光術能力
4110回目の世界になる前の時点で、既にメビウスは光術能力を作製していた。だが、その説明をするつもりは全く無く、そんな事をしている時間があるのならば、魔力について色々と調べていた。
「やっと見つけた! アンタ何自分の情報だけ隠蔽しようとしてる訳?」
「こういうのは様式美ってやつだろ?」
メビウスは面倒な存在に絡まれないように、隠れて研究していた訳だが、とうとう、厄介者、イニシエンとレアルによって発見されてしまった。追い出したいところではあるが、そうしたところで、意味はないと気分を害しながらも、諦める。
「貴様ら……、私は調べるべき事が多くある、暇では無いんだ。光術能力の事だろう、手短にしてくれ」
「そう、それだ。光術能力ってどうなってんだ?」
「アタイも、アンタの創造の権限が絡んでる能力になると思ってたんだけどさ、あれって関係ないよね?」
メビウスの、創造する権限、宣言名アイン・ソフ・オウルは能力に流用するには、制限が厳しすぎる力。何しろ、個人で扱うことの出来ない力なのだから、こういう場合には不適格と言うしかない。
「光術能力は、私の結界を流用している」
「お前の結界ってさ、それ自体意味の解らないものだよな」
「簡単だ。内部が外部を否定し、遠ざけ、阻む力。それを特定の条件下において、制御する事によって、結界は有効活用される」
「ホント、アンタはどうやってそんな力引っ張り出してきたんだか」
メビウスの結界は、管理者共通の世界へ干渉する権限の中の、空間を扱う部分と、精神力を司る権限の、内側へと向かう力を外部への拒否と転じさせて、形にしている。更に、創造する権限を使うことによって、更に強固にする事も可能だ。
「光術の本質は、外部への拒否だ。外に心が交ざらぬように、外からの影響を遠ざける」
光術能力は、結界の要素の中の、外部への拒否を利用している。典型的なものは障壁を張る能力となるし、死を遠ざけるという意味で、癒す能力も存在している。
「よく解らないが、守りの力なんだろ? 最近は争いが激化する事も多かったし、ちょうど良いんじゃないか?」
「アンタは単純化だよね。偶然とかじゃなくて、あえてそういう能力にしたんじゃないの?」
人間が能力を得てから、争いが激化するようになった。エンシェントはこの事を危惧し、能力に制限をかけることを考えているようだが、メビウスは守りに特化した能力を創ることにした。
「争いを加速させる立場の貴様らには言われたくないが、能力の登場だけが、争いの激化に関係するとは思えない」
「そっか、あのダメ竜の事もあったね」
争いを抑制する筈のフォルフルゴートが居なくなった。代わりを白竜リアがしているらしいが、どうしても他のドラゴンを制御しきれていない。ドラゴンが人類共通の敵となり、争いを抑制させる為の仕組みが働いていないのだ。
「これからどうなっていくのかは解らない。だが、動きを止めることはできない。ならば、受け入れる方向性で動いた方が良いだろう?」
「そうだね、アタイもドーカン。どうせ魔力は消費してもらわないといけないんだし、制限する方向で動くのは効率的じゃないよね」
「ハッハッハ! つまり、人間の未来はひらいているって事だ! 能力という存在は、新たな可能性になるだろうな!」
「イニシエン、アンタはちょっと楽観的すぎない?」
それぞれ思うところはあるものの、エンシェント以外の管理者は能力に寛容とも言えた。どうなるにしても、必用なことであったからだ。