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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
第十章 ムーンストーンの娘
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2 マリー×ケント×ダグラス #マリー

 ケントは、地面の上にあったムーンストーンの首飾りを拾うと、マリーの首にかけてくれた。


「あの、これ、あたしのじゃ…」

「シェイド市の宝石屋で、きみに似合うように加工してもらったものだから、きみのだよ。それに…きみは自覚してないんだろうけど、さっきの瞬間移動は、この首飾りのムーンストーンを使って実行したんだ。きみが今までやってきた方法では、瞬間移動できなくなってるから」

「そうなの?」

「きっと、何かの助けになるから」

「うん…ありがとう」


 マリーは涙をふいて、ぎこちない笑みをケントに向けた。


「行ける?」


 マリーを気遣う、ケントの問い。

 マリーは、胸の前でギュッと手を握った。

 覚悟が必要だった。

 思えば、コールライトを封印してから、ずっとダグラスから逃げてきたのだ。

 もう一度、ダグラスに立ち向かう。

 誰よりも大切な人と一緒に。


 迷いがないといったら嘘になる。

 怖くないなんて言えない。

 自分の『声』がダグラスに届かないことは、骨身にしみている。


 だけど。

 マリーがこの場で自害したって、ケントとダグラスの対決は避けられない。たぶんケントは………保身を捨てて単身ダグラスの眼前に行くような、無茶をする。


「うん…連れてって」


 マリーは言った。


 ケント一人にすべてを背負わせたくないから。


 ふわりとケントのぬくもりに包まれた。

 彼の腕の中で聞く魔法の呪文は耳に心地良く響いて、マリーは、この人のことが好きだと、改めて思った。


  *


 ふっと体が浮く感覚がして、まわりの景色が変わった。

 森の中から、巨大な四角い建物の屋上に。

 夜の闇の中、本来なら建物の全容など見えないのだが、建物全体にかかる魔法呪文が、ほの明るい照明がわりになっていた。


「………魔法が封じられたな」


 そばで、なんでもないことのようにつぶやかれた言葉に、マリーはギョッとした。


「え? それってヤバくない?」

「話し合いに来たわけだから、別にいいんじゃないか」

「いいわけないでしょ!」


 平然としているケントに、マリーはくってかかった。


「やっぱり戻ろう?」


 魔法が使えないなんて、不利すぎる。


「飛行魔法も瞬間移動の魔法も使えないからムリ」

「そんな!」

「ようこそ、我が城へ。ケント・ブラウン」


 かすれた声がして、マリーはハッとした。


 数歩離れた場所にダグラスが現れて、立っていた。

 短くかりこんだ白髪。不健康にくすんだ肌。異様にギラギラとした眼光。

 彼をとりまくオーラは、一年前よりも黒くなっているように見えた。

 やはり、駄目だ。

 もはやどんな言葉も、彼に通じるとは思えなかった。


「…マリーも。よく来たな」

「あたしは…」


 あなたを止めるために来たのだ。

 その言葉を言いよどんだマリーの横から、ケントが声を上げた。


「ダグラス。今日は話があってきたんだ」

「ほう。敵軍のエースが、わしとなにを話す?」

「マリーを…お嬢さんを俺にください。お願いします」


 ケントはそう言うと、ペコリと頭を下げた。

 マリーは、頬のほてりを意識した。

 自分の好きな人が、自分の父親に、結婚のゆるしをもとめて頭を下げてくれている。

 こんなときでも、それは心をくすぐった。


「それは、わしの跡を継ぐ決心をしたということでよいのかな。すなわち、国王を倒し、わしがこれから作る王国を継ぐと」


 ダグラスは、探るように言った。


(跡を…継ぐ…?)


 予想外の言葉に、マリーはケントを見た。


「そうじゃない。俺は俺のやりかたで、マリーを守る。今の政権のもとで。だから、兵を引いてくれないか。この戦いは無意味だ」


 ケントは、強い決意を込めた瞳で、声で、言い切った。


「今の政権のもとで、だと? おまえは国王のもとで庇護されてきたから分からんのだろうが、いくら忠義を尽くしても、やつらは一瞬で手のひらを返す。だからこそ、自分が天下をとるしかないのだ。頭を冷やしてよく考えろ」


 ダグラスは激昂すると、パチンと指を鳴らした。

 その瞬間、ケントの姿が消える。


「ケント!」


 突然の現象に、マリーは悲鳴を上げた。

 その場で呪文を唱えて魔法を使おうとすればマリーが気付いて阻止する。そう学習した父が、あらかじめ指鳴らしで発動する魔法を仕込んでいたのだ。


「……パパ!」

「にらむな。殺しはせぬ」


 そう言うと、ダグラスはじっとマリーを見つめた。

 そのまなざしの奥に、昔と変わらないあたたかさを見つけて、胸の奥がざわりと震えた。


「美しい娘に成長したな、マリー。おまえの魅力で、わしの後継者となるようケントを説得しなさい」

「どうして……? パパはケントを後継者にしたかったの?」


 状況理解が出来ないマリーは、父にたずねた。


「そうだ。あやつほど、他人を守護する魔法ばかり研究してきた魔法使いを、わしは知らん。魔法使いとしてまだ若すぎるが、これからの伸び代も含めて、おまえを託す相手として、あいつが一番望ましいと思っておった」

「あたし………?」

「おまえは、わしに反抗しているつもりで、父が見込んだ男に惚れ、わしに国王を倒す好機をあたえてくれたのだよ。わしらは充分、わかりあえておる。そうは思わんかね?」

「────!」


 マリーは、よろりと、よろめいた。


 ずっと、自分のことは口実で、父の本当の願いは覇権なのだと思っていた。

 だから、恨んだ。

 でも、そうじゃなかった。

 父にとっては、『王になる』ということが、唯一、純粋にマリーを守る『手段』だったのだ。


「ケントは……どこ?」


 マリーは、消えいりそうな声で言った。

 なんとかケントを解放しなければ。

 そう思った。

 しかしダグラスは、嫌な笑みをうかべた。


「まずは…休みなさい」


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