技術能力
3992回目の世界にて、再度三体の管理者が集まっていた。この中で一番最初に能力を設定したのは、無駄に行動力の溢れるイニシエン。何の勝負だか知らないが、一番を狙っていたらしい。
「ハッハッハ! 俺が一番だったな!」
「アタイがその気になれば直ぐ作れたけど、勝ちを譲ってあげただけなんだからね」
「おいおい、お前は勝ちを譲るような奴だったか?」
この二人に話を任せていたらいつまでたっても終わらない。話が終わらないという事は、この場に拘束され続けるという事だ。それはどうしても避けたいメビウスは、仕方ないとばかりに話題の矯正に入る。
「貴様ら、余分な話は終わりだ。今話題にするべきなのは、能力についてだろう?」
「そうだな、俺の創った技術能力について解説してやろう!」
どうやら、イニシエンは機嫌が良いらしい。自分で創った能力を自慢したいようであるが、メビウスもレアルも、そのおおよその部分まで把握している。一応、確認しておく程度に過ぎないのだ。
「アタイはおおよそ把握してるんだけどね。メビウス、アンタもでしょ?」
「おいおい、冷たいことを言うなよ」
「ならば話を進めろ、貴様の権限が影響しているのだろ?」
エンシェントの創った呪文能力は、火を生み出す、雷を放つ、爆発を起こすといった、自然現象に依るものが多いが、イニシエンの創った技術能力というのは、剣を振るったら衝撃波が飛ぶ、ハンマーで地面を叩いたら局地的な地震が起きるといったもの。その違いは、制作者の持つ権限の違いでもある。
「それを言うなよ……。そうだ、俺の道を繋ぐ権限、アブソリュート・コネクトが元になってる。原因を結果に繋ぐ力だ」
イニシエンの道を繋ぐ権限というものの本質は、原因と結果を繋げる力とも言って良い。普通に考えれば剣を振って衝撃波だとか、ハンマーで地面を揺らすなんて事は出来ない。だが、その行動を強引に結果に繋ぐのが、この権限である。因みに、アブソリュート・コネクトというのは、この力に付けられた名前であり、宣言名とも言われたりするが、力を知らしめる以上の意味はない。
「それで、呪文みたいに詠唱する必用は無くなったけど、代わりに結果を出すための行動が必要になったって事だよねー」
「お前も俺の言いたいことを言うんじゃねぇよ……」
この能力によって結果を出すためには、その原因となる行動をしなくてはならない。つまり、言葉さえ発せられれば使える呪文能力とは違い、技術能力は、その行動がとれないようになってしまえば発動が出来ないという事。もちろん、呪文能力も、口を塞がれれば発動が出来ない。
「あれだね。一長一短って感じ?」
「どうすんだよ。俺の言うことが無くなっただろうが」
どうやら、イニシエンは自分で説明する事が出来なかったのが不満であるらしい。機嫌悪そうにレアルとメビウスに視線を向けるが、それで動じる二人では無い。
「まぁ、アタイは技術能力もった人間の腕を切り落としたりして、実験してたからね」
「お前は! 俺の民になにしてんだよ!」
レアルのとんでもない発言に、イニシエンはつい声を荒げてしまう。能力の解析をするためなのだろうが、この部分が二人の相容れない部分でもある。
「代わりに、もっと役立つ腕をあげたし、別に良いじゃん。アタイとしては、腕を失って能力を発動出来なくなったのは想定内だけど、義腕をあげたら能力が変化したことに興味があるなー」
「そうだよな、お前はそういう奴だよな」
イニシエンはレアルを睨み付けて、敵意を持っているように見せているが、内心は諦めている。そういう性格と言うのもあるのだが、在り方としてはある意味正しいのだ。
「アタイに暑苦しい視線向けないでよ。あっ、そーだ! ねぇねぇ、どうせアンタは肉体を自由に変化させられるんだから、もっとスタイリッシュになっても良いんじゃない? もういっそ小さい女の子とかになってみたら、ギャップで笑い死ぬ、じゃなくて、無い腹筋も崩壊する、じゃなくて」
「お前は俺で遊びたいだけだろうが……。それに、俺は肉体を別けてから、変化する度に弱体化するんだよ。勘弁してくれ」
とうやら、またもや話題のみちすじが迷子になっているらしい。謎の言い合いを続けるイニシエンとレアルに、メビウスはうんざりした表情で終わりを告げる。
「貴様ら、話は終わりだ。後の話は私の居ない時にしてくれ」