表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
第十章 ムーンストーンの娘
130/151

8 二人で生み出す #ケント

 その瞬間、時間が止まったように感じた。


「いいよ、ケント」


 ずっと愛用してきた魔法石フローライトを落としたタイミングでマリーが言った言葉の意味を理解して。

 理解したことを、否定したくて。


「ま…マリー」


 ぐるぐるとたくさんの思いが頭を回った。


 マリーは、魔法石の能力を持つことをアーサーから聞いたのだろう。

 ここまでマリーだけには教えたくないと思ってやってきたのに。

 自分の能力におびえたり、絶望したりしてはいないだろうか。

 魔法の痛みがマリーに返るというのに、使っていいとか気楽に言わないで欲しい。

 でも…。


「ほら、早く」


 マリーが急かした。

 まっすぐにケントを見る目は、信頼に満ちていて、迷いがなかった。


(地面に穴を開けるだけなら、痛みは発生しない)


 ケントも覚悟を決めた。


「マリー、愛してる」


 ギュッとマリーを抱きしめて、言った。


 山の頂を吹き飛ばしたマグマは、夜の闇をまっすぐに切り裂いて、赤く光る巨大な柱となって空高く伸びていく。

 四方に散っていかないよう、ダグラスがコントロールしているのだ。


 そばには、アーサーらしき魔法使いの影もあった。

 地面に大穴を開けてマグマを誘導するのは、アーサーの発案だった。

 ケントがダグラスの隠れ家からこの地に戻ってきたとき、火山噴火を教え、その打開策として教えてくれたのだ。

 ダグラスは、噴火を抑制した上で、噴火させずに収めようとしていて、実りがなかったのだという。

 事前に教えて欲しかったと思ったが、ケントとマリーが事の大きさに躊躇しないようあえて伏せたと言われたら、反論できなかった。


 巨大なマグマの火柱を横目に、ケントは呪文を唱えた。

 マリーに自分の魔力を注ぐ。

 ダグラスの力が負けはじめたのか、火柱が轟音を立てて揺らぐ。

 しかし、ケントの中に焦りは生まれなかった。

 マリーは、乾いた大地が水を吸収するみたいにケントの力を受け入れて、大きな魔法の力に変えてくれる。

 その親和性は、これまでの、マリーがケントの魔力を意識していないときとは比べ物にならなかった。

 身体と身体で対話してるんだと感じる。


 二人で生み出した力が、大量の土を空気に変え、ミルキー山脈のふもと、レイバン台地に巨大な深い穴をあけた。


(あ…調子に乗って大きくしすぎた)


 ダグラスとアーサーに、マリーの能力を使ったな、と怒られるかもしれない。


──ヴォォォォォ!


 真っ赤な火柱が咆哮をあげた。

 火の龍が、一度空に昇って身体をしならせ、そこから地上へと舵をとり、大穴へ流入していく。

 マグマはケントが作った大穴をあっという間に埋め尽くし、地上よりわずかに低いところで、渦を巻いて収まった。

 ケントは、赤い光の圧倒的な質量を呆然と眺め、それから。

 火山噴火と聞いて、ケントが想像した規模を、はるかに上回っていたことに気付いた。

 ゾッと、全身が冷えた。


(これだけの質量、いくらダグラスでも、コントロールできるはずが………)


「パパ!」


 ケントの腕の中で、悲痛な声があがった。

 見ると、空からまっさかさまに落ちていく魔法使いの黒い影があった。


(強力な人造魔法石(コールライト)を使って、限界以上の力を発揮したのか…!)


 ケントは、とっさに落下を止める呪文を唱えようとした。

 しかし。

 ダグラスが豆粒ほどの黒い影であるにもかかわらず、マリーによく似た黒髪の女性が、落ちていく彼を抱きしめる姿がはっきりと見えた。

 彼女はケントを見て、微笑んだ。


──あなたには充分、良くしてもらったわ。ありがとう。


 そんな声が聞こえた気がした。

 黒髪の女性に抱かれたまま落ちるダグラス。

 ダグラスを追って降下するアーサーらしき魔法使いの影。


「いやあああああっ」


 マリーの悲鳴。

 ケントの開けた大穴を埋めて渦を巻くマグマへと落ちていく、二人の魔法使い。

 そこへ。


「ケント、説明しろ。いい加減、僕も真実を知りたい」


 当然のように上から命じる声がふってきた。

 ギルバート・パパラチア。

 この国の王太子。


 ケントは、マリーの魔力を消す魔法を解いたことを思い出した。

 いまの彼女は、青白いランクAの魔力を身にまとう魔女マリーだ。

 茶色い外套で彼女を頭からかくすようにして、ケントは言った。


「説明はマリーを休ませてからにしてくれ」


 瞬間移動で、ケントは逃げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ