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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
第十章 ムーンストーンの娘
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9 魔法石であること #ケント

 火山噴火をおさめたものの、マグマに落ちていくダグラスとアーサーを救えなかったケント。

 そこにやってきた王太子ギルバートをかわすため、昔、父と過ごした家を経由して、ビジル市のサジッタ一座へと移動した。

 経由地をはさむのは、呪文から瞬間移動先を悟られないためだ。(もっとも、ケントの体には位置情報発信装置が入っているから、それを確認されたら居場所はバレるのだが、それでも時間は稼げる)


「ケント…今の」


 マリーが、ケントの腕の中で硬い声をあげた。

 突然視界を奪われ、二度の瞬間移動を体感したのだ。

 なにが起こったのかと、不安にもなるだろう。


「ごめん! 青白い魔力のオーラを可視にしてしまったんだ。きみの魔法石の能力を使うために。あやうくギルに、きみが魔女マリーだって、バレるところだった。もう一度、魔法をかけなおそう」

「待って。その前に教えて」


 マリーが、ケントの言葉をさえぎった。

 顔から血の気がひいている。


「今…あたしの魔法媒介能力を使って、瞬間移動したんだよね」

「ああ。瞬間移動には、さっき失くした石と同程度の能力がいるんだ。……すまない。瞬間移動なら、きみに負担はかからないと思って。突然で、不快だったかな」

「不快?」


 そこでマリーは、少し悩むような表情をした。


「とにかく、天幕の中へ。視る能力のある人間にみつかったら、魔女マリーがいると大騒ぎになる」


  *


 サジッタ一座の公演用の大天幕へと、ケントはマリーを誘導した。

 公演が中止されている今、もっとも人が来ないとアーサーが言っていた天幕だ。


「あたし……魔法石なんだね」


 ぽつりとこぼされた言葉に、ケントは自分を呪った。


「本当にごめん! もう二度ときみの力を使うような真似は…」

「それは、いいの。あんたにだったら。ただ……こういうことなんだって、分かったっていうか」

「こういうこと……?」

「瞬間移動。あたし、自分でもやってたでしょ。ずっと、このムーンストーンでしてると思いこんでたんだけど」


 袖の下に隠したムーンストーンを押さえながら、マリーは言った。


「ああ」


 小さなムーンストーン。防護の魔法がかかったそれは、他の魔法を媒介することはない。


「さっきの瞬間移動ね。いつも自分でするのと同じ感覚だった。それで、ようやく実感したの。あたしは、魔法石なんだって。……魔法使いの思いひとつで、あたしの身体は、魔法を媒介する。それが──すべてを焼き尽くすような魔法でも」


 彼女の意思とは関係なく、彼女の身体は、魔法使いに魔法石として利用されてしまう。

 そのことを思い知ったと。

 ケントが無神経にも、彼女に断りなく瞬間移動をしたせいで。


「その、とおりだ」


 自分を呪いながら、ケントはうなずいた。


「だけど、マリー。俺がきみを守──」

「こわいよね。……怖かったはずだよね、パパ」

「え?」

「あたしが魔女マリーとして、いろんな人とふれあってた間…あたしの青白いオーラを見て、いつか、だれかが気づくんじゃないかって……いてもたってもいられなかったと思う」

「!」


 その能力を知ったときの気持ちを、ケントは思い出した。

 もし、誰か気づいたら。

 そう簡単に気づけるものではないと分かっていても、恐れをぬぐえなかった。


「あたし、パパの気持ち、本当になんにも分かってなかった。でももう、ごめんなさいも言えないんだね…」

「マリー」


 細い肩が、嗚咽にふるえる。

 魔法石の能力をもってることをはっきりと実感して、怖くないはずがないのに。

 こんなときでさえ、彼女は他人(ひと)の痛みを先に考えるのか。


「パパの愛情に甘えて、ひどいこと言った……」


 マリーの頬をぬらす、透明な雫。それを隠すように、両手で顔をおおって。

 ケントはマリーに手を伸ばした。


──自分が泣かせたくせに。


 そう思いながら、今は抱きしめたかった。

 けれども。

 ケントの指先がマリーに届く前に。


「マリー! 無事だったんだね!」


 伊勢のいい声が二人の間に割って入った。


「姐さん!」


 マリーが、イライザをふりかえった。


「よく…戻ってきたね……!」


 イライザは駆けてくると、感極まった様子で、マリーをひっしと抱きしめた。


 それから、ケントに視線をむけて、

「ケント。この子を守ってくれて、ありがとう」

 と言った。


「いや…俺は」


 最後の最後に、一生残る恐怖をマリーにもたせてしまった。

 ダグラスとアーサーをみすみす死なせてしまった。

 ケントはイライザに謝ろうとしたが、イライザは手を振ってケントを制した。


「この子を、ここまで連れて帰ってきてくれた。それで充分だよ。ああ、そうだ。今からここにたくさんの人が来る。あんたたちは、あたしの天幕に移って」

「え?」

「第一陣が到着したら、少し時間をもらって説明しに行くから。さあ、早く」


 ケントとマリーはイライザに追い立てられ、イライザの天幕に移動した。


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