呪文能力
「急に呼び出すなんてどうしたんだ?」
3869回目の映写機世界、あの惨劇から時は経ったが、まだ世界は立ち直ってはいない。管理者達はどうにか安定させる方法を試している段階に過ぎなかった。そんな中、管理者の一体、レアル・グリードは、他の管理者である、イニシエンとメビウスを呼び出していた。
「ほら、ちょっと前の世界辺りから出てきてた、呪文とか言う人間の力、とうとう世界に認識されたみたいだねって」
「まぁ、あの流れならそうなるだろ」
世界に認識されるというのは、その世界にとっての常識となり、それがあって当たり前という事になるわけだ。ただ、レアルからしてみれば、イニシエンがあっけらかんとしている事が不思議で仕方ない。
「あれ? イニシエン怒らないの?」
「何で俺が怒るんだ?」
どうやら認識の食い違いがあるようだ。レアルとイニシエンに無理矢理連れてこられ、口を閉ざしていたメビウスが、見ていられないとばかりに説明する。
「呪文の件はエンシェントの差し金だ。貴様は、どうせ気づいていなかったんだろう?」
映写機世界は、魔力と名付けた異常な力が満ちた事によって、崩壊に至ってしまった。世界が何度も生まれ変わろうとも、魔力は消えず、少しずつ増えていく。故に、人間の中に魔力を封じ、それを少しずつ消費させ、緩衝材のようにして、世界への負担を和らげる目的であったのだ。
「あいつ、そんな勝手な事をしてたのか!」
「もしかしたらとは思ってたけど、やっぱり気づいて無かったんだ」
イニシエンは、人間の中に魔力を封印することでさえ反対していた管理者であった。その為に、世界の仕組みの中に組み込むような所業に対し、怒ると考えたのだ。エンシェントも、その可能性を踏まえ、独自に動いたのだろう。
「世界に認識された以上はどうしようも無い。だが、勝手な事をされたのは気に入らないな」
因みに、レアルが今まで言わなかったのは、人間が新たな力を得る事を楽しみにしていたからだ。イニシエンも、その部分は歓迎するのだが、世界の為に人を利用するという事実が気に入らないだけだ。
「そこで! アタイは考えた! エンシェントの考えた呪文なんて言う利便性の欠片のない力の変わりに、アタイ達も力を作ろうと!」
「ほう? 面白そうだな!」
エンシェントは魔力を現す言語、プロテク・コード、魔力を制御する言語、シール・コードを作成した。そして、この二つを組み合わせた根元と呼ばれる回路のようなものは、魔力を消費して特定の現象を起こす、力の大元だ。その根元の規格の一つとして、呪文が誕生したのだが、他の規格を作ってしまおうという訳だ。
「ていうかさー、呪文とかかなり手抜きじゃん。アタイならもっと凝った能力作るけどなー」
この呪文と呼ばれる能力、シール・コードをそのまま言葉にすることで、それに準じた現象を起こすことが出来るというものなのだが、やっている事が今までの権限の行使と大差ないのだ。
「それで? どうするんだ?」
「対応させられるプロテク・コードは全部で12だから、あのダメ竜を除いて、三種類づつ考えようよ」
レアルの言うダメ竜というのは、中立の管理者フォルフルゴートの事である。ある事件以降姿を見せなくなり、その代わりに白竜リアが動いているのだが、ただのドラゴンに管理者の制圧が出来る筈もなく、他の管理者の動きを抑制するというシステムは破綻している。
「ハッハッハ! 面白そうだ! 俺が驚くようなやつを創ってきてやるよ!」
「こういうのは、アタイの得意分野だもんね。絶対に負けない!」
一体何と戦っているのかは不明だが、レアルとイニシエンは勝手に話を進めて、勝手に決めてしまっている。結局のところ、一番振り回されるのは神聖の管理者、メビウスなのであった。
「私を勝手に巻き込むな……と言いたいが、貴様らに勝手をされるよりは、良い方だ」
「じゃあ、メビウスも納得した所で、エンシェントの所に説明しに行こっか」