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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
付章 秘密裏の会合
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1 秘密裏の会合 #ケント

裏事情の話です。

読み飛ばしてもストーリー上の問題はありません。

細かいところが気になる方、政治的駆け引きの話が好きな方はぜひどうぞ。

『アーサー医師から連絡が入りました。ダグラス殿の一命を取り留めたと。それで、国家安全にかかわる重要な話があるので、秘密裏に会合を持ちたいとのことです。メンバーは、ダグラス殿、アーサー医師、あなた、殿下、私。あなたには、中立の立場をお願いします』


 王家とダグラスの戦争を真に終わらせた裏会合は、クリスからケントに入った極秘の魔法通信から始まった。


 魔法通信後、クリスは、中身が分からないよう細工した魔法便で上級の魔法石を送ってきた。

 ダグラスの館で魔法書整理をしていたケントは、部屋にこもって作業をしているフリで、森の奥のダグラスの隠れ家へと瞬間移動で飛んだ。

 そこで再会したダグラスから指定された会合場所は、ダグラスの館の真下、どこともつながっていない、瞬間移動でのみ行ける地下室だった。




(ここの上で一生懸命、魔法書整理してたのに、本丸資料は地下だったとか、なにそれ……!)


 ケントの瞬間移動でダグラスとアーサーを運び移動した後、ケントはちょっとムクれた。

 正直に不満をもらせば、「おまえはまず上の基本書を全部読め」と言い返された。

 実際、ダグラスが配下の魔法使いたちに公開していた魔法書は、実践的で分かりやすい、画期的な教本だった。抒情詩的な表現重視でなじめなかった国の魔法学校の教本と比べたら、この価値は計り知れない。


「上の魔法書を読んでいて気付いたことがあるのではないか?」


 ダグラスにそう問われ、ケントは悔しい思いながら、うなずく。


「俺の魔法は不必要に複雑で、無駄が多すぎた」

「そうだな。シンプル・最低限の術式を構築することで、短時間で、より多くの魔法を、あるいは、回り道をしていては実現できなかった魔法も実現できるようになる」


 これまでケントは、どんな術式だろうと実現できれば良いと思ってやってきたが、それは、クリスが上級の魔法石を融通してくれたからこそ実現できたものだった。


 ケントが反省したとき、瞬間移動で王太子ギルバートとクリスが現れた。

 一瞬にして、空気が緊張感に包まれた。


「連絡、感謝する」


 間を置かずに、ギルバートが言った。


「こちらこそ、無理を聞いていただき、ありがとうございます」


 ダグラスが、それに答えた。

 それから。

 ダグラス、アーサー。

 ギルバート、クリス。

 短い挨拶をまじえながら、それぞれに握手を交わし、友好モードを確認したところで、緊張した空気は少しやわらいだ。


  *


 灰色の泥で壁を綺麗に塗り固めた地下室は、無駄に広い空間だった。地上に建つ館と同じ床面積があるらしい。キッチンなど生活に必要な設備と、応接用テーブルが、隅にまとめて置かれていた。


 ダグラスは、ふたり掛けソファに座ると、対面にある同タイプのソファをギルバートとクリスに勧めた。

 ケントは両者の間にある椅子に腰を下ろす。

 アーサーだけがすぐに座らず、お茶を出してくれた。


「すまないが、話に入る前に聞いてもらいたいことがある」


 全員が席についたタイミングで、ギルバートが言った。

 王太子らしい毅然さはあるものの、懺悔を行うような殊勝な態度だった。


「聞きましょう」


 ダグラスも真摯な表情を浮かべ、それに答えた。


「祖父があなたにしたこと──すまなかった。謝罪してすむとは思わないが、祖父があなたを苦しめたことを、僕は生涯背負っていく。それだけ、伝えたかった」


 そう言って、ギルバートは浅く頭を下げた。

 二十三年前。祖父・前国王が、無実のダグラス(当時二十九歳)に濡れ衣を着せて処刑しようとしたことへの謝罪。

 立場上、大袈裟に謝罪できないギルバートの、最大限の陳謝。

 それは、ダグラスに伝わったようだ。


「………承りました、殿下」


 そこから一息置いて、「では、始めさせていただきます」と、ダグラスが口火を切った。


「まず、一番大事なことを言いましょう。この国の滅亡をもくろむ魔法使い集団がおります。それも、我々よりはるかに進んだ魔法学をもった」


 ケント、ギルバート、クリス。三人一様に息を呑んだ。

 予想外の話題でもあったし、何より。それが真実ならば、急転直下の深刻な事態だ。


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