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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
第九章 魔法使いダグラスの罠
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8 事件協力者サンドラ #ケント

「ねえねえ、犯人、分かったんでしょ?」


 マリーを置き去りにケントが歩き出したあと、サンドラが言った。

 ケントはぶっきらぼうに「ああ」と答えた。


「なによ。マリーが見えなくなった途端に怖い顔しちゃって。近づくなって言ったのも安全のためでしょ。あーあ、あたしはどうなってもいいのね」

「そうだよ! きみがどうなろうと、因果応報だろ!」


 イライラをぶつけるようにケントが言うと、サンドラは呆れた顔をした。


「あんた、本当にバカねえ。少しはオブラートに包んだらどう? あたしの情報が欲しいんでしょ?」

「ええと…ごめん。情報もそうだけど、俺は魔法以外のことは色々と駄目なんだよ。だから──協力してほしいんだ。きみは度胸もあって、頭の回転も早いだろ」


 ケントが素直に協力を要請すると、サンドラは「あら」と、満更でもない顔をした。


「いいわよ。そこまで言うなら、協力してあげる」


 意外にも、嫌味や邪悪さのない微笑みを浮かべ、サンドラは言った。


  *


 さっきまでいた宿に、ケントとサンドラは戻った。


「犯人は、ハーマン・マクネリー。Bランク魔法使いだ」

「あ、知ってるわ。残虐な殺し方が好きで、有名になった奴よね。たしか首にかけた縄を魔法で持ちあげて殺した事件もあったはずよ。最近、名前を聞かなかったから、存在を忘れてたけど」

「そうなのか?」

「あら? マクネリーのこと、知ってるから、あんな遠目で分かったのよね?」


 ケントとサンドラは、魔法を察知して駆けつける途中、空を飛び去っていくマクネリーの姿を見たのだ。


「俺の父を殺した奴だから分かっただけだ。父から聞いた話以外は知らない」

「ああ! 高ランク魔法使いに父親を殺されて、その後、七歳のあなたが反撃してやっつけたってやつ。あれ、マクネリーだったの」

「ちょっと違うけど。結局、奴は逃げたし」


 それはケントが、王太子やクリスと出会う前の話。

 父は、マクネリーの舎弟として悪事に加担したのち、横暴なマクネリーに嫌気をさし、彼を裏切って逃亡。マクネリーから命を狙われることになった。

 父がケントを保護施設から略取したのは、ケントが六歳のとき。そこから約一年、人里離れた山小屋で父と二人きりの生活をした。

 ろくな食事も与えられず、練習魔法に失敗すると暴力をふるわれた。そしてついに現れたマクネリーの前に、ケントは引き出された。


「でも、それで、片付けることにしたのね。マクネリーって、目をつけた相手はとことん追いかける粘着質なタイプなんでしょ?」

「うん。どこで何がつながるか分からないし、俺は奴に嫌われた人間だから、念のため排除しておきたい」

「念のため? 拘束の魔法から、マリーとあんたのつながり、もうバレてるんじゃないの?」

「いや、バレてたら、その場で殺すか連れ去るかしてる。奴は単細胞なんだ」


 ケントにつながる女性だと思わなかったからこそ、マクネリーはマイクの過大反応だけで満足し、その場の興に乗った気分のままに、マリーを見逃がしたのだろう。


「…まあ、七歳のあなたが追い払えたくらいだものね」

「追い払ったのは魔法使いダグラスだ」

「え? どういうこと?」


 サンドラに驚かれて、ケントはハッとした。

 しかし、うっかり口を滑らせてしまったものはどうしようもない。


「あー、父が俺にもたせた魔法石はしょぼくてさ、マクネリーには全然効かなかったんだ。返り討ちにされそうになったところを、父が俺の代わりにマクネリーの魔法を受けて死んで」

「ちょっと待って」

「ん? どうかしたか?」

「あんた………ううん、なんでもないわ。続けて」

「ええと、そこにダグラスが来たんだ。子ども相手に何やってる、ってさ。強い魔力による直接攻撃を繰り返してたら、そこそこ広範囲に伝わるしな」

「つまりマクネリーは、自身の考えなしな魔法攻撃で、ダグラスや王太子一行を呼びよせちゃったわけね」


 ダグラスがマクネリーを追い払った直後に王太子一行が来て、その時すでに逃亡者だったダグラスは逃げ、ケントは王太子一行に保護されたのだ。


「それより、国に自分でマクネリーを追い払ったなんて証言したのは、ダグラスをかばったのよね?」

「そのときの俺には、命を助けてくれた恩人だったから」


『Aランク魔法使いは都にいて、国に完全管理されていないといけない』


 同じAランク魔法使いとして、そのことを知っていたケントは、ダグラスに不都合がかからないよう、助けられたことを話さなかった。


「ちょうどマクネリーが落としていった、そこそこの魔法石を拾ってたから、筋も通ってさ。マクネリーは王家もダグラスも嫌って近寄らないけど、ダグラスを嫌う原因を作ったのは俺なんだ」

「さすがのマクネリーも、王家やダグラス相手にケンカは売らないのね。そういえばさっき、サジッタ一座に帰れって言ったけど、あのコ、サジッタ一座の座員だったの?」

「いや、なんていうか、マリーが仲良くしてる女性がそこの座員なんだ。ところで、そろそろきみの持ってる情報、聞いてもいいかな?」


 さすがは口八丁の詐欺師。サンドラに乗せられて話が脱線しまくりだと気付いたケントは、本題に戻すべく、言った。

 ところが、そこでサンドラは急速にテンションを下げた。


「ねえ、お腹すいたわ」


 あからさまに話を逸らす。


「はい?」

「お腹もすいたし、今日はもう疲れちゃった。あたしの持ってる情報、マクネリーの居場所なのよ。だから明日にしましょ」

「いや、今、言えよ」

「それで? 今から行って、マクネリーを片付けて、国王軍に合流? やめた方がいいわ。寝不足を溜めこんだ顔してるじゃない。マリーが寝ている間に本来の仕事して、ほとんど寝てないんでしょ?」

「いや、監査局の仕事からは解放されてる」


 このところのケントの夜更かしの主な原因は、マリーにかけ直す魔法の術式の構築だ。それから、性の暴走と、マリーとの星見。


「ふうん? まあ、原因はなんであれ、休めるときに休んで英気を養うのも、負けないコツよ。ちょうどオススメの宿があるのよ」

「つまり、タダではしゃべらない、と?」

「話が早くて助かるわ」


 サンドラは欲でいっぱいの笑みを浮かべた。


(これがダグラスの罠なら休んでる場合じゃないけど。単細胞なマクネリーは居場所さえ分かれば、すぐに押さえられるから……まあ、いいか)


 その後、サンドラは、最高級の贅沢宿をリクエストした。


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