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嘘でつないだこの手を、もう少しだけ  作者: 野々花
第九章 魔法使いダグラスの罠
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4 事件捜査 #ケント

 さて。

 マリーをイライザのもとへ送り届けたケントは、カジノ長者のマイクと一緒にカジノ客大量殺人事件の対策本部を訪れた。


 そこで手に入れた情報は、

・狙われた者は護衛を含め全滅。

・生存者三名が入院中。

・魔法使いダグラスと王家の全面戦争勃発で救援が望めない。

 この三点だった。


 対策本部は混乱し、まともに機能していなかったため、ケントは次に、生存者の入院する病院に向かった。


 病院で聞き込みをした結果、生存者は一人でいるところを襲われた、という情報が得られた。

 しかし、当事者は全員、極度の恐怖に気が触れていて、話をしてくれたのは病院スタッフだった。


「魔法使いの特徴は分からなかったな。くそっ」


 病院を出たあと、ケントは毒づいた。

 被害者は全滅か発狂者しかいないなんて、手がかりがなさすぎる。

 マイクを襲いに来てくれるのが一番手っ取り早いのだが、そんな気配もない。


(ん? 待てよ。一人で街を歩いてる奴がカジノ客かどうかなんて、どうやって見分けるんだ? マイクを視ても、魔法の印とかついてないし…)


「なあ、マイク」


 ケントは足を止め、マイクに向き直った。


「は、はい?」

「一人でいたらどうだ」

「はぁっ!?」


 とんでもない提案に、マイクが叫んだ。


「びくびくして、誰かに守ってもらおうとするからカジノ客だとバレる。さっきの生存者たちも一人でいたみたいだが、犯行初日、場所もカジノの近くだ。今なら一人で堂々としてる方が狙われないぞ」

「む、無責任なこと言わないで下さいっ」


 ケントは理路整然と説いたつもりだったのだが、なぜかマイクは怒った。

 いつものことながら、相手の怒るポイントが分からない。


(だが、今はこいつの納得なんてどうでもいい。一刻も早く、国王軍に合流しないと…)


「嫌ならほかをあたれ。俺はやるだけのことはやった。じゃあな」

「ままま待って下さいよ、せめて対策本部まで一緒に…」


 踵を返したケントに、マイクが追いすがってきた。

 とことん甘ったれた奴だな、とケントはイラっとした。


「ついてくるな」


 ケントはマイクをギロッと睨みつけた。

 マイクは、ひぃっと悲鳴をあげ、ケントから逃げていった。



 マイクの姿が見えなくなったところで、ケントは息をついた。


(マリーには悪いけど、全部解決したと嘘を言おう。全面戦争はあさって。今、マリーと戻るなら、都だよな。いや、念のため、聞いた方がいいか?)


 ケントはふところから紫色の魔法石フローライトを取り出した。


「ねえ、それ、王家が管理してる魔法石よね」


 ふいに至近距離でかけられた声に、ケントは心底おどろき、石を落としそうになった。

 いつのまにかサンドラが、ケントの横にいた。

 道端で貴重な魔法石を取り出すことも、自分の考えに没頭して周囲が見えていないことも、ケントの落ち度なのだが。


「お、おまえ、なんでっ!」


 ケントは、サンドラから離れるように後ずさり、叫んだ。

 サンドラは、悠然と微笑み、ケントの真正面に立った。


「あたしね、視る目がいいの。魔法石に関しても石の鑑定士になれるレベルよ。それに、人の顔を覚えるの得意なのよ。実はずーっと引っかかってたのよね、あなたの顔。さっきのマイクを睨んだ顔と、その魔法石で確信できたわ。魔力のオーラを消せるなんて、さすがはブラウン・イーグル様ね」


 サンドラが言った。


「な、な…」


 国家機密を言い当てられ、ケントの頭は真っ白になった。


「な…にを言ってる。俺がブラウン・イーグルなわけないだろう。全面戦争が始まるんだぞ」


 焦り、空回る頭を叱咤して、なんとか誤魔化し文句をひねりだす。


「たしかに、こんなところにいるなんて、おかしいわね。でもあたしねえ、長く都にいたから、これでも事情通なのよ。都ではずっと怖い顔してたわよね。恋をしてここまで顔つきを変えられたら、お堅い保護者様も融通利かせてあげたくなる気持ち、分かるわあ」

「だから、勝手に話を作るなっ」

「全部事実でしょ? ケント・ブラウン」


 にっこりとフルネームを呼ばれて、ケントは返す言葉を失った。


(うん、相手にしたのが間違いだった。無視だ、無視)


 ケントはサンドラに背をむけ、すたすたと歩き出した。


「ねえ、ヒント、あげましょうか?」


 サンドラは、当然のように、ケントの後をついてきて、話しかけてきた。


(答えたら負け、答えたら負け)


「この街の事件解決のためのヒント。あたし、見つけちゃったのよねえ」

「いらない。マイクも追い払えたし、俺はマリーと都に戻る」


 思わず答えてしまい、ケントはハッとした。


「ふぅん? ブラウン・イーグル様はマリーを連れて都に帰るんだ? 瞬間移動って便利ね?」


(ああくそっ)


 もうお手上げだ。


「………好きな額を言えよ」


 ケントは言った。

 強請りたかりの好きな詐欺師を追い払う一番の近道はこれだと思った。

 ところが。


「わぁお! 気前のいい男って好きよ。でも、残念。あたしの一番好きなものはお金じゃないの。人を痛めつけることなの」


 サンドラは喜劇役者のように、大仰に感嘆の声を上げたあと、口をすぼめ、母親が子どもに世の理を言い含めるような顔を作って──鬼畜なことをのたまった。


「今回の犯人、おまえじゃないのか」


 思わずケントがこぼすと、サンドラは心底嫌そうに顔をしかめた。


「やめてよ。殺しはあたしの美学じゃないわ。豚は生かさず殺さず、いたぶりながら貢がせるのがいいんじゃない」


(いや、それ、今回の犯人よりヒドくないか?)


「ねえ、ここで立ち話もなんだし、人目も避けたいから、宿に行きましょうよ」


 サンドラが、さも良い提案を思いついたかのように言った。


「それもそう……じゃない、俺は今すぐきみに目の前から消えて欲しいんだが」

「あら、ひどい。じゃあ、あたし、今からいろんな場所に行って、ブラウン・イーグルが黒髪の女の子に入れあげて、全面戦争ボイコットしてるって…」

「行けばいいんだろ!」


 売り言葉に買い言葉。ケントはつい叫んだ。


  *


 宿の部屋に入ったところで、ケントは以前、サンドラを宿に送って迫られたことを思い出した。


(あ、やばい)


 また同じ失敗をしたのでは。

 焦るケントを尻目に、後から入室したサンドラはドアを閉め、鍵をかけた。

 ケントは逃げ出したい気持ちで、思わず窓際に寄った。


「そんなに警戒しなくても、その気のない相手を襲う趣味はないわよ」


 サンドラはそう言って、距離をつめてはこなかった。

 そして。

 意外なことに、色気はまったく見せず、真面目な起業家然とした顔で言った。


「単刀直入に言うわ。あたしと組まない?」


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