爵と、ダグラスとでは、築き得なかったものなのだと。

 言われたギルバートは、ハッと息を呑んだ。


「…助言、感謝する」


 短く反省の弁を述べたギルバートに、ダグラスは慈愛のこもった笑みを浮かべた。お茶を一口飲み、場を仕切り直すように、ギルバート、クリス、ケント、アーサーと視線を一周させた。


「話は少しそれますが、マリーを誕生させた魔法は、都の資料室で偶然見つけた落書きでした。棚の奥に埋もれていた本で、本も落書きも相当古いものでした。当時は意味も分からず書き写し、都を落ちたあと、じっくり読み解いて、これは禁術だと理解しました」


 ダグラスは声に憂いをにじませた。

 人に魔法石の能力を持たせる禁術。

 使ってはならない魔法だと、一度は判断したもの。


「ちょっと待ってくれ。マリーちゃんの誕生に…禁術?」


 一人事情を知らないギルバートがそう声をあげて、ダグラスが「おや」とつぶやいた。

 ケントとクリスに笑みを向ける。秘密を守ってくれていたんだな、と。


「はい、殿下。マリーは…私が、子を望む妻のために禁術を使って誕生させた娘で、強大な魔法媒介能力をもっております」


 ダグラスがギルバートに向き直り、説明すると、ギルバートの顔が引きつった。


「魔女マリーの、魔法石をもたずに魔法を実現させるって話は…まさか」

「あれ自身が魔法石なのです。禁術を使うからには、覚悟を決めて、私が守っていく所存でしたが、アーサーの協力を得て誕生した娘を見たときは…目の前が真っ暗になりました。まさか、ムーンストーンの青白い魔法石の輝きをもって生まれるとは思いもしなかったので」

「待て! 待て待て待て! いや、もう遅いけど、僕が聞いていい話じゃない! おまえらが言ったんだろう、高度な魔法技術をもった集団にこの国が狙われてるって!」


 ギルバートが叫ぶ。


「そうですな。この国の一大事に、マリーの能力が国民に知られて、国民の総意でマリーの能力を使うべしとなったときに、殿下は私情で使わないとは言えないでしょう。だからこそ私は…私がこの国の未来を考えるときは、みずから王となり、マリーの安全を担保したときだと、そう思っておりました。ですが」


 そこで一度言葉を切って、ダグラスはケントを見た。


「そこの男が、マリーをただの娘にしてくれました。マリーの秘密がバレる心配はもうないでしょう。万が一バレて最悪の事態になったとしても──やはり、そこの男が回避するでしょう」


 ケントを褒めちぎったあと、「さて」と、ダグラスは脱線先から話を戻した。


「全面戦争前に私が壊した王都の護り(*2)。建国以来、もともと自然に存在したものだと教えられてきましたが、あれも、魔法使いによる魔法です。マリーと同等の魔力・魔法媒介能力をもって初めて実現可能となる。ここまで言えば、お分りいただけますな?」


 過去にも、少なくとも、一人は魔法石の能力を持つ人間が存在した。


「殿下。王が受け継ぐものの中に、今の我らに必要な、奴らの情報があるはずです。それを壊さぬために、都を戦場から外したのです。なにかお心あたりは?」


 マリーの秘密まで明かし、そう切り込んだダグラス。


「ある。王の寝室だ。王しか入れないんだ。父上はそこを嫌って使わないから、ほとんど封印された部屋になっている」


 ギルバートは正直に答えた。

 時間を確認し、今なら父王がまだ起きているから鍵を借りられるだろうと、王城に戻った。



(*1)アンダーソン伯爵…治政能力を持たない現王の代わりに国政を担ってきた人。魔法使いの王子ギルバートが生きる道を拓いた人で、ギルバートにとっては恩師。逆に、魔法使いの王子が国民から拒絶されるとは考えもせずに、『息子が生まれた。魔法使いだった』と呑気に公表した父王には反抗的なギルバート。


(*2)王都の護り…王都は特別な土地で、特殊な鉱石を持たない魔法使いの命を奪い、外からの魔法攻撃を無力化する。


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