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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
第二章 小麦農家の村
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5 粉問屋の悪事を暴け! #マリー

「嫌いなんだよ、あたしは。魔法も、魔法の力で相手をねじ伏せようって考え方も」


 マリーが発した強い糾弾の言葉に、ジャックとアンナがだまりこんでしまった。


「ごめん、今のは言い過ぎたよ。話を戻そう。その、顔付きの恐ろしい男はなんて名乗った?」


 慌ててマリーはそう言い足した。


「ええと…そういえば、名前は名乗らなかったわね。監査局の方から来た、とだけ」


 アンナが答えた。アンナは、赤毛をふたつに振り分けておさげにした、そばかすのチャーミングな十七、八歳の少女だった。

 小麦農家の村の青年団で窓口業務などの支援をしているという。


「監査局の方…ね。それ、だまされてるよ」

「ええっ!?」

「ど、どういうこと?」


 マリーの指摘に、アンナとジャックが驚く。


「そいつが偽物だってこと。だいたい、自分の名前も名乗らず、有名人の名前だけ出して、一人で行くなんておかしいじゃないか」

小麦農家達(あたしたち)が魔法不正監査局を呼んだって知ったスワンが、本物を妨害して偽物をよこしたってこと…?」

「おそらくね。でも、心配しないで。あたしに案がある」


 案がある。その言葉に二人の顔つきが引き締まったのを確認し、マリーは先を続けた。


「スワンの悪事、自分たちの手で暴いてみないかい?」




  *  *  *




 その日の午後。

 スワン粉問屋に、やや細身の美少女がやってきた。

 襟にフリル飾りがついたブラウスは、この村の娘たちが着ないタイプの服だ。

 少女が引いてきたリヤカーには、小麦が三袋乗っていた。


「すみません、小麦買ってほしいんですけど」


 娘は店主のスワンに愛想よく言った。


「見かけない顔だな。うちの小麦の買い取りは終わったんだが、あんたは…?」

「マリーと言います。小麦農家のジャックの親戚と言えば分かるかしら? 本人にはまだ会えてないんですが、ほら、彼しばらく物入りだし、納屋に残ってた小麦をお金に変えておいた方がいいと思って」


 娘の話を聞いて、スワンはニヤリとほくそ笑んだ。




  *  *  *




「待たせたな。では小麦を確認させてもらう」


 用があると一度退室したスワンが戻ってきて言ったとき、マリーは魔法の波動を感知した。


(かかった……!)


 スワンは大ぶりな仕草で小麦袋を開けると、「ややっ! なんだ、これは!」と、三流役者もかくやというわざとらしさで叫んだ。


「石だ! 小麦の中に石が混ざっとる!」

「小麦の中に石? そんなはずないわ!」

「見ろ! あんた、中身も確認せずに持ってきたのか!」


 うろたえたように反論したマリーに、スワンはますます得意げになり、袋の中の小麦と石をすくって、マリーに見せた。

 そこでマリーは真顔になった。


「いやだ、スワンさん。何したんです?」

「わ、わしだと? わしが小麦の中に石を入れたと言いたいのかね?」

「いいえ、石じゃなくて小麦の方です。小麦なんて入れてないんですよ、スワンさん」

「は…?」


 マリーはすぅっと息を吸いこむと、大声をはりあげた。


「ジャック!」


 それを合図に、バンッ! と粉問屋入り口ドアが開き、ジャックと十人以上の村の男たちがいっせいに店内になだれこんできた。

 ジャックは店の奥へと走る。


「なんだ、おまえらはっ」

「あたしたちは小麦なんて入れてない」


 慌てふためくスワンに、マリーは言った。スワンが開けなかった袋を開け、中身をひとすくいする。

 出てきたのは、ピンク色に染められた小石。


「あたしたちが袋につめたのは、このピンクの石だけだよ!」


 マリーが叫んだとき。


「あったよ、マリーさん!」


 ジャックが小麦袋を持って戻ってきた。

 その中身をぶちまける。自然には存在するはずのない、ピンクの石が床にばらまかれた。


「そう、この石ですわ! これが店の奥にあったということは、この小石入りの小麦は、スワンさんが店の奥に用意しておいたものと、魔法で中身だけ入れ替えたということじゃありません?」


 マリーが言うと、スワンはへなへなとその場に座りこんだ。

 ジャックは飛び上がって喜び、村人たちは互いの手をたたき合って作戦成功を喜んだ。

 そこへ。


「ふ、ふざけるなあっ…!」


 しゃがれた怒声が響いた。

 白髪の、年老いた魔法使いだった。彼は壁に手をつき、よたよたとやってきた。

 そして、魔法石のついた指輪に手をかざす。


「危ないっ!」


 マリーは、老人魔法使いの一番近くに立っていたジャックの前に走りこんで、顔の前で手をクロスさせた。


 ところが、魔法攻撃は来なかった。

 代わりに感じたのは、ほとんど不発に近かった、些少な老人の魔法を塵芥のように呑みこんだ強い魔法だった。


「うわああああっ」


 老人がもんどりうって床に倒れた。


「これは魔法返し…!」


(まさか、ブラウン・イーグルってやつ…!?)


 ジャックに聞くまで名前こそ知らなかったが、マリーも、国王方に魔法使いダグラスと同等の魔力を持つ魔法使いがいることは知っていた。

 彼はまだ十代と若く、五十代のダグラスには技量で劣るものの、若手の中ではトップクラスの実力者だという。


(そんなやつに見つかってつかまるなんて最悪……だけど、さっきの魔力量はそいつ以外考えられない…!)


 マリーは、店の入り口をふりかえった。魔法返しの発動点が、店内の距離ではなかったからだ。

 開けっ放しだった入り口に、新たな影が現れた。


「遅くなって申し訳ありません…!」


 入ってきたのは、栗色の髪と瞳で優しげな面立ち、洗練された都人の雰囲気を持った長身の青年だった。


(え……? 魔法使いじゃない……)


「魔法不正監査局のクリストファー・アンダーソンです」


 青年はさっと店内を見回すと、よく通る声で名乗り、身分証を示した。


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