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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
付章 秘密裏の会合
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2 ダグラスの真の敵 #ケント

「この国の滅亡をもくろむ魔法使い集団がおります。それも、我々よりはるかに進んだ魔法学をもった」


 ダグラスの投じた爆弾発言に、ケント、クリス、ギルバートは息を呑んだ。


「バカな…! 王家は国内のすべての魔法使いを把握している! ダグラス殿以上の魔法学などあるはずがない!」


 真っ先に自分を立てなおし、反論したのはギルバートだった。


「国外の話ですよ。まあ、推論は後回しにして。これを見てくだされ」


 ダグラスは手をあげ、ほんの少し手先を迷わせたあと、隣に座るアーサーの肩をポンとたたいた。

 アーサーが、壁際に無造作に積み上げられた資料の中から一枚の紙を魔法で取り出し、テーブルに乗せた。

 それは、現実の風景を魔法で紙に写したものだった。魔法写真と呼ばれる。

 魔法写真で写された景色は、黒い石で組まれた魔法陣と、煮えたぎるマグマだった。


「火山噴火を抑えるための魔法陣です。奴らは、これで噴火を抑えてマグマを増やし、通常では起こりえない、国が滅ぶほどの大噴火を狙ったのです」


 ダグラスの説明も空恐ろしかったが、ケントにはその魔法写真も恐ろしかった。

 それが、ダグラスの上をいく、今のこの国にはあり得ない魔法技術だと分かるからだ。


「私が気づいたのは八年前です。恐ろしく思いましたし、どうするべきか悩みました。マリーのことがありましたから。そこでひとまず、噴火予測を立て、情報を集めました。あらかた必要な情報分析ができた三年前、火山噴火の予兆もあり、クーデターを決意しました。が、マリーを預けていたイリス一座の反対に遭い、肝心のマリーの行方を見失ったのです。仕方なく、奴らの黒い石を模倣して製造したコールライトで噴火抑制力を増やし、時間を稼ぎました。ですが、マリーの居場所が特定できぬまま一年が過ぎ、私は、王都襲撃(クーデター)を決行しました。そうすることで、マリーが自分から私のところへ来ることを狙ったのです」


 果たして、マリーはみずからダグラスの元へ来た。が、うまくはいかなかった。

 マリーは反逆者となったダグラスを断罪し、行き先を指定しない瞬間移動で逃げたのだ。

(後日、ケントが聞いたところ、一度マリーを確保したこのタイミングで、マリーの体調データ管理魔法に、視覚・聴覚・位置データを追加したらしい。)


「また、王都襲撃失敗で、クリス殿やケントの活躍を見た私は、考えを修正しました。これは、この国の魔法使いたちのレベルを最速で引き上げるよい機会だと」


 敵味方、二手に分かれて戦うことで、魔法技術も向上すれば、戦うことも上手くなる。

 噴火抑制長期化に伴う力不足は、人々を眠らせて精気を採取し、コールライトの力を増強することで補った。


「真の敵は、遥かに進んだ魔法学を持つ『奴ら』ですから」


 火山噴火の被害を防ぐだけでは、国を救えない。

 真剣な表情と声が、嘘やブラフではないと、重く訴えかけてきた。


「奴らは、私の噴火抑制介入に気付いております。噴火するはずのものがしないのですから、当然ですな。しかし、奴らは傍観した。なぜだと思います、殿下?」


 言葉の最後、少しだけ声のトーンを軽くしたダグラスは、ギルバートに問いを投げた。


「なぜだ? 教えてくれ」


 ギルバートは、素直に教えを乞うた。

 考えるよりも今は早く答えを知りたい。そんな気持ちだろう。

 ダグラスは、一度目を伏せてから、重々しく答えを告げた。


「殿下…ひいては王家の断絶が、奴らの一番の目的なのだと、私は考えます。だからこそ、王家を恨んで敵対する私をあえて泳がせた」


 ギルバートとクリスが、ぐっと唇を引きむすんだ。

 国のトップとして立つため、幼少期から重圧を背負い、ダグラスにも果敢に挑んだ二人だが、『ダグラスの遥か上をいく魔法使い集団』からの敵認定は、さすがに重い。


 ダグラスは無理もないと気遣う表情を見せたあと、口調を軽くして、言った。


「ときに、殿下。元警察組の行方はどうなっておりますかな?」


 ダグラス配下の魔法使いたちは、大半は王家に帰順したが、全員ではない。

 中でも元警察組は王家への恨みが根深く、和解を拒否して逃亡していた。


「行方はつかめていない。千人規模の集団が、煙のように消えて、それっきりだ」


 憮然とギルバートは答えた。


「そうですか。どうも彼らには私以外の支援者がいたようです。私の覇権成功後に、彼らに実権を奪わせる算段だったと思われます。今は、王家への再クーデターを画策していることでしょう」

「どうにもまわりくどい奴らだな」

「よくよく歴史の表舞台に立ちたくないようですね」

「メープル公国じゃないのか」


 少しずつ敵の情報を出してくれるものの、遠回しなダグラスに、ギルバートが切り込んだ。

 メープル公国は、パパラチア王国の西の国境を成す山脈の中腹にある峠の国で、人口五千人程の小国だった。しかしながら、国民すべてが視る能力者で、古来より、パパラチア王国から魔法使いが流出しないよう監視してきた国である。


「…その理由は?」


 おやと片眉を上げ、ダグラスは言った。


「大した理由はないが、交通の要所に国がある。それにメープル酒(*1)の技術」


 ギルバートの答えに、ダグラスは満足げにほほ笑んだ。


「我々の結論も一緒でしてね。殿下のあげた理由にもうひとつ、推論を追加すると、視る能力者しか存在しないのは統計学上ありえない、そう考えております」



(*1)メープル酒…視る者が服用することで、魔法を無効化できる。メープル公国でのみ製造可能な特産品。


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